テラーノベル
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それから、数日が過ぎた。
連絡は、途切れなかった。
でも、増えもしなかった。
「着いた」
「雨、大丈夫だった?」
「うん」
会話は成立しているのに、
そこに感情が乗らない。
以前なら、
その一言の裏にあったはずの
安心とか、寂しさとか、
そういうものが、見えなかった。
夜、スマホを伏せて天井を見る。
紬が何を考えているのか、
もう、想像できなくなっていた。
想像しなくても分かっていた頃のことが、
急に、遠い。
⸻
一週間後。
紬から、珍しく長いメッセージが届いた。
「少し、考えたい」
その一文だけで、
全部を言われた気がした。
すぐに返事を打てなかった。
指は動くのに、
送信できない。
「分かった」
最終的に送ったのは、
それだけだった。
引き止める言葉も、
大丈夫じゃない、という本音も、
全部、飲み込んだ。
強くなったのは、
紬だけじゃない。
傷つかないために、
何も言わなくなる術を、
僕も覚えてしまっていた。
⸻
考える時間は、
不思議なほど静かだった。
会わない日々は、
生活を滞らせることもなく、
淡々と過ぎていく。
それが、
一番、怖かった。
紬がいなくても、
朝は来る。
仕事もある。
眠れる夜もある。
「平気」
その事実が、
胸の奥で、じわじわと広がっていく。
⸻
十日目の夜。
電話が鳴った。
紬だった。
「もしもし」
「……久しぶり」
声は、少しだけ掠れていた。
泣いた後なのか、
泣くのを我慢しているのか、
分からない。
「考えた?」
僕が聞くと、
小さく息を吸う音。
「うん」
「……で?」
間。
長い沈黙。
その間に、
答えはもう出ている気がした。
「私ね」
紬は、ゆっくり言う。
「陽介のこと、好きだよ」
それでも、
胸が軽くならない。
「でも」
やっぱり、続く。
「好きだけじゃ、
一緒にいられなくなってた」
言葉が、
静かに、確実に、落ちてくる。
「寂しいって言わない私と、
気づいてるのに聞かない陽介で、
ちょうど合わなくなった」
反論は、
いくらでも浮かんだ。
でも、どれも
“今さら”だった。
「……ごめん」
そう言うと、
紬は少し笑った。
「うん。ありがとう」
その「ありがとう」が、
終わりの言葉だと、
分かってしまった。
⸻
最後に、紬は言った。
「嫌いになったわけじゃないから」
それは、
優しさだったのか、
ただの事実だったのか。
電話は、
静かに切れた。
⸻
しばらくして、
部屋の中で一人、
ソファに座ったまま、
動けなくなる。
泣くほどじゃない。
でも、平気でもない。
あの人は、
一人で立てるようになった。
僕は、
誰かと並ぶことを、
ちゃんと選べなかった。
⸻
距離は、
埋められなかった空白じゃない。
向き合わなかった時間が、
静かに形を変えたものだ。
終わった、と言えば簡単だ。
でも本当は、
終わりきれないまま、
手を離しただけ。
それでも、
確かにそこにあった日々は、
消えない。
紬が、
泣かなくなった理由を、
僕は、
一生、忘れない。
コメント
2件
別れちゃったのかな...