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突如、街はずれの公園に出現した紫の物体『ドルネフィラー』。子供達を飲み込んだそれは、ゆっくりと蠢いている。

ネフテリアが色々な魔法を撃ちこみ、ピアーニャもそれを援護・分析し、対策を練りながらアリエッタ達を助けようとするが、ほとんど効果が無い。


「総長! 子供達が!」

「ダイジョウブだ! あとでなんとかなるから、いまはケイカイしつつにげるぞ!」

「ほんとなのよ? 分かったのよ!」


武器を屋敷に預けているミューゼとパフィは攻撃が出来ない。アリエッタを守り、警戒し、状況を知らせるのが今できる最善である。


(え? え? あの男の子達はどうしたの? なんで?)


ピアーニャは無事を保証するが、アリエッタから見れば訳が分からない。ミューゼに手を引かれて女の子と一緒に走っているが、目の前にいた筈の男の子達の事が気になって、振り向いた。

その時、突然『ドルネフィラー』が大きく膨らみ始めた。


「ふえっ!?」

「大きくなったのよ!」

「マズイ! ミューゼオラいそげ!」


ピアーニャの掛け声で少し焦ったミューゼは、思わず少しスピードを上げた。


「っ! あっ!?」

「きゃっ!」


その拍子に女の子が転んでしまい、手が離れてしまった。その女の子に『ドルネフィラー』が迫る。


「あ」(あの子が!)

「アリエッタちゃ──」

ズヌッ


アリエッタの目の前で、女の子が紫の壁に飲み込まれた。アリエッタは何を見たのか理解出来ず、茫然として足が止まる。


「アリエッタ! 仕方ない!」


ミューゼがアリエッタを抱き上げ、急いでその場を離れた。すぐにピアーニャ達と合流し、警戒態勢に入る。

地面に降ろされたアリエッタは、真っ青になりながら『ドルネフィラー』を見つめていた。


(何だよ……あの子まだ名前も知らないのに……なんで……あれ何……)

《アリエッタ! アリエッタ! 大丈夫!?》


ピアーニャとは違う初めての友達が、突然目の前で消えた事で、まともな思考が出来なくなっている。考えている事こそ分かずとも、その感情を感じ取る事が出来る場所にいるエルツァーレマイアが呼びかけるが、アリエッタは気づかない。

その間も、周囲の人々を避難させながら、出来る事を試していくと、ネフテリアがある事に気が付いた。


「魔属性なら通じる!」

「ほんとうか!」

「ええ、でも揺らす程度だけど」


純粋な魔力攻撃である魔属性の魔法をぶつけた時だけ、『ドルネフィラー』が少し大きく揺れる事が分かった。その他である火や水などの魔法では、目で見えるか見えないか程度の手ごたえしか無いのを、ネフテリアは感じていた。


「いや、きちょうなジョウホウだ。もうしぶんない」

「そりゃどーも。じゃあ逃げる?」

「うむ」


戦果は上々と判断した2人は攻撃を止め、戦略的撤退を選んだ。

その近くで、アリエッタだけが動かない。


「アリエッタ、逃げるのよ!」

《アリエッタ! しっかりしなさい! 危ないわよ!》


外からも中からも呼ばれるが、全く聞こえていない。


(いやだ……いやだいやだいやだいやだいやだ!! あの子を返して……)


息が荒くなり、涙が零れる。こんな状況で、泣き虫のアリエッタが耐えられる筈が無い。


「しかたない。パフィがアリエッタをはこんでくれ!」

「分かったのよ! さぁアリエッタ!」


パフィが手を伸ばしたその時、アリエッタが泣きながら自分の言葉で叫んだ。


『返してえぇぇぇぇ!!』

「わっ!?」


アリエッタから軽い衝撃波が放たれ、近くにいたパフィが驚いて手を引っ込める。

そして次に見たのは……


「ア…アリエッタ?」

「なにこれ、綺麗……」

「まさか」


落ち着いた感じで息を吐き、涙をぬぐい、ゆっくりと開いた目は怒りに燃えている。その少女の髪は、虹色に輝いていた。




街中ではピアーニャの父であるワッツが、移動しながら住人に指示を出していく。


「一時的に公園は封鎖! 巻き込まれた者がいないか確認!」

「ワッツさん! 俺の息子が公園に!」

「ウチの子も!」


屋敷が大きいだけで権力を持っているわけではないが、リージョンシーカーなどの功績を残したピアーニャの家の信頼は厚い。こういった状況では自然とリーダーのような扱いとなっている。


「『ドルネフィラー』に近寄る人数は少ない方が良い。もしもの時は帰りが遅くなるから、ルミルテに知らせてくれないか」

「わかった。気を付けてくれよ」


子供達が公園にいる事を聞いたワッツは、単身で『雲塊シルキークレイ』に乗って公園へと急いだ。


「そういえばピアーニャはどこにいるのだ? アリエッタあのこと一緒にいるなら、丘か公園かお菓子の店か……『ドルネフィラー』の発生に巻き込まれていなければ無事だと思うが」


娘の身を案じながら、間もなく公園にたどり着いた。

そこでワッツが最初に見たものは……


バチコーン

『なーーーーっ!?』


橙色の剣のような物で『ドルネフィラー』を物理的に叩く、アリエッタの姿だった。

そのありえない光景に、ワッツだけでなく、その場にいたピアーニャとネフテリアも叫んでいた。




アリエッタは激怒していた……いや、


『よくも私の娘を泣かしてくれたわね。この紫饅頭』


その呟きは、アリエッタの母、女神エルツァーレマイアのものだった。

ほんの少しの間とはいえ、仲良く遊んだ女の子が飲み込まれたショックで、アリエッタは思いっきり泣き叫んだ。その瞬間、アリエッタの中にいたエルツァーレマイアがブチ切れたのである。

これ以上は危ないと、強制的にアリエッタの精神と交代し、『ドルネフィラー』を叩いたのだ。


《みんなぁ……ぐすっ》

『安心しなさい。どういう訳か、みんな生きてるわ』

《……ほんと?》

『ええ、コレが何なのかは分からないけど、ママに任せなさい』(泣いてるアリエッタも可愛いけど、恐怖で泣かせるなんて許せない!)


自分達にだけ分かる言葉で優しく呟きながら、エルツァーレマイアは両手を広げる。その周囲には、橙色と黒色が捻じれて模られた円錐状の物体が、4つ浮かび上がった。

そんなアリエッタの姿を見ている大人達5人は、あんぐりと口を開けて佇んでいる。ちなみに他にも数人いた人々は、無事公園から逃げ去っていた。


「やっぱり怒ったら凄いのよ……何なのよアレ」

「前もあんな感じだったの? 信じらんない」

「まったくだ……」


一度見た事のあるパフィとピアーニャは、やや冷静に見れている。ミューゼも状況を知りつつ話は聞いていたので、心底驚いてはいるがパフィに話しかける程度には余裕がある。

しかし、虹色に輝く髪のアリエッタを初めてみるネフテリアとワッツは、完全に言葉を失っていた。

アリエッタの髪の色にはもちろん驚いているが、それ以上に驚く理由があった。


「なんで…なんであの子、『ドルネフィラー』を殴ってるの?」

「なにもかもすり抜ける筈だぞ? どういう事だこれは……!」


先程が通じたという情報に喜んだのは、『ドルネフィラー』に一切の物理攻撃が効かないからである。ピアーニャの『雲塊シルキークレイ』はもちろん、ネフテリアが魔法で生み出した炎などの物理現象は、『ドルネフィラー』に当たる事無くすり抜けていた。ただし、炎を飛ばしている魔力そのものは物質とは違う為、当てることが出来たのだ。魔属性の魔法が通じたのはその為である。

しかし、エルツァーレマイアの彩の力は、そんな現象を無視して殴りつけた。『ドルネフィラー』の事を知っていた3人が驚くのは無理も無い。


「あ、とーさま。きていたのか」

「ピアーニャよ、これは一体……」

「わからん」

「わからんて……」


正直に一言で答えると、ワッツが呆れた。その会話にもなっていないやり取りに、ネフテリアも参加する。


「これがアリエッタちゃんの本当の力って事?」

「さぁな。それをしるために、こうやっていっしょにいるのだ」

「とかいって、お姉ちゃんを放っておけないんでしょ?」

「わちのほうがトシウエだからな!?」


ミューゼの揶揄いには、条件反射でツッコミをいれていた。

そのツッコミがエルツァーレマイアの耳に届く。


《ぴあーにゃ!》

(ぴあーにゃちゃんが応援してくれているわね。ここはアリエッタの代わりに良いところを見せてあげないとね)


ただの大声を応援と勘違いした女神が、娘の為に気合を入れる。

開いていた両腕を前に突き出し、浮かんでいた円錐状のモノを『ドルネフィラー』に向かって飛ばした。


ギュルイィィィ!!


回転しながら紫の壁にぶつかり、耳障りな音を立てている。それも4か所同時で大音量になっている。

そして円錐がぶつかっている箇所を中心に、『ドルネフィラー』が大きく歪み、大きく波打っていた。


「こんな事ってありえるの?」

「いや、かんぜんにヒジョウシキだ」

「総長ヒドイ! アリエッタあんなに頑張ってるのに!」

「そうなのよ。アリエッタに失礼なのよ」


事情と『ドルネフィラー』を知らないミューゼとパフィが、よく分からないままとりあえずアリエッタを擁護する。

ピアーニャは少しイラッとしたが、2人を無視して観察を続けた。


(一体何で出来ているのかしら、これ。柔らかいのに全然削れない。一応私、神なんですけど!?)


神の力でも波立たせる事しか出来ないその物体に、エルツァーレマイアの…アリエッタの顔が引き締まる。

その様子を見ているミューゼ達は、心配そうに…そしていつでも駆け寄れるようにしていた。もしもの時はアリエッタを助ける為である。


「アリエッタ、大丈夫かな」


《ママ……》

『大丈夫、心配しないで』


心の中のアリエッタをあやしながら、怒れる母は再び『ドルネフィラー』を睨みつけた。

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