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は? はあ? 今「遅かった」と言ったのか? 「早かった」の間違いじゃないの? まだ三時間しか経ってないんだぞ。俺の仰天した顔を面白そうに見つめ小夜子ちゃんがクスクス笑いながら言った。
「あはは、初めてこの島に来た人はたいてい驚くんだよ」
ははあ、この子がいたずらっぽく笑っていたのはそういう訳か。それにしても……
「し、しかし、たった三時間って……」
そういう俺に母ちゃんもクスクス笑いながら言う。
「あら、大人の足で寄り道しなけりゃ二時間ぐらいで回れるはずよ」
な、な! 「小さな離れ島」とは聞いていたが、まさかここまでとは! 呆気に取られて立ちつくしている俺の背後から不意に誰かが声をかけた。
「おお、あんたが東京から来た美紀子さんの息子かい?」
へ? あわてて振り向くとおじいさんが二人、おばあさんが一人、顔に満面の笑みを浮かべてこっちを見ている。そのおばあさんは両手で大きな包みを抱えていた。なんかいい匂いがしてくる。
「おう、美紀子さん、何年ぶりかの」
「美紅ちゃんも久しぶりじゃね。ヤマトの方の暮らしはどうじゃ?」
俺がまた呆気に取られているうちにあっちからこっちから、まるで湧いて出てくるようにおじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんという感じの年頃の人たちが二十人ほど俺のお婆ちゃんの家の庭に集まって来た。
俺は縁側に座っている母ちゃんのそばへ駆け寄った。美紅と小夜子ちゃんも俺について来る。
「母さん、あの人たちは?」
「この島のご近所さんたちよ。あたしたちが来たから、いろいろ料理持って来てくれたの。これから宴会が始まるわよ」
「ちょ、ちょっと! 俺たちがここへ来る事は一応秘密だったはずじゃ?」
ここで小夜子ちゃんが口をはさんだ。
「おばさんも大西風のオバアも誰にも言ってないし、あたしは美紅から電話で聞いたけど誰にも言ってないよ。でも島の外から誰か来ればあっと言う間に島中に広まるよ。なんたって小さな島だからさ。最近は本島の方がにぎやかになったから、この島まで来る観光客なんて減る一方だしね。マレビトが来たなんて言ったら毎回大騒ぎよ」
「マレビト?」
これには母ちゃんが答える。
「代々の島の住人がシマビト。島の外からの来訪者がマレビト。そんな意味ね」
さてそれからは小夜子ちゃんが言った通り大騒ぎだった。近所の人たちが持ち寄ってくれたいろんな沖縄料理を縁側に並べ、大人はビールや泡盛とか言う沖縄の酒を飲みながらワイワイガヤガヤ。
もちろん俺と美紅と小夜子ちゃんは未成年だからサイダーみたいな物を飲んでいた。そのうちおじいさんたちの一人が三味線みたいな形の沖縄の楽器を取り出して、なにやら陽気な音をかなで始めた。ああ、これは俺も見たことはある。サンシンという沖縄の伝統楽器だ。縁側に並んで座っていた美紅が小夜子ちゃんと顔を見合わせて言う。
「あは! カチャーシーだね」
「もう、人が集まるとこればっか! ほんと年寄りのやる事ってワンパターンなんだから」
でもそういう小夜子ちゃんも顔がゆるんでいる。今度はカチャーシー? 何だ、それは?