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「さっさと離れなさいよ!
うちの国の王子を口説くなんて、かけら様ったら最っ低!」
どこからかリウさんがやってきて、鬼のような顔で怒鳴り、私を指差す。
また誤解されている。
いや、誤解されるようなことをしているこっちが悪いか……。
罪悪感と恥ずかしさに押し潰されそうになって、リウさんを見ることさえできない。
そんな頼りない私を庇うように、コウヤさんが立ち上がって前に出た。
「やっと出てきてくれましたね、リウ」
私も行こう。逃げてはいけない。
顔を上げてからコウヤさんの隣に立ち、リウさんのことを見る。
「コウヤ樣……。
もしかして、あたしのことを探してくれていたの?」
怒っていたリウさんは、ころっと表情を変えて乙女の顔をする。
「ええ。かけらさんの大切なものを取り戻さないといけませんからね」
しかし、それを聞いたあと、両頬を膨らませて、眉間にシワを寄せた。再び鬼のような顔をする。
「ひどい……!
あたしがいなくなって心配しているかと思ったのに!」
「心配してませんよ。
あなたは優秀ですから。逃げるのも得意でしょう?」
「その褒め方、全然嬉しくない!
なんでずっと一緒にいるあたしじゃなくて、かけらさんの味方をするの!?」
「わたしが、かけらさんにずっと会いたかったことを知っているでしょう」
「知っていたけど……。
こんなことになるなんて思ってなかったわよ!
今日来たばかりの女とデートして、付き合うなんて……」
「違う」っと言いたいけど、作戦が失敗してしまうから何も言えない。
「わたしは最初からリウではなく、かけらさんを選ぶつもりでしたから……。
これがあなたの求めていた答えです」
つまり、リウさんとは恋人にならないということ。
自分が振られたわけではないのに、なんだか胸が苦しくなる。
「うそ……、嘘って……言ってよ……。
あたしはずっと……コウヤ様のことが好きだったのに……。
なんであたしがかけら様に負けるの……」
「返事をしたのですから、かけらさんから奪った大切な物を返してください」
「これは……、あたしの恋人になってくれるまで返さないから……」
「さっきの返事で分かりませんでしたかね。
恋人にならないと言ったでしょう」
リウさんは俯いてボロボロと大粒の涙を落とす。
そして、涙を拭ってから両手で顔を覆った。
「うっ……。ありえない……。ありえないわよ……。……ひぐっ」
「さあ、かけらさんに謝って、奪ったものを返すんです」
私からもちゃんと言おう。
コウヤさんに協力してもらっているのだから。
「あの……、私がこの国に来たせいで、傷つくような思いをさせてしまってごめんなさい。
でも、お願いです。今すぐ返してください」
頭を下げてお願いすると、リウさんはショルダーバッグからダイヤモンドを取り出した。
それを少し見つめてから、地面に勢いよく叩きつけ、腰に装備していた長剣を手に持つ。
「こんなもの、壊してやる……!」
「なっ……!?」
「どんなに固いものでも切れる、この特別な剣で突けば粉々になるでしょ」
「やめてください!
それは、私にとって大切なものなんです」
「関係ないわ!」
「リウさん……」
「ダイヤモンドを手にしたら結ばれると思ったのに……。
あたしとコウヤ様は結ばれなかった……。
それに……、振られちゃった……。
もう、大切なものなんて、何もかも壊れてしまえばいいわ!」
今のリウさんは、乙女の顔をしていた時と大違いだ。
憎しみと怒りに支配されているように目が血走り、邪悪なものに取り憑かれた恐ろしい雰囲気を感じる。
体の芯から冷たくなるほどの強い負のオーラ。
私はそれに圧倒されて動けなかった。
「かけらさん、危ない!!」
リウさんが長剣をダイヤモンドに向けて勢いよく刺した時、コウヤさんが私を守るように覆い被さってきた。
キンッと音がしてから、何かが地面に落ちた。
コウヤさんに守られたまま、音がした方へ顔を向ける。
すると、リウさんが持っていた剣の先が刺さっていて目を見開く。
「コウヤ……さん……」
「大丈夫ですか?」
「はい……。でも、コウヤさんが……」
「わたしには予言という味方がついてますから」
それでも心配でよく見てみる。
不幸中の幸いとは、この事だろうか……。
折れた剣の刃先がマントに刺さっているだけで、体に当たっていない。
「なんで……、なんで割れないの……!?
じゃあ、重たいハンマーを持ってきて粉々にしてやるっ!」
「壊そうとしても無駄だ。
そのダイヤモンドは砕けるようなものではない」
この冷静な声は……、シエルさんだ。
コウヤさんに助けられながら体を起こして状況を確認する。
シエルさんだけでなく、レトとセツナも一緒にいた。
また皆を巻き込んでしまった。
私が気をつけていなかったせいだ……。
「じゃあ、かけら様さえいなくなれば――」
「リウ、聞いてください」
「コウヤ様……」
「今ここでわたしの臣下を辞めてもらいます。
長い間、ありがとうございました……。
もう二度と話すことはないでしょう。
あとのことは、他の臣下と兵に任せます」
「やだっ……。そんなに冷たいことを言わないで……!」
「行きましょう、皆さん。
貴重な時間を無駄にしてしまい、申し訳ありませんでした」
レトとセツナに向かって深く頭を下げてから、コウヤさんは歩き出した。
リウさんに、背中を向けて……。
「行かないで……!コウヤ様……。コウヤ様……!」
泣き叫ぶ姿を見て、この場から去ることを躊躇ってしまいそうになった。
すると、セツナが「足を止めるな」っと言っているように私の背中にトンッと触れてくる。
確かに、そうだ。私は前に進まないといけない……。
リウさんの方を振り向かないで、四人の王子について行った。
「かけらさんには、怖い思いをさせてしまいましたね……」
「いえ……」
「大切なものを取り返しましたよ」
コウヤさんにダイヤモンドを手渡されて見ると、傷一つついていなかった。表面も綺麗なままだ。
「そのダイヤモンドは、王子と選ばれた女性しか持つことのできない不思議な宝石です」
「ただの宝石じゃないんですか?」
「ええ。その宝石の本当の名は、“スペースダイヤ”。
王子として生まれた者は皆、親から受け継ぐようにスペースダイヤの話を聞かされるんですよ。
……これは、どの国も同じだと思います」
レトとセツナを見てみると、黙ったまま視線を逸していた。
それだけではなく、表情も暗い気がする。
「かくれんぼをして疲れましたね。
城に皆さんの個室を用意しましたので、そちらでお休みください。
和平の話は後日にしましょう。
かけらさんは落ち着いたら、わたしの部屋に来てください。
シエル王子からも話を聞きたいので、ご一緒に……」
きっと、その話は私の知らないことだろう。
でも、なぜシエルさんも一緒なのか分からなかった。
与えられた個室に案内されてから、ベッドで横になる。
それでも、色んなことが頭に浮かんできて気が休まらない。
ひとりで考えていても答えが出ないことばかりだ。
今はじっとしていたくないから、コウヤさんのところに行って話を聞こう。
部屋を出ると、ドアの近くでシエルさんが腕を組んで立っていた。
「短い休憩だな。もう行くのか?」
「はい。仲間たちのために、何が起きても進まないといけませんから」
「そうか……」
「コウヤさんはどこにいるんですかね?」
「ついて来い。
さっき見掛けたから、どこに行ったか分かる」
シエルさんの後ろを歩いて行くと、コウヤさんのいる部屋に辿り着いた。
「コウヤさん……。来ましたよ」
「おや、来るのが早いですね。
では、ゆっくりと話せるところに行きましょうか」
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