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裁判所は美晴の請求を認める判決を下した。幹雄は財産分与のほか、今までのモラハラに加え、経済DVやその他慰謝料などが膨らみ、高額な慰謝料を支払うことで合意した。今後の彼に支払い能力があるかは不明だが、もらえる分だけは根こそぎいただくという形に落ち着いた。
激怒した父に絶縁された幹雄の生活は一変し、みすぼらしいアパートで誹謗中傷におびえながら暮らしていくことになりそうだ。
こずえの煌びやかだったSNSは荒れに荒れ、全てが削除されて終わりを告げた。こうして幹雄との離婚は無事に成立し、亜澄と美晴は笑顔で対峙していた。
「亜澄さん、最後まで色々とありがとうございました!」
「美晴さん。よくここまで頑張られましたね、お疲れ様でした」
「亜澄さんや復讐アプリの運営の方々がいてくださったから、頑張ることができました。ひとりではここまでやりきることはできませんでした」
「辛い環境下でも、頑張れば必ず誰かが見てくれます。そこが不幸の底だとは思わず、正しい道を進んでいれば苦しくても道は開けることをお伝えできてよかったです」
「はい」
亜澄の言葉は胸に沁みた。辛くても道は開ける――これからの長い人生、諦めてはいけないのだ。すべて自分次第なのだ、と教えてもらった。
「さて、美晴さん」亜澄の口元は今日も変わらず赤いルージュが塗られていた。その口が別れを告げる。「今日限りをもって復讐アプリは削除してください」
「えっ……」
確かに約束ではあった。全てが終わったら、アプリをアンインストールする、と。
「あなたの未来に復讐なんてもう必要ありません」
「そ、そんなっ、私、すごくお世話になったから、その……」
広い海原にひとり放り出されるような気分になった。
別に利用しなくても、インストールされているだけで安心するのだ。
「美晴さん。お気持ちはわかります。しかし、我々復讐アプリの最終目的は、相談者が幸せを掴んで利用したアプリを削除し、復讐を終えさせることなのです。いつまでもあなたのスマートフォンに復讐した時の思い出が入っているのは、これからの未来の妨げになりますから」
「未来の妨げ…」
「辛い過去は捨てて、もっと真っ白で、素晴らしい未来を描いてください。それなのに『復讐アプリ』なんてスマートフォンにダウンロードしたままだと、その都度目に付いて、これからの未来が霞んでしまいます。反芻するたびに相手に復讐したことや、辛いことを思い出してしまうのです」
「確かに…そうですね。でも、淋しいです」
「今後は美晴さん自身が幸せを掴む努力をしなくてはいけません」
「そうですね」
「私たちの目的は無事達成されました。さあ、目の前でアプリのアンインストールをお願いします」
「はい!」
美晴はアプリのアイコンをタップした。
――このアプリを削除しますか? という問いかけに、美晴はYesをタップした。
アプリが消えていく。