病院の空気は、
朝の慌ただしさが少し落ち着き、
静かに午後を迎えていた。
俺はベッドに横たわったまま、
窓から差し込む柔らかい光を見つめる。
体はまだだるいけれど、
さっきの若井の優しい腕に包まれた瞬間を思い出すと、
胸の奥が温かくなる。
「元貴、起きてるか?」
ドアが開き、若井が白衣姿で
ゆっくりと入ってくる。
手には、何か小さな箱を持っている。
「うん…起きてるよ……」
声は少し弱いけれど、心はもう元気だ。
若井はベッドの横に腰を下ろし、箱を開ける。
中には、病院の売店で買った
お菓子やジュースがぎっしり詰まっていた。
「さっきの騒ぎで疲れただろ。
ちょっとした差し入れだ」
「……ありがとう、若井」
胸がいっぱいで、言葉がすっと出る。
その時、隣のベッドから涼ちゃんの声がする。
「おーい、元貴、
僕のフルーツゼリーもあるよ。
もちろん、元貴用に一つ多めだよ!」
涼ちゃんは金髪をふわりと揺らして、
にこにこと笑っている。
手にはゼリーを二つ持ってきたらしい。
「涼ちゃん……ありがとう……」
俺のベッドまで来て、そっと差し出された
ゼリーを受け取ると、
二人の優しさがじんわりと体に染みてくる。
若井は横で「俺の分も残しておけよ」
とからかうように言うが、
俺はそれを遮ってゼリーを一口。
甘さが口いっぱいに広がり、自然と笑みが浮かぶ。
涼ちゃんも「ほら、元貴の笑顔は俺の栄養だ」
と笑う。その言葉に、胸がぎゅっとなる。
昼下がりの病室は、
笑い声とおしゃべりで満たされる。
「ねえ、若井、今日も元貴に甘くしてるの?」
涼ちゃんが茶目っ気たっぷりに聞くと、
若井は少し赤くなりながらも、
「そりゃ、元貴は特別だからな」と答える。
俺は思わず「ずるい……」と小さく呟く。
甘くされすぎて、ちょっと照れくさいけれど、
それ以上に安心感がある。
涼ちゃんは肩をすくめて笑い、俺の手を軽く握る。
「まあまあ、俺もいるから心配するな」
その後、俺たちは病院の小さな庭に出てみることにした。
車椅子に座る俺を若井が押し、涼ちゃんは横で話しかける。
春の日差しが心地よく、風に髪が揺れる。
「こういう日が、ずっと続けばいいのに……」
俺の呟きに、若井は肩に手を回し、
そっと額にキスしてくれる。
「ずっと、元貴のそばにいるから」
涼ちゃんは少し恥ずかしそうに笑いながらも、
「僕もいるよ!元貴」
と手を握り返してくれる。
二人に囲まれて、
俺はこれ以上ないほど安心していた。
病院生活は退屈で孤独になりがちだけど、二人がいれば、
どんな日でも温かく楽しい時間になる。
甘くて、ちょっと笑えて、少しドキドキする。
夕方になると、窓の外はオレンジ色に染まり、
影がゆっくりと伸びていく。
俺はベッドに戻り、二人に見守られながら目を閉じる。
「今日もありがとう……」
小さな声でつぶやくと、
若井は優しく頷き、涼ちゃんも微笑む。
この瞬間、俺は確信する――どんなに体が弱くても、
二人の存在があれば、どんな困難も乗り越えられる。
窓から差し込む最後の光に包まれて、
俺は静かに、でも確かな幸せを感じながら眠りについた。
コメント
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まてまて、なぜこの神作にコメントがつかない、?