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そうして茜は、自分と周りの考えの違いに、さらに疑問を持つようになっていった……。
ある日。
茜は、また虎昌に尋ねていた。
「ねえねえ。どうしてですかー?」
虎昌は、またか……という顔をしながら
困り果てていた。
「いや、その……」
茜は首を傾げた。
「どうして、わたしはあにうえたちみたいに、べんきょうをしたり、たんれんしないのですかー?」
「いや……。それはですね……。泣」
虎昌が言葉を探していると、茜はさらに続ける。
「たんれんはあぶないなら、せめてあにうえがみてるやうなむずかしいほん、よめるようになりますー」
「…………。」
虎昌は、ついに天を仰いだ。
「……やめてください……姫様……」
――――――――――
そこへ信虎がやってきた。
「^^」
虎昌は、助けを求めるように信虎を見る。
しかし信虎は、むしろ面白そうに笑っていた。
「虎昌……。これはどういうことだ」
「反論一つ出来んとはなあ……」
「まだ足りなかったのか???」
「(((゚Д゚)))」
虎昌は完全に固まる。
「いや……そのー。これはですね……」
「その……。いや……。」
「………………泣」
その様子を見ていた太郎が、思わず手を合わせる。
「虎昌……。泣」
「いいやつだった……」
「今までありがとうな」
太郎は、そっと目を閉じた。
(これで鍛錬から逃げられる……( ‘֊’ ))
すると、虎昌がハッとする。
「若……?!」
「え……?? また……。ちょ……。」
太郎は、そのまま立ち去ろうとする。
だが、虎昌は何かを察した。
「……さては、鍛錬から逃げようとなさっていますな?」
太郎の動きが止まった。
「…………」
その時、茜が元気よく木の棒を振り上げた。
「たんれんなら、わたしがやりますよー!」
「えいえーい!」
太郎は慌てて茜のところへ向かう。
「うん……。やめような」
太郎は、優しく茜に話しかける。
「ほら。また父上が悲しい顔をなさっておられるぞ」
「まだお前は小さいからな、危ないんだ。」
「わかってくれるな、茜?」
茜は太郎の顔を見つめる。
そして、素直に頷いた。
「あにうえがいうなら、やめますー」
太郎は茜の頭を撫でる。
「よしよし」
その様子を見ていた虎昌は、複雑そうな顔をしていた。
(な……なんで若の言うことは、すんなり聞くんだ……)
――――――――――
そこへ信虎がやってきた。
信虎は太郎を見ると、ふっと笑う。
「よし、太郎」
「特別に、今日は鍛錬をせぬで良い。笑」
「……!」
信虎は続ける。
「茜と虎昌に、勉学をつけてやれ」
太郎は驚いた顔をする。
「なんと、父上。茜に、よろしいのですか?」
信虎は頷いた。
「危ないことをされるよりましじゃし、
学がつくのは悪くない」
「その代わり……」
信虎の笑顔が消える。
「変なことを教えたら、わかるよな??」
「期待を裏切るなよ……。太郎💢」
「はっ……」
太郎は姿勢を正す。
「……じゃあ行こうな、茜」
そして、虎昌を見る。
「……虎昌。お前もだぞ」
「いや……。今日は鍛錬したいので……」
虎昌が言い終わる前に、太郎が腕を掴む。
「……え?」
「ちょ、若……。」
ズルズル……。
「え……。強制参加ですか?!」
茜、太郎、信虎の三人は、ほぼ同時に虎昌を見る。
「…………」
「…………」
「…………」
(そうだ)
(そうです)
(わしの方針に文句あるのか?)
「…………泣」
虎昌は抵抗することを諦めた。
――――――――――
太郎は書物を広げ、茜と虎昌の前に座った。
「ふむ」
「今日は『御旗楯無』について教えよう」
太郎は茜を見る。
「あんまり難しい話は茜には分からないかもしれないが……」
「武田の姫としても、知って欲しいからな」
虎昌は余裕そうな顔をする。
「某はもう知っておるので……」
太郎が無言で虎昌を見る。
「(ㅎ.ㅎ)」
「…………」
虎昌は目を逸らした。
「はい……。聞きます……。泣」
茜は首を傾げる。
「みはた? たてなちってなんですかー?」
太郎は、できるだけ分かりやすく説明する。
「武田の家の家宝だ」
「そして、神様のようなものだぞ。茜」
茜は真剣に聞いている。
「誓ったことは、決して違えてはいけない」
「それが武田家で、代々守られてきたことなんだ。」
「ずーっと昔から、御旗楯無の前で言った約束は守ってきたんだぞ」
虎昌は、その説明を聞いて感心したように笑う。
「ふふふ。姫様にもわかるように、簡単に話しておられますな。笑」
「ガハハハハ。」
茜は頷く。
「みはた? たてなちは、とてもたいせつなものなのですねー」
太郎は嬉しそうに頷いた。
「そうだ!」
「よくわかったな、茜」
「えへへへ」
虎昌も頷く。
「そうだ、若。あの話は、楯無の方の……」
「ああ、あの話か」
太郎は少し考え、茜へ向き直る。
「いいか、茜」
「楯無は、身につける者を見ているんだ」
「むかし、悪い家臣が楯無を盗んで、勝手に着たことがあるらしいんだ」
茜はじっと太郎を見る。
「楯無は、盾もいらない鎧だが……」
「ご先祖さまが取り返すために弓で矢を放ったら、まっすぐその悪い家臣に飛んでいって、倒してしまったんだ」
「まるで着ていないように、あっさりと矢は通ってしまった……」
「…………。」
太郎は、さらに話を続ける。
「だが、その後、ご先祖さまがな」
「楯無を着て矢を撃たせたときは、全くの
無傷だったんだ」
「つまり……」
虎昌が横から口を挟む。
「ちょっと姫様には難しいですかな、これは。笑」
茜はしばらく考え込む。
「むずかしいですけど……」
「…………」
「そのたてなしは、きるひとをえらんでいるのですかー?」
「あと、ふさわしくないひとには、よくないことをおこして……」
太郎は少し考えたあと、頷いた。
「まあ、その考えでだいたい合っておると思う。」
「武田の血を持っていなければ、災いがおきるのやもしれん」
「随分むかしの話だからな」
「父上もまだ生まれておらぬゆえ、もはや
話にしか残っておらぬがな」
虎昌も頷く。
「ですな」
「実際に見ておらぬ以上、確信して伝えられぬのがあれですがな」
太郎は書物を閉じる。
「うむ。今日はここまでにしよう」
「疲れるからな。笑」
「それにしても、理解力が高くて兄は驚いたぞ」
虎昌は茜を見ながら、しみじみ呟く。
「ですな……」
「言い負けていたことが仕方ないのではと思うくらいには……」
「…………」
太郎は虎昌を見る。
「まあ、あれだ」
太郎は一冊の書物を虎昌へ差し出す。
「虎昌には、この書物を貸してあげよう」
「少しは勉学も必要だぞ」
「これからは、武力だけでは通用しないと、自分は思っておるからな……」
虎昌は渡された書物の山を見る。
「……え」
「この量を?」
太郎は不思議そうな顔をする。
「これくらい普通だろう?」
「普通に一時もあれば読めると思うが……?」
「…………」
虎昌の顔が引きつった。
――――――――――
その時、襖が開く。
「そろそろ疲れたのではないかと思ってな。迎えに来たぞ、茜」
信虎が部屋へ入ってくる。
そして、太郎を見る。
「で……。太郎、なんの話をしたのだ?」
茜は嬉しそうに答えた。
「ちちうえー。」
「みはた、たてなち? のはなしをしてもらいましたー」
信虎は頷く。
「おお、そうか。」
そして太郎を見る。
「うむ。」
「ちゃんと嫡男としての自覚が出てきたようだな、太郎」
太郎は少し照れながら頭を下げる。
「ありがたきお言葉です」
信虎は茜へ手を差し出す。
「じゃあ、帰ろうなー。茜」
茜は元気よく答えた。
「はーい」
虎昌は取り残された。
「……え?」
「某は…………」
「うう……。泣」
そんな虎昌を見て、太郎が笑う。
「^^」
「この間は鍛錬をつけてくれたからな」
「付きっきりで教えてやるから」
「な……。頑張ろうな。笑」
「…………………泣」
――――――――――
その頃。
信虎と茜は、帰り道を歩いていた。
「お話は楽しかったか?」
茜は、少し眠そうに目をこする。
「はい。ふわぁー」
信虎は、その姿を見て笑う。
「ははは。やはりまだ幼いからな。」
「うむ。父が守ってやる。」
「安心して寝るといい。」
「ガハハハハ。」
茜は、そのまま信虎に抱かれて眠っていった。
「すやすや……」
――――――――――
一方その頃。
虎昌は、まだ書物と格闘していた。
「……あの」
太郎が顔を上げる。
「どうした?」
虎昌は、山積みの書物を指差す。
「まだ一冊目の半分も読めておらぬが……」
「……」
太郎は、すでに三冊目の書物を手にしていた。
「ちょ……」
虎昌は目を見開く。
「もうそんなに?!」
「早い……」
「あの……。もう少し……ゆっくりと……!」
太郎は首を傾げる。
「そういう訳にはいかんだろう」
そして、次に茜へ話す内容を考える。
「……次に茜に話すのは、どれがいいかな」
「なるべく簡単な話がいいとは思うが……」
虎昌は力なく呟く。
「…………」
「素振りしたい……」
太郎が顔を上げる。
「(´・ω・`)?」
「何か言ったか?」
虎昌は慌てて取り繕う。
「いえ……」
「姫としての振る舞い方がいいのでは」
太郎は書物を探す。
「……そんな本、ここにはないぞ」
「戦術書とかしかないからな^^」
そして、何かを思いつく。
「そうだ」
「孫子の兵法とかどうだ。笑」
虎昌は即座に反応した。
「そんなむずかしい話、分かるわけないでしょ?!」
太郎は笑う。
「そうか。笑」
「疾きこと風の如くのあたりにすれば、
わかると思うが」
「全部読めとは言っておらんぞ」
「特に簡単なところだけ選んで聞かせれば良い。笑」
虎昌は疲れ切った顔で太郎を見る。
「あの……」
「少し疲れたので、素振りしたらダメですかね、若??」
太郎は少し考える。
「仕方ないな……」
「気分転換もいるからな。」
「付き合ってやろう」
「素振りならな。」
虎昌の顔が明るくなる。
しかし太郎は続ける。
「……試合はせんからな???」
「…………」
虎昌の顔が再び曇る。
「ぐっ……!」
「封じ込められた……、」
「試合で分からせようと思ったのに……!」
――――――――――
次の日。
「ふぁあ……」
茜が目を覚ます。
信虎は、嬉しそうに娘を見る。
「ははは。起きたか」
「よく寝ていたな」
「もう朝じゃ」
茜は目をこすりながら、周囲を見る。
「えっ」
そこには太郎もいた。
「むずかしい話をしたから、小さい茜は疲れてしまったんだろう」
太郎は申し訳なさそうに笑う。
「ごめんな、茜」
「もう少し簡単な話ができたら良かったが」
虎昌は、その横で黙り込んでいた。
「…………」
茜は、そんな虎昌を見つめる。
「あと、とらまちゃのめのしたくろいですー」
「どうしてですかー?」
太郎が虎昌の顔を見る。
「…………。」
「クマだな……」
茜は目を丸くする。
「くま?」
「がおーの??」
太郎は思わず笑う。
「ははは」
(山に出る熊と、勘違いしておるのだな。笑)
信虎も豪快に笑った。
「ガハハハハ笑」
(勘違いも可愛いのお……)
茜は、虎昌を見つめながら尋ねる。
「くまになっちゃったのですかー?」
「がおーの」
虎昌は信虎と太郎を見る。
「…………」
「|ㅿ•̀ )チラッ」
太郎と信虎は、目で合図を送る。
((やれ!))
虎昌は、諦めたように頷いた。
(はい……)
そして、茜の前で熊のような構えを取る。
「そうですぞ……」
「外で熊と戦っているうちに、熊のように強くなったのです。」
「がおおおおおっ!」
虎昌が熊のような構えをする。
茜は目を輝かせた。
「ほんとうだ」
「くまです。がおー!」
「わーいー!」
信虎は満足そうに頷く。
「うむ。良いぞ」
「ガハハハハ。笑」
太郎も笑う。
「ですな。ははは」
しかし虎昌は、そのまま太郎へ向き直る。
「というわけで……」
「若には、某のように強くなってもらわねばなりませんな???」
太郎の笑顔が止まる。
「…………え???」
虎昌はニヤリと笑う。
「さあ、行きますぞー!」
「えっ、ちょ……!」
ズルズル……。
虎昌が太郎を引きずっていく。
「ちょ、え……。まだ朝……!」
太郎は少し考えた。
(いや、待てよ。)
(虎昌は勉学で疲れている。)
(なら逆に、ボコしたら、これからもっと強気で行けるんじゃ……)
太郎は、突然立ち上がった。
「……わかった。行こう!!!」
そして茜を見る。
「……父上の言うことを、よく聞くんだぞ」
「茜ー」
茜は元気に答える。
「はーい。ききますー」
虎昌は少し驚く。
「む……?」
(あれ? 抵抗するかと思ったら、素直についてきたな。)
(なら、引きずるのは辞めるか)
(流石に無礼になる)
虎昌は太郎の腕を離した。
太郎は腕をさすりながら笑う。
「むっ」
「引きずるのは、やめてくれたのだな」
「悪かったな虎昌」
「これからは、鍛錬もきちんとするよ」
太郎は虎昌へ意味深な笑みを浮かべる。
(ふっ……)
(鍛錬でも、強気で出れなくしてやる)
虎昌は感動したように頷く。
「若……」
「ようやく、わかってくれたのですな……」
「……泣」
(試合だ、試合!!!)
――――――――――
信虎は、そんな二人を見ながら豪快に笑った。
「ガハハハハ」
そして茜を見る。
「茜。試合を見ながら、朝餉にでもするかな」
「はーい」
――――――――――
そして、鍛錬場。
キンッ!
カキン!
木刀がぶつかり合う。
「はあっ!!!」
虎昌が踏み込む。
「若……!!」
「まだまだですな!」
太郎は必死に受け止める。
「ぐっ……!」
「全然疲れてないじゃないか……」
それでも、太郎は踏ん張る。
「でも、負けてたまるかー!」
「ぐぬぬぬ!!!」
虎昌も力を込める。
「まだ、まだ……!」
太郎は歯を食いしばる。
「ぐっ……」
「相変わらず、なんて力だ!!!」
その頃。
信虎と茜は、少し離れたところで朝餉を食べながら試合を見ていた。
信虎は茜の様子を見る。
「ほう……」
「うむ。ちゃんと食べておるのぉ。」
茜は、夢中になって食べている。
「もぐもぐ。もぐもぐ。」
「おいちい」
信虎は満足そうに頷く。
しかし、再び試合を見ると――。
「むっ?!」
「少し押されておるではないか。💢💢」
信虎は虎昌へ向かって叫ぶ。
「虎昌!!!」
「負けたら、わかっておるよな!!!💢💢」
虎昌は歯を食いしばったまま、心の中で叫ぶ。
(ぐぬぬぬ💢)
(ちょ、今集中してるんだから怒鳴るのやめて……💢)
太郎はさらに踏み込む。
「ぎぎぎっ……!」
「……!!!」
「やあっ!!!」
虎昌は後ろへ下がる。
「うわっ……」
「ふう……。危ない…」
虎昌は信虎を見る。
「御館様💢」
「いま試合中ですから、後にしてください!!!」
その時、茜が食事を飲み込む。
「もぐもぐ。もぐもぐ。」
「ゴクンッ」
そして、元気よく叫んだ。
「あにうえー!」
「かんばれー!」
「くまたいじー!!!」
太郎の目が輝く。
「うおおおお!!!」
虎昌は驚く。
「ちょ……。え……?!」
「力強い……!」
「ぐぬぬ……」
「き…、きちんと寝ていれば……!!」
太郎は心の中で呟く。
(よし)
(ようやく書物の疲れが出てきたようだ……)
一方、信虎は朝餉を食べながら試合を見ている。
「ガツガツ……」
そして、茜へ声をかける。
「茜」
「きちんと飲み込んでから話してるなあ」
「えらいぞー」
そのまま虎昌を見る。
(虎昌💢💢)
(押されてるぞ。何とかしろ💢)
虎昌は焦る。
(やばい……😱)
「ぐっ……」
「うおおお!!!」
太郎がさらに力を込める。
虎昌は、その動きを見て目を細めた。
「……!」
太郎も虎昌の動きを読む。
「やはり、そう来たか。」
「……ここだ!!!」
一瞬。
太郎が踏み込んだ。
そして、虎昌の首元へ木刀を向ける。
「…………!」
虎昌は目を見開く。
「なっ……」
茜は大喜びする。
「あにうえがかったー!」
太郎も嬉しそうに笑った。
「やった!」
「疲れていたとはいえ、それは自分も同じことだからな」
「一本取れたぞ!!!」
信虎は腕を組みながら、頷いた。
「ふん……」
「ようやく勝てたか、太郎」
「今度は、本調子の虎昌を倒せるようになれ。」
「それと……」
信虎は虎昌を見る。
「虎昌💢💢」
「わかってるよな💢💢」
「………………泣」
虎昌は、その場に崩れ落ちた。
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そうして虎昌は――。
太郎監修のもと。
反省の文を書かされたのであった。
――――――――――
茜と太郎 中編 ――終――
コメント
1件
読了しました! 太郎が茜に「御旗楯無」の話をするシーン、すごく印象に残りました。鎧が身につける人を選ぶっていう茜の解釈、鋭いなあって思いました。そして虎昌の不憫さが今回も炸裂してて、笑っちゃいました(ごめんね虎昌…)。太郎が勝った瞬間、茜の「あにうえがかったー!」が可愛すぎて胸が温かくなりました🧡 兄妹の絆と虎昌の振り回され具合、また次も楽しみにしてます!
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