「先生、僕……」
「何も言わなくていいよ! 大丈夫! 誰も大中寺君を責めたりしないから!」
そう答えたのは先生ではなく、もちろん彼女。僕と二人のときは僕の名前を呼び捨てにしてさんざん僕を脅すようなことを言っていたくせに、先生の前ではしれっといい人ぶることができるようだ。メンヘラというとコミュ障レベルで対人スキルの欠如した人という先入観があったが、もしかすると僕よりコミュニケーションスキルが高いかもしれない。
長い時間屋上からぶら下がっていて死と隣り合わせだったという極限状態だったことで、その極限状況から解放された今はひたすら眠い。
一方、彼女はちょっと前まで自殺しようとしていた人とは思えないようにハツラツと働いていた。今だって先生たちといっしょに僕の乗った担架を搬送している。眠くてよく聞き取れないが、僕を励ますような言葉をずっとかけてもいるようだ。
いろいろ納得できないことはあるが、とりあえず死なずに済んでよかったとしよう。僕は目を閉じて、そのまま睡魔に抗うことなく、担架の上で深い眠りに落ちた――
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