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“いつでも傍にいるからね…碇”
鳴海に名前を呼ばれた時、自分がガキだった頃のことを思い出した。
桃から逃げてた俺を拾ってくれた天麻と、その仲間たちのことを。
俺にとって、初めてできた最高の仲間。
ずっと…ずっと一緒にいれると思ってた。
あの日、桃に襲撃されるまでは…
辺りが落ち着いた頃、俺を逃がしてくれた天麻たちを捜して森を進んだ。
木も草も全部が灰になった荒地の真ん中に、顔の区別もつかねぇぐらい焼け爛れた仲間が転がってた。
こんなツラい思いするなら…もう仲間なんて…ほしくない…
そうか…俺は…俺はまた…仲間を失うのが怖いんだ…
今左手に感じてる温もりと、天使みてぇな笑顔が…目の前からなくなるのが嫌なんだ…
俺は、今までと呼び方を変えて、また1つ歩み寄って来てくれた鳴海の手を強く握り返した。
「矢颪!まだ戦う気あんなら参戦してこい!」
「……鳴海。ケガ、治してくれるか?」
「うん!もちろん」
鳴海が治療している間、矢颪は自分自身と向き合う。
あの日以来冷えきっていた己の心を、再び熱くしてくれた一ノ瀬仲間。
あの日仲間を失ってから1歩も進めていなかった自分を、優しく受け入れてくれた鳴海仲間。
自分を仲間と言ってくれる彼らのために戦いたい…!
矢颪の真っ直ぐな想いに応えるように、今は亡き仲間・梶木天麻から1つの鍵が手渡された。
一ノ瀬が相手にしているのは、高速で動く双子の桃太郎。
ただでさえ2対1で不利な戦いであるのに、相手の動きが早過ぎてまともに攻撃ができずにいた。
そんな彼を守るように、突如バイクが走り込んで来る。
驚く一ノ瀬と鳴海の前に現れたのは、血蝕解放である雷速・改に跨った矢颪であった。
「矢颪…!」
「(あれが碇の本当の血蝕解放…!)」
「何あれ、兄さん」
「バイクだな、弟よ」
「お前メチャクソかっけぇバイク乗ってんじゃん!」
「四季…俺は…仲間しか乗せねぇ主義だ…乗ってくれるか?」
「! ヘボい運転すんじゃねぇぞ!」
そう言いながら互いに拳をぶつけ合う一ノ瀬と矢颪を、鳴海は優しい笑顔で見つめていた。
揃ってバイクに跨った同期コンビ。
今の2人なら何も心配いらないと満足気な表情を見せると、鳴海は敵にバレないよう静かに移動を開始する。
この階にも事前にピックアップしておいた避難場所があるので、そこへ向かおうというわけだ。
しかし天使の動きに人一倍鋭いあの男が、それを黙って見過ごすはずはなく…
「あっ!鳴海、どこ行くんだよ!」
「ちょ、四季…!大きい声出さないで…!」
「矢颪、あっちにバイク回せ!」
「おぅ」
敵にバレるとワタワタしている鳴海を他所に、あっという間に彼の前までバイクで乗りつけた2人。
傍から見れば、不良たちに絡まれている図だ。
乗って!乗らない!と押し問答を繰り広げる一ノ瀬と鳴海の横で、矢颪は何故か静かだった。
そして不意に言葉を発する。
「…さっきの嘘だったのか?」
「え?」
「いつでも傍にいるって、言ってくれただろ?俺を1人にしないって」
「碇…」
「…昨日の夜、鳴海が鬼國隊の奴らといろいろ話してんの聞いててさ…俺、何も分かんなかったんだ。 生け捕り命令とか、桃に狙われてる理由とか…あいつらより長く一緒にいたはずなのに、知らないことばっかだった」
「それは、俺が言ってなかったから…」
「違う。俺が鳴海と会話しようとしなかったからだ。自分のことも、鳴海のことも… だから、傍にいるって言ってくれた時すげぇ嬉しかった。一緒にいたら、たくさん話できるだろうなって思ったから。 俺…鳴海のこともっと知りたい」
「!」
「知った上で、鳴海の力になりてぇ。…もし聞いてくれんなら…俺の話も、たくさんしたい」
俯いたまま言葉を紡ぐ矢颪の姿に堪らなくなった鳴海は、バイクに跨っている彼にギュッと抱きついた。
突然のことに目を見開く男2人に構わず、鳴海は穏やかな声と笑顔で話し始める。
「俺 は、ずっと前からそうしたいって思ってたよ?碇とたくさん話して、お互いのこと知って、仲良くなりたかった」
「鳴海…」
「だからゆっくりお話しよ!お菓子とか食べながら」
「…俺の話も、聞いてくれんのか?」
「もちろん!質問攻めにするから、覚悟しといてよ?」
「おう!」
明るくそう返事をした矢颪は、自然と鳴海の背中に手を回していた。
目の前で想い人とイチャイチャしている同期の背中に一ノ瀬がグーパンを入れることで、場は一旦収束に向かうのだった。
先程のやり取りで、鳴海が他の場所に避難するという選択肢は完全に消えた。
だが一緒にバイクに乗ると言っても、物理的に不可能なのでは…と鳴海は2人に問いただす。
「そんなことねぇって!俺と矢颪の間に乗れる!」
「いや、無理だよ!碇、運転しにくいよね?」
「俺の運転なめんなよ?余裕だわ」
「違う違う!気合いでどうにかなる問題じゃないから!」
「まぁまぁ!物は試しっつうじゃん?1回座ってみてさ、ダメそうなら降りればいいじゃん!」
「もう…仕方ないなぁ」
男2人の強気な姿勢と言葉に促され、鳴海は渋々彼らの目の前で指に小さな傷を作った。
何をするのかと頭にハテナを出している2人に微笑むと矢颪と同じように大型バイクを作ってみせた。
“これなら一緒に行けるよ” と声をかけると矢颪は驚いた顔をした。
「俺は器用だからね。”自分の乗ってるバイク” ぐらい作るのは造作もないよ」
「お前バイク持ってんのか?」
「もちろん。限定解除してるからね。今度見せてあげる」
「! 約束だからな!!」
「もういい?矢颪、出せ!!」
「鳴海!遅れんなよ!!」
「任せてよ!!」
鳴海の悪い笑顔に、やんちゃな笑顔を見せる一ノ瀬と矢颪。
運転手はトップスピードでバイクを発進させた。
楽しそうな2人を見て鳴海はホッとした表情をした。
迎え撃つ双子の桃太郎・桃ノ木一成と二成は、バイクに乗った2人に強烈な蹴りをくらわせた…はずだった。
「残像に蹴り入れてどうした?違法な物やって幻覚でも見たか?」
「じゃあチンピラはあっちだなぁ」
「てことはそれを追いつめる俺らは警察ってことか?」
「おいおいガラじゃねぇなぁ」
「全くだ!」
「いいねいいね!警察官とか燃えちゃうね!」
猛スピードのバイクを操る矢颪と、その上で何の影響もなく銃をぶっ放す一ノ瀬。
2人のコンビネーションは、双子を見事に圧倒していた。
そんな状況に焦りを感じた彼らは、自身も奥の手を引っ張り出して対抗する。
足にターボをつけた双子と距離を取るように外へ出た矢颪たちは、追いかけてくる敵を一直線の廊下で待ち構えた。
そしてバイクの前面を銃口のように変化させたかと思えば、逃げ場のない双子目掛けて発射するのだった。
「なんだよ、まだいろんな性能あるのによぉ。へばるのだけははえぇな」
「俺らとやり合うのも100年早かったな」
「ちげぇねぇ」
「2人ともお疲れ様!」
「「おう!」」
鳴海の言葉に揃って言葉を返す男性陣は、とてもいい笑顔だった。
場が落ち着き、バイクを降りる一ノ瀬に矢颪は真面目な顔で言葉をかける。
「四季…お前は死んでくれるなよ」
「俺は死なねぇに決まってんべ?」
「「…」」
「はは…」
「へっへっへ…恥っず…!」
「だな!」
「ふふっ。大丈夫、俺が絶対死なせない」
同じようにバイクを降りながら、鳴海は芯のある声でそう告げた。
その強い意志を感じ、一ノ瀬と矢颪は目線を交わす。
「なら俺らは、お前のこと絶対守る」
「鳴海には傷一つ負わせねぇから安心して!」
「2人に守ってもらうほど弱くはないけどお願いしようかな!」
生徒からの想いに応えるように、鳴海はまた満開の笑顔を見せた。