テラーノベル
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「――それでは新郎新婦より、皆様へご挨拶がございます」
司会のアナウンスが響き、披露宴会場の照明がゆっくりと落とされる。メインテーブルに立つ大橋蹴翔と、その隣で純白のウェディングドレスをまとった星蘭の姿が、スポットライトに照らし出された。集まったゲストは、あの小学校6年3組のクラスメイト全員。最前列の特等席には、あの時ボロ泣きしていた田中が、すでにハンカチを片手に目を潤ませている。蹴翔は緊張した面持ちでマイクを握り、いつもの『大人の余裕を気取るトレンディ俳優』さながらに、サッと前髪をかき上げて不敵にニヤリと笑った。
「本日は皆様、俺たちの結婚式にお集まりいただき、誠にありがとうございます。……いやぁ、小学校からの長い付き合いですが、ようやくこの日を迎えることができました」
パチパチパチ、と温かい拍手が湧き起こる。蹴翔は隣の星蘭と視線を交わすと、いつもの悪巧みを企む『最高の相棒』としての笑みを口元に浮かべた。
「さて。皆様に今日までずーーっと、実に十数年もの間、ひた隠しにしてきた『世界一うますぎる最高の嘘(おしばい)』について、ここで正式にネタバラシをしたいと思います」
「ネタバラシ?」
と、客席の田中が不思議そうに首を傾げる。すかさずマイクを引き継いだ星蘭が、あの頃と全く変わらない、いたずらっぽい小悪魔の笑顔を咲かせた。
「みんな、覚えてる? 小6の時の演劇部の発表会。劇の幕が下りた後、舞台裏から蹴翔の壁ドン告白と私の本音が、ピンマイクを通じて体育館中に筒抜けになってたあの事件」
「あーー! あったあった!」
「あの神演出な!」
と、クラスメイトたちが一斉に声を上げる。田中は
「あの音声だけのアフターストーリーの演出、マジで全校生徒が号泣したもんな!」
と興奮気味に身を乗り出した。星蘭はクスッと笑うと、ジト目で客席の全員を見渡した。
「あれね、演出でも何でもなくて、本当にただのマイクの切り忘れだったの」
「……え?」
会場が一瞬でしんと静まり返る。
「私たちが『おから始まる八文字の男子』だの『ほから始まる七文字の女子』だのって、別人の噂(小野木くんと堀内さん)に猛烈に嫉妬して、お互いに勘違いして、舞台裏でガチの口喧嘩とガチの告白をしてたのが、全部リアルタイムで筒抜けになってただけ」
「そうそう」
と蹴翔がマイクを奪い取る。
「お前らが『神演出だ!』『結婚しろ!』って号泣してヤッターめん集め始めたから、俺たち恥ずかしすぎて本当のことが言えなくなってさ。今日まで『完璧なフィクションの演技』って体(てい)で突き通してたんだわ」
次の瞬間、静まり返っていた披露宴会場に、本日一番の、地鳴りのような大爆笑とブーイングが巻き起こった。
「だまされたあああああ!!!」
「お前ら、あの涙もセリフも全部ガチだったのかよ!!」
「演出じゃなくてただの自爆かよ!!」
田中はハンカチを握りしめたまま
「俺のあの涙を返せ!!」
と頭を抱えて叫んでいる。クラスメイトたちは口々に
「相変わらず騙しの天才コンビだな!」
「いや、ただの不器用なバカカップルだろ!」
と大騒ぎだ。そんな中、高砂のテーブルの上に、司会者によって大きなガラスの器が恭しく置かれた。中に入っているのは、きれいにラッピングされた、あの頃と変わらない四角い駄菓子。
「というわけで皆様! あの時、皆様から『祝儀』として騙し取ったヤッターめんは、本日、金券付きの引き出物として全員分きっちり倍返しでお返しします!」
星蘭のちゃっかりしたセリフに、会場はまた大きな笑いと拍手に包まれる。どんなに大人になっても、二人のプロの演技派による『化かし合い』と『悪ノリ』は終わらない。だけど、大爆笑に包まれる披露宴会場の真ん中で、ゲストに見えないテーブルの下、お互いの右手の指をぎゅっと力強く、これ以上ないほどまっすぐに繋ぎ合っているそのぬくもりだけは。クラス中を十数年も騙し続けた最高の嘘の真ん中で、二人だけがずっと大切に守り続けてきた、100%の本当の真実だった。
「じゃあ、蹴翔。結婚式の誓いのキスの練習、台本なしでもう一回しとく?」
「おい星蘭、今度はマイク入ってんの分かってて言ってんだろ! 調子に乗んなクソガキ!」
二人の、世界一不器用で、世界一演技派な本当の恋の物語は、あの日と同じ特大の大歓声に包まれながら、最高の未来へと続いていくのだった。
コメント
1件
あおいです🌷 第14話、一気に読んでしまいました! まさか「神演出」の裏側が、ただのマイク切り忘れだったなんて…! 十数年も騙し通した上で結婚式でネタバラシする展開、痛快で笑いが止まりませんでした😂 でもテーブルの下で繋ぐ指は100%本物…そのギャップがもう、最高に胸熱です。田中くんの「涙を返せ!」にも大爆笑。笑えて愛おしい、らるあるとさんらしい珠玉のエピソードでした🤍