テラーノベル
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どれくらい時間が経ったのか分からなかった。
伊波ライは、ベッドに入っても眠れずにいた。
頭が痛い。
胃も気持ち悪い。
会社で怒鳴られた声が、ずっと頭の中に残っている。
「使えねぇ」
「なんでこんなミスした?」
「お前のせいだろ」
毎日毎日、そんな言葉ばかり浴びせられる。
息が詰まりそうだった。
家に帰れば少しは楽になれると思っていた。
なのに。
マナの怯えた顔を見るたび、胸の奥がざわつく。
苦しくて、イライラして、
その感情をぶつけてしまう。
最低だと分かっているのに、止められなかった。
ライは深く息を吐き、寝返りを打つ。
その時だった。
──ガタン。
小さな音。
ライは眉をひそめる。
「……マナ?」
返事がない。
いつもなら、どれだけ遅くても
「おやすみ」
って言いに来るのに。
嫌な予感がした。
ライは重たい身体を起こし、リビングへ向かう。
電気はついたまま。
割れた皿。
散らばった破片。
そして。
床に倒れているマナ。
「……は?」
ライの思考が止まる。
マナは動かなかった。
顔色が真っ白で、呼吸も浅い。
「お、おい……!」
駆け寄る。
肩を揺らす。
反応がない。
その瞬間、血の気が引いた。
「マナ、起きろ……っ」
震える声。
腕を掴んだ時、視界に入った。
細い腕に残る痣。
首元の赤い跡。
頬の腫れ。
全部、自分がつけたものだった。
ライの呼吸が止まる。
「……俺、が」
頭の中に、今までの光景がフラッシュバックする。
怯えるマナ。
泣きながら謝るマナ。
“ライのほうがつらいから”
と笑おうとしたマナ。
なのに自分は。
その優しさに甘えて、
傷つけて、
壊していた。
「っ……」
手が震える。
吐き気がした。
「俺、何して……」
愛していたはずだった。
守りたかった。
ずっと一緒にいたかった。
それなのに。
自分のせいで、マナがこんなになっている。
ライは震える指でスマホを掴む。
何度も落としそうになりながら救急へ電話をかけた。
声がうまく出ない。
「た、倒れて……っ、息、が……」
情けないくらい震えていた。
───
病院。
白い廊下。
ライは椅子に座ったまま動けなかった。
手には、乾いた血が少しついている。
さっきまでマナを抱えていたからだ。
頭の中が真っ白だった。
医者に何を言われたかも、ちゃんと覚えていない。
“過労とストレス”
“栄養不足”
“かなり衰弱している”
その言葉だけが耳に残っていた。
全部、自分のせいだった。
ライは両手で顔を覆う。
震えが止まらない。
思い出すのは、昔のマナだった。
「ライー!」
って笑いながら抱きついてきて、
美味しそうにご飯を食べて、
隣で幸せそうに眠っていた。
あんなに大事だったのに。
いつから、
帰る場所じゃなく、
傷つける場所にしてしまったんだろう。
「……っ」
ライの喉から、掠れた声が漏れる。
泣く資格なんてない。
苦しいのはマナなのに。
それでも。
“このまま失うかもしれない”
そう思った瞬間、初めて本当の恐怖を知った。
コメント
1件
このエピソード、胸が締め付けられるような読後感でした…「全部、自分がつけたものだった」という一文で、ライの自覚と後悔が一気に押し寄せてきて、本当に苦しかったです。昔のマナとの幸せな記憶と、今の自分を重ねる描写が切なくて。このまま失うかもしれないという恐怖に初めて直面したライ──ここからどう変わっていくのか、見守りたい気持ちでいっぱいになりました。しろまるさんの書く繊細な心情描写、引き込まれます🤍