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コントニックス

美人に話しかけたら姉が出てきたんだけど
キャラ崩壊注意
警察署の前に、1台の車が停められていた。
桜色に染まったスポーツカー。
そのスポーツカーに寄りかかる一人の女性がいる。
顔に包帯を巻いた女性なんて、端から見れば怪しさの塊である。
この街の警察官、カニはその怪しい女性に見覚えがあった。
だが、どこで見かけたか、どれだけ記憶の棚を漁っても見つからない。
もしかしたら、単なる人違いかもしれない。
そう結論付けて、カニは小さく息を吐いた。
この街の警察官というのは、怪しい人物を見かければ好奇心のままに声をかけるものだ。
もっともカニ自身は、そこまで好奇心旺盛な質ではない。
それでもあいにく、他の警察は出払い中であった。
心の中で「行きたくねー」と思いつつも、仕事だからと言い聞かせ、足を踏み出した。
「おねーさん、どうかされましたか?」
ペンギンの被り物越しに、精一杯の愛想を作って声をかける。
普通なら被り物に突っ込みの一つでも入るものだが、女性にその様子はなかった。
女性は静かにカニを見つめている。
答える気があるのかどうかも、表情からは読み取れなかった。
沈黙の時間が流れる。
両者は互いに見つめ合っていた。
やがてカニの方が沈黙に耐えられなくなり、口を開く。
「あの……?」
カニが控えめに視線を逸らそうとすると、それを阻止するかのように、女性に頭を掴まれた。
ペンギンの瞳をじっと見つめ、作り物の瞳越しに合うはずがない視線が合っているような感覚になる。
すると、女性の腕が上がりペンギンの被り物が外された。
突然明るくなった視界に思わず目を閉じる。
数回瞬きを繰り返し、ようやく目が慣れた頃、目の前に女性の顔がドアップで迫っていた。
「うわぁぁぁぁ!?」
カニの大きすぎた絶叫に女性は思わず肩を跳ね、目をぎゅっと閉じる。
外した被り物で耳を塞げなかったようだ。
「……」
「すみません」
文句を言いたげに睨みつける女性と、間髪入れずに謝るカニ。
そりゃ目の前に顔があれば誰でも驚く。
ましてやそれが、見惚れるような美人の顔ともなれば尚更だ。
しかし、それにしてはカニの叫び声は大きすぎた。
「あのー……ペンギン、返してもらってもいいですかね?」
被り物という盾を失い、遠慮なく近付いてくる女性にカニは少し動揺を見せる。
まだ普通の人なら良い。
しかしカニは、その美しさが却って迫力になっているような顔から、必死に視線を逸らした。
どこを見ればいいのか分からず、結局カニの視線は宙をさまよった。
「……ア、思い出しタ」
被り物をカニに押し付けるように返す。
「オマエ、タコの弟デショ?」
久しぶりに他人の口から聞いた、姉の名前。
それだけで、この女性が姉の仲間だと察するには十分だった。
そのことが分かると、カニの肩から少し力が抜ける。
「姉ちゃんの知り合いか」
「アー、知り合いって言うより……」
女性が何か言いかけたとき、後ろから聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。
「芹ー、迎えありがとねー!」
「他に迎え行ける人、いなかったカラ」
「そ。……ってか、カニじゃね?」
背後から不意にどつかれ、カニの姿勢が少し崩れる。
「……久しぶり、って言ったらいいの?姉ちゃん」
「俺がここに来て以来だから、久しぶりで合ってると思う」
「その『俺』って言うのやめない?」
「はいはい。アタシな」
芹と呼ばれた女性は、目の前で繰り広げられる姉弟の会話を目で追っていた。
この二人は話す速度が早い上に、会話のテンポまで早いもんだから気を抜くとついていけなくなる。
「あ……芹さん、は姉ちゃんの迎え来たんだろ?」
「ウン」
「じゃあ早く連れて行ってくれよ」
「なんだぁ?アタシがいると迷惑ってかぁ?」
面倒くさそうな顔をして、自分に引っ付く姉を引き剥がそうとするカニ。
そんなことは気にせず、タコはカニの首に回す腕に力を込めた。
「ダメだぞ?芹沢はアタシの恋人なんだからな」
「あーそう。分かったからさっさと離……はい?」
その隙に、タコは芹沢の隣に立ち肩を組む。
「手出しすんなよ?」
そう言い、ニヤリと笑う姿にカニは思わず言葉を失う。
隣に立つ芹沢は慣れているのか、タコの顔を見るだけだった。
「姉ちゃん、恋人ってか彼女いたんだ……」
「お前……実の姉に失礼すぎんだろ」
弟からのあり得ないという眼差しにタコは傷付いたような顔をする。
芹沢はそのやり取りを楽しげに見ていた。
「ま、そういうことだから。俺らもう帰るな〜」
「バイバイ」
「あ、はい。気をつけて……」
スポーツカーに乗り込み、排気音を鳴らしながら颯爽と去っていく二人を見送るカニ。
車の後ろ姿を見て、小さく呟く。
「姉ちゃんに彼女、ねぇ……」
あの姉に恋人がいたという事実が、どうにも現実味を帯びない。
そんな気持ちを抱えてぼんやりしていたカニを、無線から飛び込んできた犯罪通報が現実へと引き戻した。
「ま、いいか。仕事しよ〜」
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