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やかんちゃん🍟🍄🟫
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スコスコップ
20
にょーん
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「おりん」
「あ、チカマさん。どうもこんばんは」
「仕事帰りか? お疲れさん」
通勤用のバイクから荷物を出し入れしていたところに、二階からチカマさんが煙草を吸いながら下りてきた。手には明日収集予定のゴミが握られている。
「チカマさんは? これから仕事?」
「そっ。なんか天気崩れるっていうし、はやめに行こうかなと思ってね」
チカマさんは繁華街の事務所で働く、私より少し年上のおねえさんだ。
夜勤の時は夜でも目立つよう派手な化粧をしているが、日勤の薄化粧の時でもスッとした綺麗さが目立つ人である。目の下にある二つの泣きぼくろが切れ長の目と相まって、会うたびに羨ましく感じてしまう。
この建物で毎回同じ時間に仕事を行き来する人は、私とリンジーだけだ。私も残業がある日はだいぶ遅くなるけれど、それでも大きな枠から逸脱することは殆どない。
チカマさんとトナリさんは日勤と夜勤が不規則に入っているし、マヨコくんは在宅ワークなので買い物以外で外に出ることはそうない。だからこんなふうに出会うと、なんだかとても新鮮な気持ちになった。
「っていうのは建前で、バイクの音が聞こえたからちょっと下りてきた。元気してるかな、と思ってね」
「元気ですよお。チカマさんこそ日勤と夜勤があるんですから、あんま無理しませんように」
「やーん、なんてイイ子なの。あのクソガキとは大違いなんだから」
そう言ってチカマさんは私を勢いよく抱きしめた。ちなみにクソガキというのはマヨコくんのことだ。
マヨコくんはチカマさんのことを『チーカマさん』と呼ぶので、よくブチ切れられている。ただ、仲の良さは恐らく一番良いだろう。
「そういあ、マヨコのクソガキから荷物預かってたんだわ。持ってくっからちょっと待ってて」
「あれ、マヨコくんいないの?」
「久しぶりの買い物だとよ」
そう言ってチカマさんは再び自分の部屋へと戻っていった。小走りで駆け上がった階段からは景気の良い音が鳴っている。
私はバイクから出した荷物を肩にかけると、ポケットに忍ばせた鍵で玄関扉を開けて荷物を放り込んだ。
薄暗い部屋と浴室からは換気扇のまわる音が響いている。昨日の異臭も消え去ったようで、思わずホッと胸を撫で下ろした。家具や服につくのが一番困るのだ。
「待たせた」
脈打つような頭痛を覚え玄関前に腰を下ろしていると、階上から色々な荷物を携えたチカマさんが下りてきた。煙草はもう吸っていない。
彼女の向こう側には木々の生い茂る斜面と陽の暮れかけた空が広がり、下から見上げると彼女の表情をうかがい知ることはできない。
「マヨコがえらく感謝してたぞ。『おりんさんが渡してくれるものはいつも丁度いいエグみだ』ってな。あいつも相当な悪食だよ」
「美味しいなら良いけどね」
私はすくっと立ち上がると、チカマさんが肩に提げていた業務用の折り畳み保冷ボックスを受け取った。
悪食といっていいのかは分からないが、彼が悪食でこちらとしては大いに助かっている。肉が無駄にならないのは良いことだ。
そもそも頭痛で気絶するように寝たあの日、昼食を用意するためにストッカーを開けていなかったら、マヨコくんに体を渡すことさえ忘れていた。
仮眠後に頭痛が消え去っていたのは救いというべきか。ストッカー内に入っていた肘から下の腕を見て、漸く寝る以前のことを少しだけ思い出したのだから。
「ああそうだ。その骨砕くついでに、こっちの骨も砕いといてくれないか?」
チカマさんはそういうと、なんの変哲もないエコバッグをこちらに渡してきた。中にはさらさらとした白い骨が十本は入っており、それらが擦れ合ってなんとも小気味良い音を発している。
「砕く──、ああそっか。砕かないとか。砕いて捨てとけばいい?」
「いや、あたしのはまた返してくれ。骨粉として欲しがっている奴がいるんだ。期限は特にないから急がなくていい」
分かった、と頷くと、チカマさんは心配そうな表情で見つめてきた。「ん?」と小首を傾げると、彼女は「頭痛は相変わらずのようだな」と溜息をついている。
その困ったような寂しげな顔がマヨコくんと重なる。そういえば、トナリさんも眉をハの字にして、控えめに笑っていた。
いつもはそんな顔しないのに。私は何をいえばいいんだろう、私はどうして忘れていたんだろう。
「───ちーちゃんはさ」
「え……?」
あれ、なんだったっけ。記憶の輪郭はあるのに、うまく思い出せない。あと少しなのに。
「おりん!!」
「わっ。な、なに。どうしたのチカマさん」
普段聞くことのない大声に、私の背筋は意図せず綺麗になった。チカマさんも自分の声に驚いたのか、少々罰の悪そうな顔で「大声をだしてすまない」と申し訳なさそうに呟く。
「それにしても、頭痛が続くのは困ったもんだね。とりあえず、骨のお礼は煙草1カートンでどうだ」
「成立」
チカマさんは「ちったあ悩め」と笑っていたが、食費同様、薬とタバコ代はバカにならないのだ。少しでも浮くなら、それに越したことはない。
そして「マヨコ曰く、ケーキはもう暫く待っていてほしいそうだ」と伝えると、彼女は時計を見てギョッとしたような顔で仕事に向かっていった。
「あ、洗濯しないと」
突然静かになった玄関前でぼんやりしていると、私ははたと気付いたように呟いた。自宅に荷物を放り投げていたことを思い出し、一気に面倒くさい気持ちになる。
骨は後日天日干しさせるとして──、そう考えたところで、再び右のこめかみあたりが脈打つように痛みだした。
良くない兆候に苦虫を噛みつぶしたような顔をすると、玄関扉を開けそのまま台所で頭痛薬を四錠程水で流し込んだ。
多く飲むのは良くないことだと分かっているのに、規定量服用するよりかはずっと効いていそうな気がする。それは気のせいだっていうのに。
私は洗濯機にいつもの工程をお願いすると、今日はお風呂へ入って早々に床へつこうと思った。擦るような歩き方に、骨の入った保冷ボックスが当たる。
「邪魔だなあ」
無機質な声が部屋に響き、ばすっとそのボックスを端っこの方へ蹴飛ばした。人が見たら罰当たりだのなんだの言うだろうが、知らない人の骨を悼むほど私は出来た人間ではない。
そもそもそれ以前の問題のような気もするが、大きな溜息をこれでもかと吐き切ると「ほんと、めんどくさい」と無意識に呟いていた。
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。
*また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
コメント
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チカマさん、優しいけどやっぱり只者じゃない感じがにじみ出てて良いですね。「骨粉として欲しがっている奴がいる」とかサラッと言うのがもう…。おりんさんの頭痛と記憶の欠落も気になります。日常のほのぼのした会話と、非日常が混ざり合う空気感が本当に好きです。続き、すごく気になります!