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鳴海の治療がひと段落すると、旋律は妊婦を抱えて部屋を出ようと動き出す。
“治療するよ!”という鳴海の申し出にフッと笑みを見せる彼は、静かに首を横に振った。
「俺のはいい。ありがとな」
「あ、そう」
「この妊婦の借りは返した。俺は行く」
「これからどうすんだ?」
「とりあえずコイツを病院に連れていく。その後戻ってきてもいいけど、病院までも遠いからな。爆破までに戻れるかわからねぇ。それに…部下の命を雑に扱う上司のために、命かける気になれねぇな…」
「旋律ちゃん…」
「あっそ」
自分から聞いた割に、そんな素っ気ない返事をする皇后崎。
そんな彼に、旋律は改めて声をかけた。
「…俺は借りは返すって言ったよな?」
「は?」
「お前との勝負の借りも必ず返す。次会ったら俺がお前をぶっ殺してやるから覚えとけよ」
「次も返り討ちにしてやるよ」
「舐めたガキだ…」
「…迅、もう一つ言おうとしてることあるでしょ?」
中指を立てて相手を挑発している生徒の肩をつつきながら、鳴海は笑顔を見せる。
イスに座ったまま足を組んでいた皇后崎は、彼をチラッと見上げてから照れ臭そうに言葉を紡いだ。
「おい」
「あ?」
「ありがとう」
視線は前に向けたままの皇后崎に代わり、少しこちらを振り返った旋律に鳴海が笑顔で頭を下げる。
言葉を返さず無言で出て行った彼が何を思っていたか、2人は知る由もない。
医務室を出てすぐ、抱えていた妊婦が目を覚ました。
鬼に助けられたことを恥だと言う彼女に、旋律は静かに話し始める。
「なんだそれ?お前馬鹿か?命の恩人に鬼も桃もねぇだろ」
「…」
「お前のその頭の傷治した奴は、相手が鬼とか桃とか関係なく動いてたぞ。俺の傷まで治そうとしたぐらいだからな」
「あの、その鬼っていうのはもしかして…例の生け捕り対象の…?」
「ん?そうだけど」
「捕まえなくて良かったんですか?」
「もうそれは取り下げられたろ。まぁ仮に命令があっても、あいつと直接関わったら…そんな考えどっかいくわ」
「そう、ですか…」
「(桜介のことがなければ、俺も好きになってた…かもしんねぇな)けどまぁ俺もああゆう鬼どもは嫌いだよ…殺りにくくてしょーがねぇ…」
旋律が出て行った後の医務室では、鳴海が鳥飼の最終チェック中だった。
少し前から呼吸も安定してきており、目を覚ますのも時間の問題だろうと皇后崎に笑顔を向けた。
“そうか” と素っ気ない言葉を返す彼の想いには気づかず、引き続き鳥飼の世話を焼く鳴海。
なかなか終わらないその作業に不満が募った皇后崎は、堪らず想い人の服の裾を引っ張った。
「ん?」
「…そのぐらいでいいんじゃねぇの」
「何が?」
「別にそんな汚れてるわけじゃねぇし、もう十分だろ」
「…あっ。もしかして、構ってもらえなくて寂しくなっちゃった?」
「…」
「迅って意外と分かりやすいよね。素直に言えばいいのに~!」
「言ったら構ってくれんの?」
「えっ」
「鳴海に構って欲しい。そいつばっかり見んなよ」
イスに座ってるせいで少し上目遣いになっている皇后崎から向けられる直球の言葉と熱っぽい視線。
突然のモードチェンジに、鳴海はポカンとする。
脳の処理が追いつかない彼を楽しそうに見ながら、皇后崎はスッと立ち上がった。
「オマエの方が分かりやすいじゃん」
「迅があんなこと言うからでしょ」
「俺は素直に言っただけだけど」
「そう、だけど…!」
「ふっ。…四季のとこ戻るんだよな」
「もちろん。戻りますとも」
「ケガしてんだから、無茶なことはすんなよ?」
「ありがと!気をつける。」
穏やかな表情に戻った鳴海の肩を優しく叩いてから、皇后崎は彼を送り出した。
医務室を出た鳴海は、先程別れる前に一ノ瀬の体内に入れておいた血を使って彼と連絡を取る。
迎えに行くと言い張る一ノ瀬を何とか説得し、鳴海は破壊された建物内を上へ上へと進んで行った。
階を上がるごとに気絶している桃太郎が増えていき、それを辿って行った先に捜していた彼の姿があった。
「四季ちゃん!」
「鳴海!良かった…!ケガしてない?」
「えっ…あ、うん!大丈夫!」
「何かさ、あっちの方が騒がしいんだ。誰かいそうな気がする」
「碇ちゃんだといいんだけど…」
「だな…っし。行くか!」
「うん!」
ケガした脇腹を気にしつつ、鳴海は一ノ瀬の後を追う。
そうして進むこと数分、とある部屋の前を通った時、2人の耳にある人物の声が聞こえてきた。
聞き慣れた声で発せられた “寂しい…” という言葉に、鳴海と一ノ瀬は笑顔を向け合った。
「鳴海、ちょっと下がってて」
「分かった!」
鳴海を少し下がらせた一ノ瀬は、部屋の壁に向かって大きな一撃を放つ。
見事に破壊された部屋の中には、2人が捜していた生徒が傷だらけのまま座り込んでいた。
「矢颪ぃ~やっとテメェの本音が聞けたぜ。寂しいならよぉ…俺と一緒にこいつらぶっ飛ばそうぜ」
「それには大賛成!その前に少し治療させてよ?」
「オッケー!」
「な…なんでくんだよ!」
「いや仲間が間違った道進もうとしたら普通止めるだろ?なっ?」
「そうそう。俺たちは普通のことしてるだけだよ」
「でもあれだろ?やっぱ鬼國隊、思ってたのと違ったべ?ぷぷ!お前深く考えず突っ走り過ぎなんだよ」
「手のかかる生徒だこと!」
立ったまま茶化してくる一ノ瀬と、目線を合わせるようにしゃがんで微笑みかけてくる鳴海。
羅刹を出て行く前と何ら変わらない2人の態度に、矢颪は膝をつき項垂れたまま、抱え込んでいた思いを吐露する。
「…なんだよ仲間って…俺はお前ら捨てて来てんだぞ!お前らに唾吐いて出てった奴が仲間なわけねぇだろ!…笑えんだろ…羅刹抜けて鬼國隊入って…鬼國隊もすぐやめて…挙句くたばりかけてんだ…勝手に動いて勝手に1人ぼっちになってんだ!マジで笑えるよな!これ以上無様な奴いねぇよな!?そう思うだろ!?放っておけよ!こんな無様な奴!頼むから嘲笑って蔑んでくれ…!追いかけてくんな…きっぱり見放してくれ…そんな笑顔で…優しくすんな…じゃないと…じゃないと俺は…お前らに縋りついちまいそうになる…」
矢颪が話し終えると、辺りは一気に静けさに包まれる。
その静寂を破るように同期の名前を呼ぶと、突然彼の顔面に蹴りを入れた一ノ瀬。
あまりの出来事に鳴海も驚きの表情を見せる中、一ノ瀬はゆっくりと話し始める。
「テメェ俺らを舐めてんのか?俺の背中は縋りつくのが申し訳ねぇ程小せぇか?お前を躊躇なく追いかけてきた鳴海が、縋りつく手を振りほどくと思うのか?雪山修行の時からお前が変なのは知ってるよ。心の奥で何悩んでんのかわかんねぇし、お前本音も言わねぇけど別に気にしねぇよ。本音言う言わねぇもお前の好きにしたらいいし、いつか寄りかかりたくなったら全然肩も貸す。仲間だからな!俺は単純だからよぉ…同じ学校、同じクラスってだけで結構運命感じちまうんだよ。奇跡の出会いなんじゃね?とか思っちまう。だからそんな簡単に見放すわけねぇだろ!テメェ何勝手に孤独になったつもりでいやがる!ちょっと拗ねて出てったぐらいで見捨てる様な薄情者に俺らが見えんのか!?他の奴らもそう思ってるはずだ!1人ぼっちになった!?目ん玉ついてんのか!?お前の目には何が見える!?俺と鳴海の姿が見えねぇのか!?俺らが生きてる限り、お前が1人ぼっちになることはねぇ!」
「!」
「1人は寂しいし俺、約束したからね。」
「鳴海…」
「大丈夫。いつでも傍にいるから…碇」
ギュッと手を握りながら、鳴海は矢颪に満開の笑顔を向ける。
鳴海の熱い思いと温かい優しさに、彼の目からは自然と涙が零れるのだった。