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あの日、兄が帰って来なかった日
自宅の電話を取ったのは私だった
『飯田橋警察です。藤田詩音さんが、水道駅で列車に接触されました。……残念ながら、即死の状態です。これより検視を行いますので、ご家族の方は身元確認のため警察署までお越しいただけますか』
電話口の相手は淡々と伝えた。
こんな酷いイタズラ電話をする人が居るなんて。
私は直ぐに電話を切って、コネクトを引き抜いた。
憔悴しきった母が来て
「電話、誰だったの詩音から?」と聞いた。
「ん、ただのイタズラ電話」
そこから一時間も経ってない。
パトカーのサイレンが家の前で止まり、インターフォンが鳴った。
私と母は多分同じことを考えていた
(詩音が犯罪に巻き込まれた?)
だけど、玄関先に出た母は
突然大きな悲鳴をあげた
―――
ブルーシートで覆われた兄は、顔が見れなかった。
そもそも身体の部分ごとに置かれていたらしい。
――損傷が激しいため
そう言われた
―――
母は、青ざめた顔のまま
兄の遺品を受け取った。
ビニールの中にあったのは汚れて、破れた財布だけ
―――
兄の四十九日も終わらないうちに
鉄道会社の担当と名乗る人がやってきた
『故人様の件で、当法人が被った損害ですが……』
損害明細という書類を置いていった
―――
母は寝込んでしまった。
1800万円超の賠償金は、金額が大きすぎて
ふざけた冗談のようだった。
「お母さん、うちに貯金っていくらあるの?」
「貯金?あんたたちの入学やらなんやらで無いわよ。養育費も拒否したのバカな選択だったわ」
親族からかき集めた300万円、とても足りない。それにそれも返さなきゃいけない。
私は高校を辞めて、お母さんと二人でとにかく働くことになった。
未成年の私にできるアルバイトを生活費に当てて、お母さんの稼ぎと消費者金融を回って借りたお金、それでも全然足りなかった。
それでも、お母さんは私に気遣い
一人で無理をしていた。
お父さんも、出来るだけのことはすると言ってくれたが、お母さんは拒否した。
だから、私が代わりに受け取ってお母さんに少しずつ手渡していた。
お父さんの不倫でヒステリーだったお母さんは、今はただ身体に鞭を打って
息子の残した負の遺産を自分の責任だと受け入れていた。