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「ねぇきょーさん」

「なんや?」

「……ちょっと、話いい?」

いつものように軽い調子で話しかけられたため、同じく軽い調子で返せば何やら真面目そうな顔が視界に映る。

幸いこの場には俺とこいつしかおらず、今処理していた書類も急ぎではない。話をする時間は十分あると伝えれば、ほっとしたように俺の前のソファに腰掛けた。

「きょーさんはさ、この戦争が終わったら何がしたい?」

「…は?」

質問の意図がわからない。現在進行形で戦争が続いている中このような質問が出るのは疑問ではないが、こんな風にわざわざ時間を取ってまで聞きたがるものだろうか。俺が答えに詰まっていると深く考えなくていいよと促される。

「そう、やな…とりあえず死んでった仲間の墓参りと、あと飯を腹いっぱいに食いてぇわ。今は支給される分しかねぇからな」

「確かにね〜それは俺もそうだな〜…なるほどね」

「…?何がしたいんや?」

「別に?そんだけだよ」

絶対にそんだけじゃない。長い付き合いだと言うのに腹の底がしれないこの男、しかしこれがそれだけではないことくらいわかる。

「あ、俺仕事あったんだった。れうさんに怒られる前にやんなきゃだから、じゃあねきょーさん」

「は!?お前待てやふざけ──」

俺の言葉を待たず音を立て扉は閉まる。本当になんなんだ。質問に比べて表情が深刻なのはきっと俺に言っていない意図があるから。一体何を抱えているというんだ。

「くっそ…」





「鈴木〜いる〜?」

「レウな!!!!!!」

食料やポーションなどの在庫確認のために倉庫に入っている時、扉が開く音がしたためそちらに意識だけ向ければ聞きなれたボケが聞こえたので全力で乗る。もはや最近脊髄で反応できてしまっていそうで少し怖い。

奥に来てくれと伝えれば棚と棚の間からひょっこりと綺麗なサファイアが顔を出す。

「おぉ、ちゃんと仕事してんねぇ」

「まぁ運営ですから…どうしたの?」

「ん〜ちょっとね!俺ここら辺でダラダラしてるから暇になったら声かけてくんね?」

「え?あっ、ちょっ…なんで…?」

さっさと行ってしまったあの男は適当に見えて常に計算して動いている。つまり作業を害するほど重要な話ではないが、一応必要な話、もしくは暇になったから遊びに来ただけだろう。リーダーが来たからと急いで終わらせて話を聞くというのも彼は好まない。元々敬われることが苦手であるから、そこまで気を回しすぎても良くないだろう。

いつも通りに、いや少し急ぎめに確認を済ませ、確認し終わった所の書類をぺらぺらとめくっているらっだぁに声をかける。普段はちゃらんぽらんで口を開けばレベルの低い悪口や自己肯定しかしないくせに、長いまつげを落とし薄い唇を閉じれば知性ある好青年の誕生だ。そんなところが良い所であり悪い所でもある。

「らっだぁ、終わったよ」

「ん、思ったより早かったな〜」

「まぁね。で、どうしたの?」

「…ん〜、れうさ、戦争が終わったら何がしたい?」

予想していなかった質問のため、一瞬虚をつかれる。だがそこまで深く考えるような質問でもない。少し考えて、頭に浮かんだものをとりあえず言ってみた。

「甘い物食べたいな。支給される嗜好品ってキャラメルくらいじゃん?だからケーキとか、クッキーとか食べたい」

「あ〜れう甘い物好きだもんね。前よく作ったりもしてたし。俺れうのスイーツ好きだったんだよな〜」

「あはは、そうなの?戻ったらまた作るから、らっだぁにもあげるね」

「…ん、ありがと」

「…?」

何か変なことを言っただろうか。一瞬だけらっだぁの顔が歪んだ気がした。声にもいつもの元気がないし…まぁここで何かあった?と聞いてもはぐらかされるだろう。長年見てきたからか、何となくわかる。後で運営のみんなと共有しておこう。

「じゃっ、俺もう行くから」

「えっ!?それ聞くためだけにここに来たの!?」

「んふっ、だる絡みしに来ただけだよーん」

「えぇ…何それぇ…」



「わぁっ!!」

「わぁ〜どうしたのらっだぁ」

頭の中で描いているイメージを、目の前のキャンバスに落とし込んでいく。すると突然視界が真っ黒になった。感触からして、目を塞がれたということで間違いなさそうだ。そしてこんな幼稚なことしてくるのは2人しかいない。緑色の彼は現在執務室にこもっているので実質1人だけだ。視界が晴れ、大きな声を出しながらいたずらっ子のようにほほえむのは我らがリーダー様。反応がないとしぼんでしまうので一応反応を返してやる。

「いや驚けよ」

「驚いたじゃん」

「あんな大根で俺が納得するわけないだろ!やるなら全力でやれ!」

「いいの?」

「ごめん嘘、全力でやられたら多分俺がビビるからやめて。…今度は何描いてるの?」

「ん〜、ライオン?」

「らいおん」

「そうライオン」

「…うん、俺の知らないライオンがあったかもしれないからね、決めつけるのは良くないよね、ところでできるだけ邪魔しないから横いて良い?」

「いいよ〜」

別にらっだぁがこうして俺の描いている様を眺めに来るのは珍しくない。行き詰まったときや、単純に暇なとき、ふざける元気がないときなど、時々俺の執務室兼アトリエに顔を出すのだ。こちらとしても気分悪くはないし、彼と話すこと自体楽しいのでドンと来いである。まぁじっと見つめられることに少し気恥ずかしくはあるのだが…ここの人達は俺の絵を否定しない。引いたり驚いたりはするが、俺が傷つくような言葉は絶対に言わない。俺が堂々と絵をかけるようになったのも彼らのおかげだ。

「…こんちゃん、」

「なぁにー?」

「戦争終わったら、何したい?」

「…………」

少し筆を止めて彼の方に顔ごと向ける。目が合うと、優しくほほえまれた。言葉だけ見れば何の変哲もない世間話。しかし声のトーンや表情が、これは大事な事だと言っているように見えた。俺はほほえみ返し、またキャンバスに視線を戻しながら答える。

「そうだねぇ…戦争が終わったらもう訓練とかしなくて済むよね、だから存分に絵を描きたいな。今みたいに簡単なやつじゃなくて、時間をかけて大きいものを作ってみたい」

「こんちゃんらしー、完成したら見てみたいなぁコンタミの絵画」

「うん、見せるよ、絶対」

「そっか、ありがとね」

穏やかな顔で絵を見つめるらっだぁはいつも通りだ。しかし、今の彼を見ているとなぜか心がもやもやする。

「…らっだぁ、絶対見てね」

「?うん、見るってば」

「絶対だよ」




クリック音や自分の動きに合わせてなる布のこすれる音以外聞こえない室内に合わない、鼓膜を破壊するような大きな声が響く。

「みどりー!!!!お前何日こもってんだー!!!」

「覚えてナーイ」

「そうか、優しい俺が教えてやるけど1週間だよ!!飯も食ってねぇし寝てもねぇし日光も浴びてないだろ!!死ぬぞバカヤロー!!」

「飯は食べてるシ…寝てるシ…日光は…マァ浴びなくても死なないヨ」

「良くねぇよ、日光浴びないと幸せを感じるホルモンが分泌されないんだぞ」

「ンー…ラダオクンに会えば幸せだから大丈夫」

「…………」

「ラダオクン?」

「…ッちょっと嬉しいからやめろ!!」

「ンフフフw」

様々な情報を扱っているせいで無意識に強ばっていた体が、らだおくんの声でほぐれていく。さすが俺の神様。

無理やりデスクトップの前から剥がされ、カーテンも開けられ、湯気のあがっているおいしそうな食事が目の前に並べられた。さぁ食えと言わんばかりの圧で見つめられる。しぶしぶスプーンを持ち、1番胃に優しそうなスープをひとすくいし口に運んだ。ちらりとらだおくんの方を見れば、まだ食えるよなと言いたげなサファイアと目が合う。それを何度か繰り返し、数日何も入っていない俺の胃が限界だとわかっていたのか用意された食事の半分で許して貰えた。

「はぁ…ほんとに俺はお前が心配でならないよ」

「ラダオクンがいる限り死なないから安心シテヨ」

「………だから心配なんだよ」

その言葉の意味を問おうと振り向いたが、彼は部屋の端にあった椅子を前に置き、俺の目を真っ直ぐ見ながら座る。あまり馴染みのないその動作にきょとんと首をかしげれば、意味ありげにサファイアが半円を描いた。

「みどりくん、戦争終わったら何がしたい?」

「戦争終わったら…?…ンー…ナンダロ…」

少し他の思考を飛ばしてその問いに対しての答えを探る。しかし答えとなりうるものは浮かびそうもないので、らだおくんに向き直り答えた。

「オレはラダオクンと一緒にいたい。ラダオクンと一緒ならなんだって楽しいデショ?」

目の前の神様は、弧を描いている口の端をひくつかせた。え、と声を出す間もなく戻ってしまったが。

「そっ…だよねぇ、みどりは、ほんとに俺の事大好きなんだからも〜」

「…ウン、好きだよ。そんなのとっくに知ってるでしょ?なんでそんな反応するの…?」

「なんでもない。いつも同じ回答でつまんねぇなぁと思っただけ」

「なんでもないって嘘でしょ」

「嘘じゃないよ」

「嘘だよ」

「…みどり」

「オレがわかんないわけないでしょ!」

つい、声を荒らげてしまった。確かにらだおくんは平然と、全てが真実であるとでも言うように嘘をつくのが上手い。でもオレはずっとらだおくんしか見てないんだ。他の誰にもわからなくても、俺にはわかる。

「みどりも、俺離れしなくちゃだめだよ。ずっと一緒にいられる保証なんてないの。俺がこの戦争で死ぬかもしれない、みどりくんが死ぬかもしれない」

「オレらは死なない。あんな奴らに負けるほど弱くない」

はぁ、とため息をついて、俺から逃げるようにらだおくんは話を変えた。ここで追求しても喧嘩になるだけ。問い詰めるのは今ではない。仕方なく彼の変えた話に乗ってやる。プレッシャーを与える意味も込めて少しのいらだちをあらわにしながら。

「…次の城を攻めるトキノ作戦、これで行こうと思うんだケド」

「ん?あぁ…うん、いいね、さすがみどり。これでいこう」

「リョウカイ。あからさまにおだてられるの好きじゃないからヤメテ」

「俺からの褒め言葉なら全部嬉しいだろ?」

「………」

否定はしない。大好きな人から褒められて嬉しくないわけない。でも今はそんなことで機嫌を直してやるわけにはいかないのだ。

「んじゃ、俺ちょっと皇宮行ってくる。この作戦報告してくるわ」

「…ン、気をつけてね」

「お前ねぇ…一応俺らの1番上は皇帝サマなんだからそんな嫌うなよ」

「ダッテあいつ胡散臭い…それに俺が従ってるのはあいつじゃなくてラダオクンだし…」

「あいつとか言うな。誰かに聞かれたら不敬罪で首チョンパだぞ〜」

「ここにいるやつは大丈夫ダヨ」

「それはそう」




「我が国の勝利によく大貢献してくれた、貴殿には感謝している」

「ありがたきお言葉。陛下のためならばこの程度安いものです」

皇帝の前に跪き、肩に皇帝愛用の剣がかざされる。正直正装は動きづらくて嫌いだし、皇帝のことも敬ってなどいないし、みどりの意見に概ね同意だ。しかし皇帝が俺をこの地位につけてくれなければアイツらと出会うことはなかったし、そこだけは感謝している。

「そうか。…では、朕がこれから下す命にも従ってくれるな」

「…ぇ、」

周りにいた皇帝護衛の騎士達が俺を取り囲み、手足を縛られ動きが封じられる。皇帝はしてやったりと気色の悪い笑みを浮かべているが、こちらとすれば思ったより行動するのが早かったなという感想だ。批判を減らすために俺が1人になったタイミングでやるものだと思っていた。まぁこの皇帝バカだしな。俺に思考読まれるくらいだし。

さてここで心配なのは運営とら民だ。彼らは貴族ではないからこの会場にはいない。後にこれを知ったあいつらが暴走するのは目に見えてるし…それに、来られるとしても来させなかった。犠牲になるのは俺1人でいい。

「…陛下、」

「何だ?遺言くらい聞いてやろう」

「俺のことはお好きなようにしてください、もうこれからはどうせ余生でしたし。でも俺の仲間は見逃してやってくれません?」

「…この状況で、笑顔を作れるとはな。まぁ良いだろう。お主以外は取るに足らん存在であるしな」

「約束ですよ」

「……薄気味悪い笑みよのう」

よし、言質は取った俺の勝ち。さーてどんな環境にぶち込まれるのやら。




「…………は?」

目の前の新聞は、俺らの唯一のリーダー、らっだぁが捕らえられたことを記していた。いつも無駄なことばかり考えてしまう脳は、いまいち上手く動いてくれない。捕らえられた?らっだぁが?

『この戦争が終わったら何がしたい?』

…あぁ、今、ようやく意味がわかった。あいつは俺らが戦後に期待を持っていることを知って、1人で出向いたのか。俺らに罪を被せないように。俺らがやりたい事をできるように。それなら、他3人のときにらっだぁにしたいことを言われて曖昧な反応をしたことにも頷ける。

「おいバカ!!!落ち着けって!!!」

れうの叫び声に近い声が聞こえハッと前を見る。そこには殺意をにじませたコンタミと、ビリビリと肌が痙攣してしまうほどの殺気を醸し出す緑色が各々愛用の武器を掴んでいた。

「離せ!!!!!らだおくんを助けに行くんだよ!!!!!」

「れうさんは皇帝の肩を持つの」

「違ぇよ!!!俺だって許せないよ!でも無策で行っても返り討ちに遭うだけだ!!!」

「うるせぇ!!!!!オレはらだおくんがいなきゃ」

「コンちゃん、どりみー、止まれ」

「…は?きょーさんまで?」

「れうの言う通り、無策で行ってもなんにもならん。本気で復讐したいなら、確実にあいつを捻り潰すための作戦を練るべきやろ」

「…そうだよ、だから2人とも一旦落ち着こう」

「っでも、でも今もらだおくんは酷い目に遭ってるかもしれないじゃん…っ!!」

「……」

「…あいつは丈夫や、ちょっとやそっとじゃくたばらん。傷つけられたなら、その倍で返すのみや」

「…わかった、俺はきょーさんに従うよ」

「みどりくん…」

「………ワカッタ」

「よし、らっだぁを取り戻すために手段は選ばん」

俺らの唯一奪っておいて、無事に済むと思うなよ

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