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※冨岡先生(21)、生徒・胡蝶しのぶ(18)、互いに前世記憶アリ


かつての鬼殺隊・蟲柱であった胡蝶しのぶ、水柱であった冨岡義勇は互いに深く愛し合っていた。最期まで――。


時が経ち、キメツ学園体育教師・冨岡義勇とその生徒の胡蝶しのぶとして生まれ変わった2人だが、2人とも前世の記憶が残っていた。2人とも、今世でもお互いに愛し合っている。しかし今は”教師と生徒”、卒業するまで決して結ばれてはならない。2人の距離感は、「ギリギリセーフ」なところでキープしていた。


そんな中やって来たバレンタインの日🍫💗



昼休みが終わったあとも、義勇の机の引き出しは没収したチョコでいっぱいになっていた。どれも「先生のために頑張って作った!」と笑顔で差し出されたものだが、義勇の表情は終始変わらない。


「チョコは禁止だ。没収する。放課後に取りに来い」

冷たく突き放すその口調に、女子生徒たちは少し不満げにもしながらも、義勇の顔の良さに「まあいいか」と笑って去っていく。


義勇にとって、ただの行事。

しかし、その机の引き出しがどれだけ埋まろうとも、彼が本当に欲しいのは一つだけだった。


――胡蝶しのぶからのチョコ。


甘い物は苦手でも、彼女が作ってくれるチョコだけは別。

それは味の問題ではなく、彼女が自分のために用意してくれた、その気持ちが何よりも特別だからだ。



一方、しのぶは教室の隅で、鞄の中に入れたチョコの箱をそっと撫でていた。

薄紫のリボンをかけた、小ぶりの箱。

義勇の好みに合わせて甘さを控えめにしたガトーショコラだ。


(あの様子じゃ……先生に渡しても、没収されて返されるだけかもしれない)

彼が他の女子生徒に告げた冷たい言葉が、耳の奥で何度もリフレインする。

分かっている。立場も、ルールも。

でも、作ったものを「禁止だ」と突き放されるのはやっぱり寂しい。


しのぶは、何度も教室を出ようとしては、引き返した。



そして放課後近く。

廊下の向こうから義勇が歩いてきた。

肩にかけた鞄、いつも通りの無表情――でも、その眼差しが一瞬だけ彼女の手元に落ちる。


(……ある)

小さな箱。薄紫のリボン。

義勇は一目で、それが「自分のためのもの」だとわかった。

そして、しのぶの微かに迷うような表情から、彼女が何を不安に思っているかも察した。


義勇はすれ違いざまに足を止めた。


「……チョコは禁止だ。没収する」


周囲には、あくまでいつも通りの冷たい調子。

しかし次の瞬間、彼は一歩近づき、耳元に顔を寄せ――低く囁く。


「……有難く頂くぞ」


しのぶの頬が一瞬で真っ赤になる。

胸の奥がじんわり熱くなり、思わず視線を逸らす。


「……冨岡さんにしては、賢いやり方ですね」

恥ずかしさを隠すための、少し棘のある声。


義勇は何も言わず、そのままチョコを受け取り、静かに去っていった。

けれど背中越しに見えたその耳は、うっすら赤く染まっていた。



             『二人だけのバレンタイン  [終]』

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