その日、🌸は検診帰り。玄関を開けると、リビングから聞こえるのは──
「はぁ〜〜〜暇ぁ〜〜〜」
ソファで縦にも横にもなれず、
最終的に“く”の字になって転がってる角名。
「りんちゃん、ただいま!」
「おかえり〜……ん? ……なんか今日テンション高くね?」
「うん、実はね──」
🌸はニヤリとケーキの箱を掲げた。
「性別、分かったよ」
角名、むくっ、と起き上がる。
「ま、まじ……? おれ、心の準備……え、できてないんだけど……
ちょ、秒待って……水飲む……」
緊張で謎に水を一口。
「はい、お好きにどうぞ」
「……俺が切るのぉ? なんか責任重大なんだけど……
これ切って中ピンクで“あ〜女の子か〜♡”とかだったら
俺ちょっと泣く自信あるんだけど……」
「大丈夫だから切って?」
角名、なぜか包丁を“持ったまま3秒凝視”。
「……これ、ケーキよな?」
「ケーキだよ」
「爆発とかしないよな?」
「しない!!」
観念したようにケーキに包丁を入れる角名。
スーッ……と切って──
中が見えた。
“青”
角名、固まる。
呼吸、停止。
「え、🌸………?」
「うん?」
「これ……青じゃね……?」
「青だね」
「てことは……男じゃね……?」
「そうだよ♡」
角名、突然のバグ発生。
「男ォォォォ!? 俺のミニチュア!?
え、ちょ、やば……おれ父親……? まじで……?
ちょ、誰か説明して……???」
動揺しすぎて、なぜかテレビのリモコンを耳に当てる。
「もしもーし……?」
「誰と通話しようとしてるの!?」
「いやパニくって……なんとなく……」
角名は数歩歩き、止まり、また歩き、座り、立ち上がり……
完全に挙動不審。
しかも急に真剣な顔で、
「……なぁ、俺さ……父親って……どうすんの……?」
「どうする、って?」
「なんか……あやすとか……ご飯あげるとか……俺の手、ゆっくりだからこぼさね……?
手先不器用の遺伝したらどうしよ……?」
「りんちゃん、まず座って?」
「いや無理。喜びで心臓バクバクしてる。
てか脈はやっ……俺大丈夫……?」
「大丈夫だよ」
急にケーキを見下ろし、
「……あーーーでも男かぁ〜〜〜〜!!!
なにこれ、めっちゃ楽しみなんだけど!!!
絶対ちっちゃい俺じゃん!! 絶対変な寝方すんじゃん!!!
パジャマ絶対ずり上がってお腹出すじゃん!!」
想像でテンション急上昇。
そして──
ドヤ顔で振り向いた。
「なぁ!おれさ!息子と一緒に昼寝したい!!」
「うん、できるよ」
「あと!おれのスマホで動画見せたい!!」
「内容選んでね?」
「え……? ……俺の動画フォルダ……8割しょうもないやつ……」
現実に戻って撃沈。
その10秒後──
また急にひらめいた顔。
「名前考える!!!!」
「さっきから忙しいね!」
「いやまじで、俺、今なら世界でいちばんセンスある気がする……
“サトシ”とかどう?」
「りんちゃん、それ世代が出てる」
そして角名はソファにドサッと倒れ込み、
天井を見ながらぼそっと言った。
「……なんかさ……すげぇ幸せだわ……
やば……胸いっぱいすぎて……アイス食えね……」
「そこアイス我慢するんだ」
「いや、幸せの余韻……浸りたい……」
最後はゆるゆる笑いながら、
「……ありがとな、ほんと……楽しみだわ」
いつもの角名の声よりちょっとだけ柔らかかった。
コメント
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北さん以外稲荷崎みんな似たような発想で草w w