「……泣いてる若井、俺のことだけ考えてるみたいで好き。」
虚ろな目の奥に潜む何かに気付きたくて、
俺はまた涙をこぼしながら
彼を見つめることしかできなかった。
……….
side wki
元貴は、俺の涙を指先で拭いながらも、
冷たい視線を崩さなかった。
「泣きすぎ……。」
囁くようなその声は、どこか優しさを装っているけれど、本当の意味では突き放しているのが分かる。
それでも、俺は泣くのをやめられない。
時々、急に冷たくなる元貴の言葉や行動が、
俺を傷つけているのは明白なのに、
彼の存在そのものを拒むことなんてできない
自分が情けなかった。
「若井、俺のためにそんなに泣いてるのって、俺に期待してるから?」
元貴が不意にそう言った。その口調は軽く、でも奥に鋭い棘が潜んでいる。
俺は首を横に振るしかできなかった。
「違う……っ」
やっと搾り出した声は、震えていて、否定の力さえもない。
その答えを聞いて、元貴は少しだけ口元を歪めて笑ったように見えた。
「違うなら、何?」
元貴はそう言われて黙り込んだ
俺の腕を掴むと、強く引く。
「……入りなよ。」
冷たい声とともに、俺の体は引っ張られる。その力は強引で、俺の意志なんて最初から無視されている。
「……どこ……行くの……?」
震える声で問いかけると、元貴は俺を一瞥して鼻で笑っただけだった。
「……分かってるんでしょ?」
玄関からリビングを抜けてベッドルームへ向かう足音と、ぎこちなくついていく俺の足音が部屋の中に響く。
「元貴……っ……やだ、、よ……」
懇願するように声を上げたが、元貴は振り返ることもせず、ただ淡々と歩き続けた。
やがてベッドルームに辿り着くと、元貴は俺を押し込むようにして部屋の中に入れる。
足元がふらつき、ベッドに倒れ込む形になった俺の上から、彼はそのままのしかかってきた。
「………俺に、こうされたくて、家まで来たんでしょ?」
耳元で囁かれる声が冷たい。だが、それと同時に肌に触れる元貴の温もりは暖かく感じた。
昔からこうだった。
急に何かのスイッチが入る元貴は
俺に対して特に冷たさを隠さない。
でも、そんな彼の圧倒的な存在感と支配力に、
俺はずっと惹かれていた。
「…………ねぇ。若井。」
髪を掴んで顔を覗き込むその仕草には、容赦というものが感じられない。
「……俺に期待するだけ無駄だって、
分かってるんでしょ?」
思わず息を飲む。元貴の瞳が真っ直ぐ俺を見つめていた。
その視線には、怒りでも優しさでもない、何か別の感情が宿っているように思えた。
「俺さ、1年間のスケジュールがもう埋まってる。経験ない撮影もあるし、正直、仕事のこと以外考えられる余裕なんてない。」
彼の言葉に、現実を突きつけられるような感覚がする。今の元貴の生活と俺の生活は、あまりにも違いすぎる。
「若井。」
低く呟きながら、彼の顔がゆっくりと近づいてくる。その動きに、息を呑むしかできなかった。
次の瞬間、元貴の唇が俺の耳たぶに触れた。
驚いて息を詰める俺をよそに、彼はそのまま舌先でゆっくりと耳を撫でるように這わせる。
「っ……!」
思わず体が跳ねる。ぞくっと背中に走った感覚に、胸が苦しくなるほど鼓動が速まった。
「……苦しい……?」
耳元で囁くような低い声がさらに鼓膜をくすぐる。その声と熱を伴う息遣いに、頭が真っ白になりそうだった。
「……寂しい?」
そう言いながら、元貴の手は俺の肩を押さえつけ、体をベッドに沈める。
その力は強引なはずなのに、不思議と拒む気になれない。
唇が再び耳に触れ、
今度は舌先がさらに深く耳の輪郭を辿るように動く。
その濡れた感覚と、肌に感じる彼の熱に、自然と息が乱れてしまう。
「……元貴……っ……もう……やめて……
……っ、ぁっ……」
耳を弄ぶように舌が動き続けるたび、元貴の言葉が頭の中で響く。
元貴は静かに耳から顔を話すと
俺の瞳を覗き込んだ。
元貴の瞳に射抜かれて、
動けない俺をよそに、
元貴の唇はすぐにまた重なる。
さっきまでの冷たい態度が嘘みたいに、ゆっくりと、でも確かに深く触れてきた。
そのキスは、どこか不器用で、それでも優しさが滲んでいた。
「……離れる?」
元貴の声は低く、どこか掠れている。彼がこんなことを言うのを始めて見た気がする。
「元貴……?」
元貴の手が俺の頬を包むように触れる。
その仕草はどこかぎこちなくて、でも紛れもなく真剣だった。
熱い吐息が混ざり合い、触れ合うたびに心が震える。
「ん……っ……」
思わず漏れた声に、元貴は僅かに唇を緩めた。
だけどすぐにまた深く俺の唇を塞ぐ。
その熱に抗えず、俺の体は自然と彼に応えるように力が抜けていく。
「わかい……俺は……」
元貴が唇を離し、俺の額にそっと触れるように囁いた。
その声が震えているように聞こえたのは、気のせいじゃないはずだ。
「若井だけには……傍にいて欲しいって思ってる。」
まっすぐに見つめる彼の瞳が、俺を逃さないようにしていた。
「俺は……元貴が……」
泣きながら声を震わせる俺に、
元貴は「何も言わなくていい」
と言うように再び唇を重ねた。
そのキスはさっきよりもずっと優しくて、けれど熱くて、俺の心の奥底に染み込んでいく。
「若井……一緒に深くへ堕ちてくれる?」
熱を帯びた瞳で見つめる元貴の言葉に、俺はただ頷くことしかできなかった。
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2024 1219
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コメント
11件
もう、大好き❤️
仄暗くてすごく素敵です でも、大森さんも口頭ではああ言ってるけど本音かはわからないし… 若井さんを傷つけないよう冷たくするのが大森さんなりの優しさなのかもしれない、とも考えると余計共依存的な関係の脆さや危うさが感じ取れて切ない気持ちになります
大森さん、若井さんに甘えてる…?のか…?真意が読みきれない作品の展開、やっぱり🫧さん凄すぎる_| ̄|○ 若井さんの大森さんしか見えない視野の狭さもリアルぅ……