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第3話 人間の家

カチッという音でドアが開いた。布にくるまれて何も見えないけれど、そこが人間の家だということだけはわかった。

―逃げなくっちゃ

渾身の力を込めて、人間の腕を振りほどき、近づいて来ようとする人間に向かいシャーと威嚇しながら、僕は一番近くの部屋

に、転がるように逃げ込んだ。

ゼイゼイと肩で息をしながら、それでも最後まで戦おうと、精一杯の勇気を振り絞って人間を睨みつけた。

そのあと最高レベルの(近寄るな光線 )を続けざまに放射した。

人間は、ドアのところに立ったまま、何か言いたげに僕のことじっと見ている。

ー負けるもんか!

僕はさっきより大きな口を開けて、二度、シャーシャーと威嚇の声を響かせた。

「○△×」

そんな言葉を残して、といっても僕に人間語がわかるはずはないのだが、人間はドアを閉めて出て行った。

僕は、しばらく息を殺して、鈍く光るドアの取っ手を睨んだままでいた。

不気味な静寂が僕の体を包んでいる。まだ敵は近くにいるに違いない。

―これから一体どうなるんだろう。どんな目に遭わされるのだろう。

心細さに締め付けられながら、それでもなんとかドアに向かって(近寄るな光線)を放射し続けた。

もうそれ以上の抵抗は考えつかなかった。

そうしている間にも、後ろ足の痛みが体中を貫き始め、もうこれ以上 “逃げる”という行動は不可能に思えてきた。

―もう、ダメかもしれない。

精根尽き果てた僕は、ゆっくりと目を閉じた。


瞼の裏にノラ猫集団の仲間たちの顔が、次々と浮かんでは消えて行く。

ああ、もう二度とあいつらに会えないんだ。


次の集会はいつだろう。

僕のいないのを知って、皆は心配してくれるだろうか。いや、もしかして、僕が人間に捕まったのを見ていた誰かが、そのこ

とをボスに報告していたとしたら、僕の名前はもう、ノラ猫名簿から抹消されているはず。

どちらにしても、僕の存在は無くなっている。要するに、そういうことなんだ。

頭の中が、かっと熱くなった。寂しさが体中を締め付けてくる。

僕は前足で何度も顔をこすりながら、とりあえず気持ちを落ち着けようとした。

ふと、お嬢さんの顔が浮かんできた。

そうか、それでも最後には、憧れのお嬢さんに会えたんだ。

挨拶はできなかったけれど、お嬢さんは、しっかりと僕を見てくれた。

そして、涙まで流してくれたんだ。もう、いいことにしようか。

覚悟を決めたようにゆっくりと顔を上げ、僕は恐る恐る部屋の中を見回してみた。

ーこれが人間の住み家か……。

画像 騒がしく、排気ガスにまみれた外の空気と違い、ここの空気は落ち着いている。いや、落ち着きすぎてる。

後ろ足をかばいながら、僕はゆっくりと部屋の中を移動してみた。

何だろうこの気持ちの悪さは。息が詰まりそうだ。

僕は、鼻の穴をぷくぷく動かしながら、辺りの空気を力いっぱい吸い込んでみた。

ああ、そうか、人間以外の生き物の匂いがしないんだ。

猫の匂い、犬の匂い、草花の匂い、土の匂い、虫の匂いなどなど、慣れ親しんだそれらの匂いが、ここには何もない。

風さえも感じられない。

空は?と、後ろにひっくり返りそうになりながら背中を反らして見上げると、そこには小さな窓があり、四角に切り取られた

青い空が、微かに見てとれた。


嫌だ! こんなとこ絶対に嫌だ!

こまっていた体を伸ばしながら、僕は思い切り肉球を握りしめた。

と耳の奥に、懐かしい声が蘇ってきた。

立派なオス猫として生きていくんですよ。


母さんの声だ。お母さんが、僕の門出に贈ってくれた言葉だ。

僕たち外で生まれたオス猫は、お母さんのお乳が離れ、自分でエサが採れるようになると、独り立ちをする。

つまり、家族と別れて、独り暮らしを始めるんだ。


そう言えば、あの日も、雨上がりの青い空が広がっていた。

僕は、やっと独り立ちできる喜びで、朝からワクワクしていた。

同じ日に生まれた他の兄弟たちは、とっくに独り立ちの日を迎え、旅立っていた。

画像 が、気が弱く狩りの苦手な僕は、なかなか独り立ちが許してもらえず、ひとり残って、ずっとお母さんに面倒をみてもらっていた。

それは、お母さんにとって悩みの種だったし、僕も肩身の狭い思いでいた。

「待ちに待ったこの日が来たぞ」

ゆっくりと明らんでくる東の空を仰ぎながら、僕は爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

早朝の気持ち良い陽の光が、体中に染み渡る。

「さあ、出発の日ですよ。あなたはもう、どこに出しても恥ずかしくないくらい、たくましく立派に成長した

オス猫ですからね! 」

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お母さんは、しっかりとした口調でそう言った。

いやいや、それはお母さんの買い被りだよ、と言いながらも、僕はやっと母親に一人前のオス猫として 認められた喜びで、

胸がいっぱいだった。

「お母さん、今までありがとう。お元気で」

別れの言葉を言うが早いか、僕は雨に洗われキラキラ光る緑の中に飛び出した。

後ろから、お母さんの力強い激励が聞こえてくる。

「立派なオス猫として生きていくんですよ!」

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お母さん、僕もそのつもりだったよ。最初はね。だけど…… 。

僕は、まだひりひりしている後ろ足を、ゆっくりと舐め始めた。

だけど、立派なオス猫として生きていくのがそう簡単な話ではない、という事実を、それから数時間も経たないうちに、思い

知ることとなった。


家を出た僕は、まず自分の住み家を探すことにした。

日当たりが良くて、風通しが良くて、人間のゴミ捨て場にも近くて、それでいて人間たちに見つからない場所。

独身のうちは狭くて構わないが、そうか、所帯を持つようになれば、それなりの広さが必要になるよな。まあ、それはその時

になって考えれば良いか。

まずは、独身時代を謳歌しよう。そして、素敵な彼女を見つけるんだ。

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お母さんのように気が強くなくて、いつも笑顔で僕に寄り添ってくれるような優しい女性。

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できれば、ぽっちゃり体形の……。

画像 わぁ、何だかドキドキしてきたぞ。

雨に洗われキラキラ光る緑をくぐり、早朝の澄んだ空気を全身に浴びながら、僕は上機嫌で初夏の日差しと戯れていた。

時折聞こえてくる小鳥たちの歌い声に、思わず鼻歌までが飛び出してくる。

素敵な彼女を見つけるためにも、まずは家探しだ。

せっかく彼女ができても、僕ホームレスです、では様にならないもんな。


とその時、いきなり横腹に衝撃を受けた。

あっという間もなく、僕の体は横に倒され、次の瞬間、激しい力が体全体にのしかかってきた。

「誰に断って俺たちの縄張りに入ってきてるんだ」

ドスのきいた荒い息が、耳元で囁いた。

画像 僕は、生まれて初めて味わう恐怖に、縮み上がった。動こうとしない僕を見て、その声の主は、ゆっくりと僕の体から降りた。

ホッとして顔を上げると、そこには目の釣りあがった真っ黒い体のオス猫が、いつでも飛びかかっていくぞと言わんばかりの

形相で、全身の毛を逆立て、体を膨らませている。

「あ、あの、ぼ、僕……」

耳をペトっと後ろに倒し、尻尾を後ろ足の間に丸め込んだ僕を見て、黒いオス猫はすうっと体を元のサイズに戻し、ニヤッと

笑った。

「さっきまで、お母ちゃんのお乳を飲んでたって訳だな」

画像 え、お乳なんか、と言いかけた僕を制し、黒のオス猫はさっきとは別猫のように、親しみを込めた口調で言った。

「これからボスのところに連れていってやるよ。最近よそに引っ越していくすオス猫が多くて、メバー募集をしていたところ

なんだ。今まで、どこの野良猫集団にも属したことのない、お前さんのような若い衆は大歓迎だ。さあ、ついて行ってやるか

ら、まずボスに挨拶だ」

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こんないきさつで、僕は独り立ちしたその日のうちにノラ猫名簿に登録され、この地域に住むことを許された。

それから、初めに探してた理想の家とはちょっと違うけれど、何とか僕の体をねじ込められる広さの錆びた鉄板の間を見つ

け、そこを住み家にした。

どうであれ、念願のマイホームってやつさ。

僕は、独り立ちの日を懐かしく思い出しながら、まだ痛みの残る後ろ足を、丁寧に舐めた後、体をねじり、今度は尻尾の方を

丁寧に舐め始めた。

こうやって、体を舐めていくと不思議と気持ちが落ち着いてくる。

ーそれにしても、ボスは凄かったよなぁ。

見事なまでに均整のとれた肢体と、それを覆う真っ黒い毛皮。

陽に照らされ黒光るその姿は、エネルギーの塊そのものだった。

画像 あの日、ボスのところに連れて行かれた僕は、緊張でガチガチに固まっていた。

だけど、ボスから集団の規則を丁寧に説明してもらっているうちに、少しずつ気持ちが楽になってきた。ボスは、威圧感あふ

れるその姿からは想像できないけれど、何ていうか、包み込むような優しさを持っていた。始めはドキドキしていた僕も、ボ

スに会ってほっとした。

次の満月の夜、ノラ猫集会の初っぱなに、僕は新しいメンバーとして皆に紹介された。

画像 司会のキジ猫からいきなり「自己紹介をどうぞ」と言われ、切り株の壇上に立った僕は、緊張のあまり、頭の中が真っ白にな

ってしまい、蚊の鳴くような声で一言

「よ、よろしくお願いします」

と頭を下げるのがやっとだったが、集団の仲間たちは皆、尻尾をピンと立て、そんな僕を大きな拍手で迎えてくれた。

以来、ノラ猫集団の一員として、僕は新生活を満喫していたし、その生活はずっと続くはずだった。


ふと現実に戻った。

今、僕は人間に捕らえられ、監禁されている。のけぞるようにして見上げると、四角に切り取られた窓の向こうに、鳥が二羽

楽しそうに羽ばたいている。

ー帰りたい。

ボスがいて、仲間がいて、憧れのももちゃんのいる、あのノラ猫集団に。なんとしてでも帰りたい。

諦めるのはまだ早い。

ー人間が帰ってくる前に、なんとか!

糸くずのように垂れ下がったヒゲを横にピンと張り、体を動かしかけた途端、ドアの向こうに人間の足音が近づいてきた。

ーしまった。

バタバタと″近寄るな光線”の準備に手間取っている僕の前で、勢いよくドアが開き、さっきの人間が部屋に入って来た。僕は思わず体を縮める。

「○△×」と訳のわからないことを言ってから、人間は僕の方をチラッと見たあと、ポンポンと食べ物と水を並べたかと思う

と、さっさと部屋から出て行った。

―何だ?

思いもしなかった美味しそうなごちそうを前に、僕は自分を精一杯落ち着かせようとしていた。

―もしかしたら、僕を太らせて食べようとしているのかも知れない。

そうだ、そうに決まっている。

僕は、強い意志でもって、食べ物に背を向けた。

―食べてやるもんか。絶対に

画像 その後、人間はどこかに出かけたらしく、あたりはシーンと静まりかえった。ひとり残された部屋で、時々思い出したように

近寄るな光線をチョロチョロとドアに向かって放射していた僕も、いつの間にかウトウトと眠りに落ちかけていた。

―なんだ?

突然カチっとドアが開いた。僕を捕まえた人間が入ってきた。手にはカゴを持っている。

逃げる間もなく、バスタオルに包まれたかと思うと、僕の体はそのままカゴの中に押し込まれた。

―ああ、身動きがとれない

後ろ足が動かない僕は、カゴの底でバスタオルにしがみついていた。

人間は僕をカゴに入れたまま、車の助手席に乗せ、シートベルトでカゴごと固定したあと、「○△×」と、言いながら車を発進

させた。


人間の運転する車に揺られながら、僕はもう覚悟するしかないと思った。

バスタオルの隙間からそっと見た車の天井が、涙で霞んでいる。

―もう何も考えまい。

車の揺れに身を任せ、僕はゆっくりと目を閉じた。固く握った前足が小刻みに震えている。

しばらく経って車が止まった。

カゴに入れられたまま運ばれて行った僕は、その建物に入った途端、余りの驚きに声を失った。

―ここは一体どこなんだ!

今まで、見たことも聞いたこともなかったこの場所は、一体……何?

ここには、たくさんの僕たちの仲間、つまり犬や猫達がいる。

そして何故かそれぞれに、保護者のように人間がくっついている。

―信じられない。そして、なんだこのオーラは?

**(痛いオーラ)(しんどいオーラ)(だんだん良くなってきて嬉しいオーラ)**などなど、いろいろなオーラが混ざっている。

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だけど(恐怖のオーラ)は、誰からも出ていない。

それどころか**(信頼オーラ)(安心オーラ)**などという、ノラ猫界ではめったにお目にかかれないような希少オーラまで混ざり合っている。

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―何なんだここは? みんな何してるんだ?

いきなり目の前に現れた未知の世界に、僕はしばらくはただ口をあんぐり開けたまま、目だけをキョロキョロ左右に動かして

いた。

そうしているうち、あることがわかってきた。

どうも皆、自分の順番を待っているようだ。そして自分の番が来たら、お行儀良く隣の部屋に入っていく。それも保護者のよ

うな人間に連れられて。

僕は、頭に赤いビロードのリボンを付け、ぴかぴかのキャリーの中で順番を待っている、隣の席のプライドの高そうな美猫に

「あの……すみません。ちょっとお聞きするのですが、あの……、ここは、一体どこなのか教えていただけませんでしょう

か?」と、カゴの中から、舌を噛みそうなくらい丁寧に質問をした。

が、この数ヶ月ろくに食べてもなくて、その上お風呂にもまともに入ってないような貧乏ったらしい猫に話しかけられるのは

迷惑よ! と言わんばかりに、プイッとそっぽを向かれてしまった。

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―ふう……仕方ないよな。


正直言って、僕は昔から弱くてずっとモテなかったから、こんな状況にも慣れている。

―まあ、いいか。そんなこと。

それより、この不思議な空間が何なのか見当もつかないし、いったい皆何を待っているのか全くもって想像もつかない。

ただ一つ分かることは、隣の美猫が僕に関わりたくないということだけだ。それでもこの部屋には、尻尾のある同種の「猫」

という生き物がいる。これだけで十分だった。

何故だかふと、お嬢さんのことを思い出した。

そう、あの時お嬢さんは、事故にあった僕を見て泣いてくれてたんだ。

急に目の奧が熱くなってきた。

止めよう。こんなこと思い出すと余計つらくなる。

僕はぶるっと頭を振って、その考えを 追い払った。

そして、カゴの中で体を丸め、出来るだけ小さくなっていた。

しばらくして、ひょいと僕のカゴが持ち上げられた。

その反動で僕はカゴの中で後ろにひっくり返り、尻もちをついてしまった。

さっきのプライド高そうな美猫が、ぷっと吹き出した。

どうも、僕の番が来たらしい。

隣の部屋で待っていたのは、白い服を着た人間のオスだった。

僕の体はつるつるの大きな台の上に置かれ、ひっくり返されたり、持ち上げられたりした。

もう、どうにでも好きにしてくれと、僕はき直るしかない。

「○△×」 「○×△」

訳のわからない人間語が飛とびかった後、白い服を着た雄の人間は、僕をカゴから動物園のオリのような場所に移した。

僕をここまで連れてきた人間は、いつの間にか消えてしまっている。

オリの中は、ヒンヤリとした空気が漂っていた。

逃げなくては、と思う間もなくガチャっという音と共に、外から頑丈な鍵がかけられてしまった。

「助けて! 嫌だ! 誰か、誰か助けてー」

絶望的な気持ちを追い払うかのように、僕は声を限りに叫んだ。

「おい新入り、さっきからうるさいぞ!」 隣のオリから声がした。

画像 ハッとして声のする方を振り向くと、そこには僕よりうんと年上の、どっしり構えたオス猫がいた。

僕より数倍強そうだ。

が、僕と同じように、オリの中に入れられている。

不思議なことに、こんな状況の中、妙にリラックスしていて、ポリポリと美味しそうな音をたてながら

何やら頬張っている。

「おまえ、さっきからワーワーうるさいんだよ。ゆっくり食事もできやしない。静かにしろよ。しっかしお前、汚くてよく痩

せてるなぁ。どう見ても完璧なノラ猫だな。まあ、落ち着いておまえんとこにも置いてある、このカリカリご飯でも食べなが

ら待ってろよ」

「待つって何を? 何を待つんですか?やっぱり、やっぱり僕たち人間に食べられるんですか?

ああ、やっぱりそうなんだ」

僕はだんだん涙声になっていった。

その声をかき消すかのように、

**「キャーハッ ハッハ」**と、部屋中至る所から、笑い声が聞こえてきた。

よく見ると、あそこにもここにも、犬や猫そしてリス、ハムスターなどがいて、それぞれのオリの中から僕を指さして笑っている。


「おまえ、完全にずれてるよ」 「誰がそんなこと言ったの?」

画像 今度は尻尾の長い、切れ長の目をしたちょっと気取った感じのメス猫が、

笑いをこらえるのが大変だわ、という口調で言った。

「あ、あの僕、ノラ猫集会で教わったんです。人間に捕まったら食べられてしまうって」

部屋の中は、水を打ったように静まり返った。次の瞬間、

「何それ? 可笑しすぎじゃない?」画像 「ノラ猫集会ですって~」

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部屋中が大爆笑の渦に包まれ、あっけに取られた僕はぽかんと口を開けたまま、しばらくの間、嘲笑の的でいるしかなかっ

た.

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「お前なあ、はっきり言って、救いようがないくらいずれてるよ。まあノラ時代が長そうだから仕方ないか。とにかくお前、

腹へってんだろ。ここのカリカリご飯、結構いけるぜ」

「あの……カリカリご飯って?」

画像 僕の頭は、完全に混乱していた。

それでも今、自分が完全に馬鹿にされているということだけは、十分に理解できた。

言い返す言葉も見つからず、僕は肩をすぼめてしょんぼりとうつむくしかなかった。


ーあれ?

誰がいつ置いたのか、お皿に山盛りのカリカリご飯が足元にあるではないか。

「これがカリカリご飯か……いい香りだ」

勧められるまま一粒口にした。

―うまい! え、なんでこんなご馳走がここにあるの?

この訳のわからない状況を追い払うかのように、僕は夢中でカリカリご飯の山に、顔を突っ込んだ。

部屋中の笑いがやっと治まりかけたころ、カチッとドアが開き、白い服を着た人間が部屋に入ってきた。僕はドキッとして、

食べるのをやめた。

―あれ? もしかして僕に近づいて来てる?

恐怖で体がこわばってきた。

僕は息をするのも忘れ、じっと下向いたまま足音が通り過ぎてくれることを祈っていた。

足音が僕のオリの前で止まった。

恐る恐るを上げると、目の前に白い服が見える。

―ああ、やっぱり。

ガチャっという鈍い音とともに、オリの中に、にゅ~っと人間の手が入ってきた。

抗う間もなく僕の体はオリの中から引きずり出され、そのまま隣の部屋 に運ばれた。

「助けて! 」そこはまた、つるつるの大きな台の上だった。思わず体を固くした。僕の背中にチクッと痛みがはしった。

~続く~

猫の気持ちがわかる物語

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面白いです。一気に読めます。

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