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「それじゃあ、行ってきます。アードの栄養ドリンクみたいに変なものは入っていませんからご安心を!」
フェルは半ば押し付けるようにリーフの栄養剤をジョンに手渡して再び転移した。さて、その場に残されたのは栄養剤である薄い緑色の液体が満たされた瓶を持つジョンである。
彼はフェルの想いを無下にするわけにもいかず、途方に暮れていた。明らかに栄養ドリンク同様嫌な予感がするのだ。
かといって、ここでフェルの厚意をちゃんと汲み取れるのが御人好しのジョン=ケラーと言う漢である。
彼にこの栄養剤を利用しないと言う選択肢は存在しない。とは言え今すぐに飲むことは躊躇してしまう。
そんな彼を、白衣の老若男女が何処からか現れて取り囲む。その先頭には何故か日本の扇子を両手に持ったエドワード=ホップス主席研究員が居た。
エドワードが徐に扇子を開き、そして軽快に舞い始めた。
「あっそーれ!」
「「「イーッキッッ!!!」」」
「あよいしょ!」
「「「イーッキッッ!!!」」」
「あっそーれ!」
「「「イーッキッッ!!!」」」
「もういっちょぉ!」
「「「イーッキッッ!!!」」」
唱和されるイッキ飲みの煽り。それを受けてジョンは瓶の蓋を開いた。
「ええいっ!!!ままよぉ!」
~遡ること一時間前~
こんにちは、異星人対策室のジョン=ケラー室長の娘、カレン=ケラーです。
誘拐事件以来、私の生活は一変してしまいました。学校の送迎は軍用車で、更に学校には警備の軍人さんがうろうろするようになってしまった。
友達とのんびり学園生活を送るなんて無理だし、放課後の寄り道も禁止。本当なら異星人対策室のビルに缶詰生活になる筈だったのを、お父さんが無理を言って学校へ通わせてくれるようにしてくれたんです。
息苦しさを感じることはあるけれど、文句は言えない。学友の皆には窮屈な想いをさせちゃって申し訳ないけど……。
学校以外では異星人対策室のビルで一日を過ごすことになります。お父さん達は外出を勧めてくれますが、護衛が必要らしくてただでさえ忙しいのに私のために手間を取らせるわけにはいかないから、基本的には本を読んだり勉強しています。
最近はティナがプレゼントしてくれた海洋庭園で過ごすことが多いかな。外との時間が切り離されているけれど、実はこの機能を弄ることが出来る。
つまり、海洋庭園の中で一時間過ごせば外でも一時間が経過するってこと。夢中になって時間の感覚が狂うと悪いから現在時間を表示して貰って、お父さん達異星人対策室の人達なら私を呼び出せるように設定してもらった。アリアさんには足を向けて眠れないね。
そして今日は学校もお休みで、ティナ達は大統領と会食に参加するらしいから私は素直に海洋庭園で過ごすことにした。
万が一に備えて海洋庭園の水晶は四階のホールに置いているし、入る前にお父さんに伝えるのを忘れない。一度伝えるのを忘れた結果、私が行方不明になったって騒ぎになっちゃったことがあるんです。反省です。
海洋庭園でのんびり海の生き物達と過ごしていると、何だか嫌な予感がした。具体的にはお父さんがまた面白おかしくなっちゃうような予感。
ティナの善意百パーセントのやらかしで、お父さんは色々と愉快な存在になっちゃってる。本人が気にしていないし、そのお陰で救われた身としては文句を言うつもりはない。ティナに悪気がないのはよく分かってるからね。
ただ同時に、お父さんみたいな変化に興味が湧いているのも事実。ジャッキー=ニシムラ(腹筋は六つに割れている)さんに相談してみたら、その好奇心を大切にするようにってアドバイスを貰ったし。
嫌な予感もあるし、一旦海洋庭園から出てみたらお父さんがドクターを中心とした白衣の皆さんに囲まれてる。お父さんが持ってるのは……飲み物かな。白衣の皆さんの目が血走ってて怖いけど、あの表情は何度か見たことがある。ティナやフェルが何かを持ち込んだ時にする顔です。
なら、お父さんが持ってる飲み物は地球のものじゃない。軽率ではあるけれど、ジャッキーさんのアドバイスに従って好奇心に従ってみよう。
今まさに瓶の中身を飲もうとしたお父さんの逞しい手から瓶を取って。
「カレン!?待て!」
私は一気に中身を飲み干した。ううん、ちょっと苦いかな?
私の行動にお父さん達が唖然としてる。ただ、ジャッキーさんだけが腕を組んで頷いてくれた。何だっけ?日本の……赤いランドセル?を背負ってるけど。黄色い帽子に水色の服、スカートと相変わらず不思議な服装だけど。
「何と言うことを!カレン!」
「ごめんなさい、お父さん。でもずっと興味があったの」
「だからといって……ううむ」
あー、お父さんが困った顔をしてる。叱ろうにも中身はティナかフェルからの貰い物だし、怒り難いのかもしれない。
「カレンお嬢さん、体調に変化は無いかね?」
ドクターが心配してくれた。流石に私が飲むとは思わなかったみたい。
「うーん、特には」
別にお父さんや朝霧さんみたいに身体が光ったり変化は……うん?何だか身体がむずむずする!
「いけないっ!」
「カレン!?どうした!?待ちなさい!」
嫌な予感がして私は直ぐにビルを飛び出した。身体中がむずむずして、何だか変な感じ。でも、この場に居たらダメだと咄嗟に判断できた。
ビルを飛び出した私はそのまま直ぐ近くにある公園へ飛び込んだ。幸い他に人は居ないみたいだ。
私の後からお父さん達がやって来るけど。
「それ以上近づいちゃダメ!」
「カレン!何があったんだ!?何処か悪いのか!?」
「近付かないで!」
私の訴えが届いて、お父さん達は立ち止まる。とても心配そうで申し訳ないけど……お父さんが面白おかしく変化するのは止められる。それに、危険なものをティナ達が持ってくる筈はない。
……ああ、ダメだ。我慢できない!
私は沸き上がる衝動に身を委ねて、思い切り背伸びをした。
「かっ……カレン!?」
「うほほぉーーーーーーーッッ!」
「「「キターーーーッッ!」」」
あれ?何だろう?お父さん達が小さくなった?いや、周りのものが全部小さい……何だかジオラマを見てるような気分です。
明らかな変化を見せたカレンを見つめるジャッキー=ニシムラ(当然だが名札はひらがな)はこう語る。
「ふむ、巨大化か。需要はあるな」