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『無個性の影』
雄英高校の放課後。
教室にはまだ何人かの生徒が残っていた。
「今日の訓練やばかったな!」
そう笑うのは 切島鋭児郎。
それに 上鳴電気 と 峰田実 が騒いでいる。
窓際の席で、緑谷出久 はノートを見つめていた。
びっしり書かれたヒーロー分析。
だけど、文字が滲んで見えた。
(みんなすごい…)
前では
爆豪勝己 が苛立った声で言う。
「クソが、もっと強くなんねぇと…!」
隣では 轟焦凍 が静かに考え込み、
八百万百 は復習をしている。
麗日お茶子 と 蛙吹梅雨 は楽しそうに話し、
飯田天哉 はクラスのまとめ役をしていた。
みんな、個性がある。
みんな、ヒーローになれる力がある。
でも――
デクは机の下で手を握りしめた。
(僕は…)
(本当は――)
心の奥で声が響く。
「お前は無個性だろ」
小さい頃から聞き続けた言葉。
ノートにぽたり、と涙が落ちた。
「……」
誰にも気づかれないように、デクは立ち上がる。
「緑谷くん?」
声をかけたのは麗日だった。
「え、あ、ちょっと外の空気吸ってくるね!」
無理やり笑う。
廊下に出た瞬間、笑顔は崩れた。
(違う…)
(僕はここにいていい人間じゃない)
頭の中で何度も響く。
無個性。
無個性。
無個性。
「……っ」
壁にもたれて、呼吸が浅くなる。
その時――
ガラッ
教室の扉が開いた。
「おい、デク」
出てきたのは爆豪だった。
「……かっちゃん?」
爆豪はしばらく黙って、デクを見ていた。
そして、乱暴に言う。
「そんな顔してんじゃねぇ」
「え?」
「てめぇが弱いのなんて最初から知ってんだよ」
胸が締め付けられる。
やっぱり、そうなんだ。
でも爆豪は続けた。
「でもよ」
「俺らと同じ場所にいる時点で、逃げてねぇってことだろ」
デクは目を見開いた。
後ろから声がする。
「緑谷くん大丈夫?」
麗日。
「無理は禁物だぞ!」
飯田。
「一人で抱え込むな」
轟。
振り返ると――
そこには 1-Aのクラスメイト全員 がいた。
切島、上鳴、八百万、蛙吹、耳郎、常闇、芦戸、青山、砂藤、瀬呂、尾白、口田、葉隠、障子、峰田。
みんな、心配そうにデクを見ている。
デクの視界がまた滲む。
「僕は……」
声が震えた。
「僕は…無個性だった人間で…」
「今でも…」
「みんなみたいにすごくない…」
沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは切島だった。
「でもさ!」
「それでもここまで来たんだろ?」
上鳴が笑う。
「それ普通にすごくね?」
蛙吹が静かに言う。
「緑谷ちゃんは頑張り屋よ」
デクは涙をこぼした。
完全に救われたわけじゃない。
心の奥の闇はまだ消えない。
それでも――
(僕はまだ…)
(ここにいていいのかな)
教室の灯りが、廊下を少しだけ明るく照らしていた。
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