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軌道上のプラネット号へ転移した私たちは、直ぐに出発の準備を始めた。私は艦長席に、フェルがオペレーター席に座って端末を弄る。転移、便利だなぁ。わざわざギャラクシー号を使わなくても直ぐに戻れるんだから。相変わらずフェルの魔法はチートだ。
「アリア、ボイジャーの位置は分かる?」
『航路データを入手しました。最後に観測された位置からある程度範囲を絞ることは可能です』
「じゃあ、その位置まで移動するよ。そこからスキャンを使って探索しよう」
広範囲のスキャンも出来るけど、私が生きていた時代でも既に太陽系の外縁部まで到達していた筈。少なくとも海王星より先に行っていた筈。スキャンは周囲に何もない方が精度も上がるしね。
「それでは、太陽系から出るんですか?」
「そうなるかなぁ」
厳密には太陽系外縁部だから星系から出た訳じゃないけどね。まあ、海王星の先に行くんだから離れると言えば離れるんだけど。
「あっ、でもボイジャーは二つあって別方向に向かってるよね?」
『どちらも推定位置を割り出しています』
「流石アリア!じゃあ先に一号から探しに行こっか」
『畏まりました。ではこれより地球軌道より離れて探索を開始します』
ゆっくりとプラネット号が動き始めた。ん?
近くにあるISSを拡大すると、窓から宇宙飛行士の皆さんが手を振ってる。振り返しても分からないだろうから、ライトを点滅させて応える。
ゆっくりと地球から離れて、星の海へと漕ぎ出していく。この瞬間は何度経験しても感動する。こればっかりは変わらない。
ん、少しは時間もあるかな。
「アリア、各惑星の近くを通りながら行きたいけど……時間が掛かるかな?」
『問題はありません。致命的な遅延にはなりません。一時間程度のロスで済みます』
「じゃあ、お願い」
地球と同じで他の惑星も太陽の周りをグルグル回っているわけだから、真っ直ぐに向かっても意味がない。探査衛星なんかも目標の軌道を計算しながら打ち上げるし。
ただ、プラネット号ならその心配は要らない。何せ惑星より速いからね。
ハリソンさんからの依頼だから少しでも早い方が良いんだけど、一時間くらいは寄り道させて欲しい。もちろん、センチネルの反応が今現在少なくとも数光年先まで無いのを分かった上で、だよ。センサーにも限界はあるけどね。
『では恒星から順に回りますか?』
「いや、流石にそれはしないよ。火星から外側だけにする」
つまり火星、木星、土星、天王星、海王星の順番だよ。
『畏まりました、航路を設定します』
「うん?ティナ、月でしたっけ?あの衛星に人工物の反応がありますよ?」
「おー、月面基地かぁ」
地球人類は小規模だけど月面に基地を建設することに成功してる。とは言え数人が滞在する程度の小さな基地だけど。
ISSは破棄される予定だったけど、月面基地の開発と連絡の中継地点として改修されて今も存在してるってインターネットに情報が載ってた。私が死んで少なくとも30年程度は経ってるし、そりゃ月面基地も作られてるよね。
各国でバラバラだった宇宙開発を統合宇宙開発局を設立して一本化してるから、開発速度が早まったらしい。
月面基地は今後の宇宙開発のための中継地点としての役割と、地球とは異なる環境下での様々な実験が繰り返されているらしい。地球人類が他の天体へ進出するのもそう遠くない筈。
センチネルの脅威がある以上、対抗手段や逃げる方法を確立するまで外宇宙へは行かない方が良いんだけどね。
「あの衛星は居留地にするにはちょうど良さそうですね」
「移民計画でも立ててみる?」
「ふふっ、それも楽しそうです」
今のアードじゃ移民を募集しても誰も応募しないだろうけどね。ただ、将来的には月に拠点がある方が色々楽かもしれない。ハリソンさんに相談してみよう。
私たちはしばらく雑談しつつ雄大な惑星の数々を間近で観察した。土星の輪は迫力満点だし、巨大な木星は見ていて圧倒された。天王星、海王星にも輪っかがあって新鮮だった。海王星が青く見えるのは大気の影響だったかな?
あっ、そうだ。
「アリア、折角だから観測データを地球へ送ってあげて」
『畏まりました。宛先は異星人対策室ですか?それとも統合宇宙開発局ですか?』
やっぱりジョンさんかなぁ……っと!いけない!またジョンさんに負担を掛けてしまう。簡単な観測データでも騒ぎになるかもしれないし、ジョンさんを巻き込みたくはない。
またやらかしてしまうところだったよ。危ない危ない。
「取り敢えずハリソンさんに送って。進捗と一緒にさ」
『畏まりました』
余談だが、これらの観測データは地球にあったこれまでの定説を覆すような事実が幾つも存在し、それを公表すれば天文学界を中心に大騒ぎになると知ったハリソンと補佐官のマイケルが頭を抱えたのは言うまでもない。
つまり、|やらかし回避は失敗《いつものこと》である。
外縁部である海王星を通り過ぎてしばらく航海する。何処までも広がる無数の星の輝きは、見飽きることがない。センチネルが居なかったら思う存分宇宙を冒険したいと何度も考えたものだよ。
『推定される宙域に到着しました』
「うん、スキャン開始。フェル、全周囲警戒を怠らないで」
「はい!」
『短距離スキャン開始……人工物を確認しました。これより向かいます』
「お願い」
宇宙に出るとロマンで胸がときめくと同時に恐怖心が顔を覗かせる。この広い宇宙に散らばるセンチネルの恐怖だ。何度かやり合ったけど、絶望以外を感じたことはない。特にラーナ星系での出来事は……。
「っと!」
「ティナ?」
「何でもないよ、フェル」
暗い考えに支配されそうになった頭を振る。今は目の前の事に集中しよう。この交流は絶対に無駄にならない。
『発見しました。投影します』
アリアの報告と一緒に投影されたそれは。
「ボイジャーだ……」
長い旅路で傷付いたのか、あちこちに損傷は見られるけど間違いなくボイジャー1号だ。前世で夢中になって画像を見ていたからよく覚えている。
良かった、見つかった。
「回収しよう。トラクタービーム照射用意」
「破壊しないんですか?」
「うん、彼も長い旅をしてきたんだ。地球へ帰してあげよう」
私が関わらなかったら、もっと永い年月旅を続けられたと思うと申し訳なく思うけど……せめて、連れて帰ろう。
トラクタービームで引き寄せられてくるボイジャー1号を見つめながら、ティナは呟いた。
「迎えに来たよ。おかえり、ボイジャー。御苦労様でした」