テラーノベル
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あれから何度か”気持ち良いこと”をした。
岩本はいつも優しいし、阿部も”気持ち良いこと”をするのは好きだ。けれど、いつもそこまでなのだ。阿部はいつも最後までする覚悟でいるが、何故だか岩本は途中でやめてしまう。気を遣っているのかもしれないが、阿部の中には小さな不満が生まれていた。
朝7時。
先に起きて身支度を整えた阿部は、まだベッドの中にいる岩本を起こそうと、寝室へ向かった。
「ひかる〜」
声をかけてカーテンを開ける。
「朝だよ、ひかるぅ」
ベッドサイドに座って呼びかけると、岩本はもそもそと身じろぎした。
「相変わらず早いね、阿部は…」
布団の中から眠たそうな声がする。
「…おいでよ」
布団の端を持ち上げ、そう誘った。
「もう〜」
阿部は苦笑しながら、するりと身体を滑り込ませる。
「今日は、ひかるのオススメの中華粥の店で、朝ごはん食べるって約束したのにぃ」
「ん。行くよ。だから後少しだけ…」
胸元に顔を寄せて阿部が言うと、岩本は彼をぎゅっと抱きすくめた。
岩本の体温と鼓動を感じる。
「昨日も…可愛かった」
まだ、半分寝ているような口調で、岩本が言った。
「…俺って、ひかるにとって可愛い?」
阿部は抱かれたまま聞き返す。
「うん…」
「ならさ、…何でいっつも最後までしてくれないの」
小さな不満が、つい溢れでた。
岩本は何も答えない。
顔を見ると、彼は困ったような顔をしていた。その表情に、阿部は軽く傷付く。
「……俺とは、別にそこまでしたくないって事?」
意気消沈して言った。
そんな阿部の様子に岩本は慌てる。
「違うし!毎回、抱き潰したいくらいに思ってんだよ」
それは本当の事だ。昨日だって本音は、あのまま続けたかった。
「じゃあ何で?」
阿部が至極真っ当な質問をする。岩本は一瞬の間の後、
「阿部に無理させたくなくて…」
そう告げた。
「痛い思いとかさせたく無いし…そうまでしてしなくてもいいかなって…」
なだめるように髪を撫でる。阿部は腑に落ちない顔をしていた。
「そんなの気にしなくて良いのに」
不満げに小さく言う。
「じゃあ、痛いとか怖いとか言わないし、絶対泣かないから、それなら良い?」
そしてそう尋ねた。
しかし岩本は言い淀む。
「………嫌なんだね。わかった」
阿部は低く呟いて、ベッドから出た。拒絶された悲しさと、悔しさとが湧き上がる。
「帰る」
小さく言って寝室を後にした。
「阿部、待って」
岩本は跳ね起き、もつれる足で阿部を追った。
「待てって!」
荷物を持って出て行こうとする阿部の腕を掴んで引き留める。
岩本を睨んだ阿部は、目に涙を溜めて、それでも泣くまいと口を真一文字に結んで耐えていた。
それを見て岩本は、罪悪感に襲われる。そして心情を上手く伝える語彙力のない自分を呪った。
「違う…嫌とか、そんなわけ無い。俺は阿部のこと大事で、愛してるから、だから」
言いかけて口をつぐむ。
阿部の目の端から一粒涙が溢れ、頬を伝う。
胸が締め付けられる。独りよがりな感情で、結局は阿部を泣かせた。
「俺は、愛してるから、ひかるとちゃんとしたかった。ひかるは、違うの?」
泣き出さないように堪えながら、阿部は言葉を搾り出す。
「っ…違わない。阿部と同じこと思ってる」
そう。同じだった。
けれどそれを実行に移す事によって、”自分が”罪悪感を抱きたく無いから、阿部の気持ちを思いやる振りをした。
「ごめん…俺、自分の気持ちばっかりで…」
懸命に言葉を探す岩本。
そんな彼の言葉を遮って、阿部はそっと顔を寄せ口付けた。
「…ひかるが、ちゃんと愛してくれるなら、多少の痛いことも、怖いことも、平気だよ」
阿部は目元を指で拭って、微笑んで言った。
「ひかるが相手なら、嫌なことなんて無い。俺は、ひかるに俺の全部をあげたいし、ひかるの全部が欲しい。…ひかるは?」
岩本の頬に触れ、小首を傾げる。
「俺の全部を、欲しいと思ってくれる?」
「欲しいよ…阿部の何もかも欲しい。俺だけのものにしたい」
岩本は阿部の身体をきつく抱きしめ、本音を吐き出した。
「…ひかる。もう俺に気遣うの禁止ね」
冗談ぽく笑って阿部が切り出した。
「俺は、ひかるが思うより、ずっとひかるの事好きだし、欲張りだから。だから…ひかるも欲を出しなよ」
阿部に言われて岩本は、何故阿部を抱くのを躊躇していたのか、腑に落ちた。
好きすぎて大事にしたかったのも事実。痛いことや苦しいことをさせたくなかったのも事実。だが、本当に根っこにあったのは、愛しさから欲に溺れるのが怖かったからだった。
「ほらほら、俺をもっと愛でろ」
岩本を抱きしめ返して、阿部が言う。こんな言葉で甘やかされたら、今まで以上に求めてしまうだろう。歯止めが効かなくなりそうで不安もある。それでも、感情を堰き止めなくて良いのだと思うと、晴れ晴れした気分でもあった。
「…俺に愛される、覚悟できてんの」
「ひかるこそ、俺に沼る覚悟できたの?」
2人は顔を見合わせ、笑い合った。
コメント
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おぉ!!展開の仕方が好きです💕
次はついに…!ですね!!🤭💛💚