テラーノベル
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レトとセツナは絶望するように肩を落とし、眉を八の字にして、寂しそうな瞳をしている。
軽い女だと思われてしまっただろうか……。
誤解されるのは困る。
「これは違うから。
恋人のふりをして、リウさんをおびき寄せる作戦をしているの」
「ほっ、本当かい?」
「うん。そうですよね、コウヤさん」
しかし、コウヤさんは笑顔で私に肩を寄せてくる。
「ラブラブカップルですよ」
「煽るのが上手いな……、コウヤ王子は……。
なぁ、レト」
「えっ……!?
あっ……、そう……だね……、セツナ……」
ふたりは動揺しているけど、恋人ではないと理解してくれたと思う。
「自分の気持ちに素直になった方がいいですよ。
わたしは、これからそうしていきたいと思ってます。
おふたりもそうした方がいいんじゃないでしょうか」
「また占いの結果とかじゃねぇよな……?」
「ええ。予言ではなく助言です」
「僕の未来は占いではなくて自分で切り開く」
本当に勘違いされていないだろうか。
「さあ、かけらさん。デートの続きをしましょう」
「分かりました。頑張ります……!」
それから、リウさんを見つけるために街を歩いた。
街の人たちは私たちをじっと見てきて、こそこそと何かを話し始める。
コウヤ王子に恋人ができたと噂が広がっていることだろう。
しかも、レトとセツナが少し離れてついて来ている。
そういうこともあって恥ずかしくて堪らなかった。
恋人と歩いているところを知り合いに見られるのは、こんなにも恥ずかしいことなんだ……。
「出てきてくれませんね。
かけらさん、ベンチに座って少し休みましょう。
進んで上手くいかないのなら、止まってみるのもひとつの手です」
「なるほど。そうしましょうか」
コウヤさんに連れて行かれたのは、噴水がある公園だった。
デートスポットの話をした時に言っていた場所がここなんだろう。
噴水の周りをぐるっと囲むように石畳が敷かれている。
しかも、花壇があって花が咲いている。
太陽の光がないというのに不思議だ。
花壇の近くにベンチがあったからそこに腰を下ろす。
まだ恋人のふりが続いていることもあり、コウヤさんが私にくっつくように隣に座ってくる。
そして、穏やかに笑みを浮かべてから私の手を握り、空を見上げた。
微かに吹いている風が銀色の長い髪を揺らす。
艶があり、さらさらしている綺麗な髪で憧れる。
さらに、コウヤさんの横顔は美しくて、大人の魅力を感じた。
明けない夜のように不思議な雰囲気がある人だ。
「なに見惚れてんだよ」
隣に立っているセツナが私の顔を覗いてきて、びくっと肩が上がる。
「違うから。
あっ、でもコウヤさんは美人ですからね」
「おや、ありがとうございます」
「かけらはそういう男性がタイプだったのかい?」
レトがセツナの隣にきて、不安そうな声で聞いてくる。
「どういう人が好みとか考えたことないから」
「ふふふっ、接戦ですね〜。
しかし、これではリウが近づいてこないかもしれません。
わたしは奪われたものを取り戻すまで、かけらさんの恋人でいるつもりですけど、どうします?」
「分かったよ。行けばいいんだろ」
「かけら……。僕がいることを忘れないでね」
ふたりは私とコウヤさんの方に何度か振り返りながら去っていく。
どんな反応をしたらいいのか分からなかった。
レトとセツナの姿が見えなくなった時、コウヤさんは口を開く。
「この国で朝だと知る方法は、時計しかないんですよ。驚きませんか?」
「時計があることに驚きです。
グリーンホライズンとクレヴェンでは見かけなかったので。
……コウヤさんは、太陽が昇らなくても平気なんですか?」
スノーアッシュの地下の部屋で何日も過ごしたあと、久しぶりに外に出て太陽の光を浴びた。
その瞬間がとても気持ちよかった思い出がある。
だから、朝が来ない国に住んでいるコウヤさんはどう思っているのか聞いてみたくなった。
しかし、否定をする気配はなく、穏やかな表情をしていた。
「わたしの名前の由来は、“光る夜”だと両親から聞いたことがあります。
だからなのか、星が見える夜空をずっと眺めているのが好きなんですよ」
「名前にちゃんとした意味があるんですね。
羨ましいです……」
「そうでしょうか。かけらさんもその名前に意味がありますよね」
「私なんて“かけら”ですから……。
どこか欠けてるみたいで気に入っていなくて……」
なぜこの名前をつけたのか、両親に聞いたことがある。
でも、「何となく」っと言われただけでよく分からなかった。
この名前のせいで会社の同僚にも酷いことを言われて、傷ついたことがあった。
自由に名前を変えられるなら、変えたいくらいだ。
「かけらさん」
「はい……?」
「いい名前ですよ。
ひとつのものは、複数の欠片によってできている。
どれかが欠けてしまったら完全なものにはならない。
つまり、欠片というものは欠かせない存在です。
それに、わたしは、かけらさんの名前に愛着が湧いてますよ」
初めて誰かに自分の名前を認めてもらえて、嬉しくてじわっと涙が浮かんでくる。
傷ついた心が癒やされていく感じがした。
涙が零れてきて、空いている片方の手で拭った。
「ありがとうございます……。
コウヤさんの穏やかな姿を見ていると、なんだかこっちまで心が落ち着いてきます。
不思議な気持ちというか……」
コウヤさんにそう伝えると、繋いでいた手を離して、私の髪にそっと触れてきた。
ゆっくりと顔を近づけられて恥ずかしくなり、目を瞑って唇を結ぶ。
「それは……、わたしがあなたを――」
「なんで、コウヤ様と手を繋いでるのよ!?
しかも、街の中でキスするなんて……!
何を考えているの!」
「リウさん……!?」