テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
爽やかな風が吹く春。
一人じゃ広い家のバルコニーの柵に肘を付きながら、コロコロと自分の手のひらでシンプルな指輪を転がす。
自分の左手の薬指には、お揃いの指輪がはめてある。
リビングを振り返ると、背中まである長い髪をポニーテールにした元気で小柄な彼が微笑んでくれることは、もうない。
もう、時間は経っているのに実感が湧かない。
今すぐにでも『実はこれ、ドッキリやねん』なんて、安心感のある低めのハスキーボイスで言ってくれることを馬鹿みたいに信じている。
目の前で、棺の中で、沢山の好きなものに埋もれて眠る彼を火葬までして、骨壺と一緒に墓の中に入れたと言うのに。
「なぁ、悠佑。 こんな馬鹿みたいなことしか考えてない俺のこと、『馬鹿じゃねーの』なんて言って、殴ってよ。」
誰かに言うように呟いたその言葉は、誰にも聞かれず、空気中に溶けて言った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
51
103
RaK
139
神楽凪恋@🍣彡受け中毒者
26