テラーノベル
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そうして茜は、たくさんのことを教えてもらっていった。
そして少しだけ難しい書物も、時間をかけてではあるが、歳の割には読めるようになっていった。
「で……あるからで……。 ここが……こうで……」
飯富虎昌は、茜の前に置かれた将棋盤を見つめる。
「……姫。 将棋盤を持ってこいと言われて、謎に思いましたが……。 これは……
一体???」
茜は、にこにことしながら答えた。
「書物で読んだことを、さっそく試してみるのですー」
「……まずい。 将棋で負けたら、ますますわしの顔が立たぬ……」
虎昌は冷や汗を浮かべながら、将棋盤を見つめる。
「某が勝ったら、もうこのようなことはおやめくだされ」
「え……なんでですかー?
書物を読んだり、将棋なら危なくないですー」
「……とにかく始めましょう。
今日はなんでー……作戦は聞きませんよ」
「なんで作戦ってなんですか???」
「えっ……」
虎昌は一瞬固まった。
そして何も言わず、黙々と駒を並べ始めた。
ーーーーーー
対局中
「…………」
虎昌の額から、冷や汗が流れる。
(や……やばい……)
向かいに座る茜が心配そうに尋ねる。
「虎昌、ぐわい悪いですかー?
汗すごいですー」
「……パチン」
虎昌は駒を進める。
「……さあ、姫の番ですよ。
いや……少し暑くてですな、ははは……。
熊だから暑いのですよ、ははは……」
「え……と……。 ここです……はい、虎昌のばんねー」
「え……判断、早い……」
虎昌が盤面を見つめる。
「……ん?」
(あれ? これ……どう動かしても詰み???)
(数手先を予測すると……確実に王将を取られる気が……)
「虎昌、まだでしゅかー?」
「……………………」
虎昌は完全に沈黙した。
その時――。
「ガラッ」
襖が開き、太郎が部屋へ入ってきた。
「ん……? 茜、将棋をしているのか。
どれどれ……」
太郎は盤面を覗き込む。
「…………」
(あっ……。)
続けて、信虎も部屋へ入ってくる。
そして、盤面を見た後――。
ゆっくりと虎昌の方を睨みつけた。
(虎昌……これはどういうことかな???💢💢)
「これは茜の勝ちじゃな。
ガハハハハ!」
「ほんとうですかー?」
「はい……。 そうです……まいりました……」
虎昌は力なく頭を下げる。
(うう……。 武力なら、姫方には絶対負けないのに……)
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「父上ー。 なんで虎昌は、せいじゃさせられてるのですかー?」
「んー。 負けたからじゃ^^」
信虎は、何でもないことのように答える。
「大人であるにもかかわらず、負けておるからのー。 お仕置じゃ」
そう言いながら、信虎は正座している虎昌をじっと見る。
(文句あるか、虎昌💢)
「うー……。 虎昌、ごめんなさい。
痛い痛いになるです……」
「……泣」
虎昌は何とも言えない顔で涙を浮かべた。
そんな虎昌を見ていた太郎は、さすがに可哀想になってくる。
(流石に虎昌が可哀想だな……。
自分が怒られれば良いし……)
「父上? そろそろ鍛錬したいので、
虎昌をお借りしても?」
信虎は少し考える。
「む……、そうか……」
「いつか本気の虎昌に勝ちたいので、
しっかりと鍛錬したいんです。
お願いします」
「……分かった。 もういいぞ、虎昌」
「若……。 本当に……ぐすんっ」
虎昌は目を潤ませる。
「自分から鍛錬するようになるなんて……。
某、嬉しゅうござる……!」
「わたしもやるで……」
茜が手を挙げる。
「お主はやめような……な?」
信虎は優しく茜に言い聞かせる。
「怪我をしたら、父は悲しい……。
さっきの将棋の話を聞かせてくれ。
どうやって追い詰めたのか聞きたい」
(小さい子供は、話をすり替えるだけじゃと言うに……。 虎昌はほんとに……)
「はーい。 話しますー」
ーーーーーー
「うんうん……」
信虎は茜の話を聞いている。
「でね、でね。 こうやって、おいて……」
「うむ……。 この速さで置いていたのか」
「はい。 あんまり時間かけると、虎昌が鍛錬するじかん、なくなるので。
そこは、はいりょ?しましたー」
「ガハハハハ! そうか、そうか!」
信虎は笑う。
「それは父がすまぬことをしたな……。
せっかく配慮していたのに、結局、正座で
時間を奪ってしまった」
ーーーーーー
「ふん!!!」
「ブンッ!!」
「うわあああ……!」
「からんっ……」
太郎の木刀が弾き飛ばされる。
「若……立ちなされ」
太郎はすぐに立ち上がり、木刀を構え直す。
「……!」
虎昌も構える。
「……かかって来なされ。
戦場と思い……本当に倒す心持ちで来なければ、疲れていない某には勝てませんぞ」
「おう……。 やー!!!」
「ぐぬぬぬぬ……! ふん……!!」
木刀が激しくぶつかり合う。
「まだまだですな、若!
もう一度、立ちなされ!!」
「くそっ……相変わらずの馬鹿力め……!」
太郎はすぐに立ち上がり、再び構える。
「まだまだだ!!! えいっ!!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
「ぐぬぬ……!」
キンッ!
カキンッ……!
ブンッ!
「うわっ……! ぐぬぬ……。
うう……まだまだ……!」
「ぐぬぬぬ……!」
カキンッ! ブンッ! キンッ……!
ーーーーーー
鍛錬後
「若……、 随分と良くなりましたぞ。
某、驚きました」
「結局、今日は勝てなかったがな……。
イテテ……」
「そう簡単に何度も勝たれたら、某の立場がないですからな……。
もうしばらくは、勝たせていただきますぞ」
太郎は笑う。
「それでこそ、倒しがいがあるものよ!!!」
(本当に成長なされて……)
虎昌も嬉しそうに頷く。
「それでよろしい。 今日はここまでとしますが……。 明日もまた、同じ勢いでやりますからな!!!」
ーーーーーー
「|ㅿ•̀ )チラッ」
茜が、こっそり部屋から抜け出してきた。
「ふふふ……。秘密の通り道を使って、
こっそり部屋から抜け出して来ました。
それに、ちょっと長い木の棒を見つけました!!!」
茜は周囲を見回す。
「声を出すと、ばれましゅから……。
こえをださず……」
そして、少し離れた場所で鍛錬する兵たちを見つめる。
「ここから、あの兵を見て、真似をするですよー」
(えいえーい)
ブンッ! ブンッ!
茜は兵たちの動きを真似する。
(ここは、つきですね)
(えいっ!)
シュッ!
ーーーーーー
「おい、虎昌……。 茜を見てないか?」
「え、姫様がどうかしましたか?」
「わしが少し目を離した一瞬で、目の前から消えてのぉ。 見つからぬのじゃ」
「なんと……。 でも姫様のことです。
屋敷からは出ておらぬはずです。
探しましょう」
ーーーーーー
その頃、太郎は部屋で書物を読んでいた。
「ふむ……。 この書も悪くないな」
太郎は書物を閉じる。
「そして喉が渇いた。
少し井戸水を飲みに行くか……」
「ガラッ」
そこへ虎昌が慌てて入ってくる。
「若!! 茜様は来ておりませんか!!!」
「む……。 茜がどうかしたのか……?」
「目を離した隙に、屋敷のどこかへ行ってしまったようなのです!!!」
「なんだと……!」
太郎は立ち上がる。
「よし。 ちょうど喉が渇いて、 井戸水を飲みに行こうと思っておったところだ。
ついでに少し探そう」
「ありがたい……。 では、ごめん!」
「バタバタバタバタ……!」
ーーーーーー
「むっ……。
屋敷が騒がしくなってきたですー」
茜は慌てて、持っていた木の棒を見る。
「!!!」
そして、さりげなく元の場所へ戻す。
「この秘密の場所に隠れるですー」
茜は、低木の中に作った秘密の場所へと身を隠した。
「姫様!!! どこですか!!!」
「しーです……」
「姫様!!!!!!!
どこにいるのですか!!!」
ーーーーーー
少し前、 茜の移動を見ていた者がいた。
「む……? あれは茜???」
部屋とは反対方向へ向かっていく茜を見て、少年は首を傾げる。
「ふむ……?」
この男は武田次郎。
後の典厩公、武田信繁である。
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元の時間
「兄上」
「む……? 次郎、どうした?」
「茜の行先なら、少し心当たりが」
「……!! 本当か、次郎!!!」
「ええ。 部屋とは反対方向に向かっていくのを、少し前に目撃しまして。
鍛錬所のほうでしたかな……」
「……!!! すまない、ありがとう!!!」
「兄上、自分もお供します!!!」
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鍛錬所へ到着した二人。
「では、茜は来ておらぬと言うのだな💢」
問い詰める次郎に兵たちは答えていく
「はっ……! 絶対に来ておりませぬ!!!」
「姫方が来ていたら、すぐ分かりますよ……泣。 ひええ……怒鳴らないで……」
太郎は周囲を見回す。
「ふむ……。 流石に、目立つようなことはせぬか……」
太郎は少し考え込む。
「仕方ありません。 別の場所へ向かいましょう、兄上……」
「少し待ってくれ……。 何か、思い出しそうな気がするのだ……」
「兄上???」
「……!」
太郎が顔を上げる。
「思い出した!」
「そういえば、この辺りに……。
昔、隠れるために作った秘密の場所が……」
「えっ??? 兄上が、そんなことを?」
次郎は驚く。
「意外です……」
「そこには、どうしても鍛錬したくなかったときに隠れたものだ……。
多分、茜はそこにいる。
同じ兄弟だからな。 おそらく、そこにいる」
ーーーーーー
茜は秘密の場所に隠してあった木の実を集めていた。
「よし… これを父上達に持っていくですー」
「ん……?」
「茜?」
太郎が秘密の場所を覗き込む。
「やはり、ここにいたか」
「兄上、さすがです!」
次郎も続く。
「こら、茜!!! 勝手にひとりで出ていったらダメだろう!!!」
太郎は辺りを見回す。
「ふむ……。 木の棒とかはないな……」
そして、集められた木の実と、葉っぱで作られた皿を見る。
「……木の実を集めていたのか。
葉っぱで、お皿とかを作ってある」
茜は小さく頷く。
「前から、ときどきここで遊んでいたです」
「そうか……。 でも、勝手にひとりでもう行ったらだめだぞ。 みんな心配した」
太郎は優しく手を差し出す。
「さあ、帰ろうな」
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「姫様……。 ひとりで勝手にフラフラするなんて……泣」
虎昌が涙目で茜を見る。
信虎も、少し悲しそうな顔をしている。
「うむ……。 危ないことはしておらぬようで良かったが……。 父は少し悲しかったぞ…」
「遊びに付き合ったと言うに……。
もう勝手にひとりで部屋から出てはならん。
分かったな?」
「はい……。 ごめんなさい……」
太郎も茜に言う。
「な? みんな心配していたと、これで分かっただろ?」
そして、ふと昔のことを思い出したように笑う。
「しかし……。 昔作った場所を、茜が使っていたとは……」
太郎は少し嬉しそうに笑った。
「……なんか、そこだけは嬉しいな。
ははは!!!」
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ふと目が覚め、起き上がる方円。
「…………夢……? 昔の夢かしら………」
方円は、ぼんやりと遠くを見る。
「私が、まだ幼かったころ……、
かしら…。とても…、 楽しかったわね…」
そして、ゆっくりと目を閉じる。
「でも……。」
「…………いや、もう……何も…………」
茜と太郎 中編二 終
コメント
1件
## 美月ゆめか、読了〜!🌸 わあ、今回も激アツだったね!🔥 虎昌が茜に将棋で負けて正座させられてるの、思わず「大人のプライド…!」ってなったよ😂 でも太郎が「鍛錬したい」って助け船出して、なおかつ虎昌が泣きそうになりながら感動してるの胸熱すぎた🥺 茜がこっそり抜け出して木の棒で鍛錬の真似してるところ、無邪気でめっちゃ可愛い〜!! でも最後の「夢幻」パートで、これが方円の回想だったっていうのが判明して…なんか切なくなっちゃった😢 楽しかった日々の記憶って、大事だよね…。 琴寧さんの描くキャラの細かい表情や心の動き、いつもじんわり染みる〜。次回も楽しみにしてるよ!💕