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キーンコーンカーンコーン…
学校が終わった。 今日の授業は過去一集中力が欠けていただろう。 どうしてかはノートを見返せば一目で分かる。 岸田さんに関する事しか書かれていないのだから。
僕は初対面の人と話す際、事前に相手のことを徹底的に調べ、まとめてしまう癖がある。 これをされる側が嫌な想いをすることは承知の上、僕自身もされたら物凄く嫌だと思う。 しかし、いざ会って会話をすると考えた時、相手の趣味や好きな物、嫌いな物を把握していた方が確実に会話を上手く繋げられる筈だ。と考えて調べてしまう。 自分ではこの癖を治したいと思っていても、気が付いた時にはノートやメモ帳にびっしり書き出されている。 この癖だけでメモ帳を何個買い換えたかなんてもう覚えていない。 とは言っても書き出したところで、スムーズに会話をできた試しは無いが。
今日の休み時間にルイから細かい情報も聞き出せた。 話の内容では、岸田さんは学校から歩いて15分程度の場所にある本屋でバイトをしているらしい。週に三、四回、勤務時間は決まって15時30分から19時30分までの4時間。その後は近くのカフェで勉強をしているらしい。 岸田さんの話をしている時のルイはいつも以上に優しく穏やかな表情をしていた。
ルイから預かったひまわりの栞をメモ帳の最初のページに挟み込み、丁寧に鞄の中へ入れる。 ルイと岸田さんの関係はよく分からないが、頼まれたことは最後までやり通したいと思う。
校門を出て普段の帰路ではない、見慣れない道をしばらく歩くと、本屋らしき建物が姿を現した。 外観は木材を基調とした造りになっており、入口の周辺には木々や色鮮やかな花たちが並び、その横にはちょっとしたカフェメニューが書かれたブラックボードが置かれていた。本屋というだけあって、どこか落ち着ける空間が広がっている。 よし、と気を引き締め店の扉を開ける。
店内へ入ると、カランコロンと音を鳴らしドアチャイムが揺れると同時に、本のインクの匂いや、珈琲のほろ苦い香りが全身を包み込む。 このような店はあまり立ち寄らない為、興味深く辺りを見回していると、奥の方から若い男性が姿を現した。その 男性を視界に捉えた途端、ルイの言葉が思い出される。
『身長は176センチでちょい高め。 髪型は襟に毛先が掛かる長さでハーフアップをよくしてる。 色は黒にシルバーのインナー。丸眼鏡も時々してた。 首元には彼女から貰ったシルバーのネックレス。わざわざ俺に自慢してきたんだ。 あとは…ムカつく程イケメン』
あんなに細かくて多い特徴を完璧に捉えているあの男性が別人だとしたら、他になんて存在しないだろう。 完全に一致していた。
「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」
声も話の通り。落ち着いた低音に親のような包容力。とても聴き心地の良い声。
「あの、岸田直樹さん。少しお話があります」
「……ん?えっと、初めまして…ですよね?」
「突然すみません。 山舘ルイくんから預かった物をお渡しに来ました。お名前もルイから聞きしました」
「は…?」
何故か物凄く驚いている。というより信じられないという表情を浮かべている。 これまでこのような贈り物は一度も無かったのだろうか。 例え、無かったとしてもそこまで驚くことだろうか? そんな事を考えていると、突然左手首を勢いよく掴まれたと思えば、先程とは別人のような威圧感のある声が発せられた。
「君、高校生だよね?しかもすぐそこの。 どういうつもりで言ったか知らないけど、ついていい嘘とそうでない嘘ぐらい分かるよね?」
衝撃的すぎて一瞬訳が分からなかったが、今の状況を少し理解した途端、左手首に猛烈な痛みを感じた。 物凄い力で掴まれている。
「いたっ…!は、離して下さい!!」
僕が声を荒らげると岸田さんはハッとし、手首から手を離してくれた。 しかし痛みは和らぐこともなく、赤くくっきりとした手形がその場に残る。
「あ…ご、ごめん! 早く冷やさないと…こっち、着いてきて」
言われた通り岸田さんの後を追い、本屋のバックヤードへと入る。