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死者一名 行方不明者二名

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死者一名 行方不明者二名

1 - 死者一名 行方不明者二名

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2024年11月26日

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コン、コン

寝る前に一息着こうと用意した白湯を片手に、キッチンの電気を消そうと添えた右手が反応する。玄関のドアをノックする音に、

「んぇ?」

気の抜けた声が漏れる。今時わざわざノックなんかせずともインターホンがあると言うのに。そんな疑問を頭の片隅にしまい、画面越しに音の主を確認する。

写っていたのはいつも通りの風景で、人影も無く、平和な空気感が漂っていた。

気のせいだったのかもしれない。そう思いつつ念のためにと鍵を開け扉をかちゃりと開く。そこには少し大きめな封筒と、ガムテープを適当に巻かれた手の平サイズのダンボールが置いてあった。周りに誰か居ないか見渡し、生憎気配も無かった為少々警戒しつつも好奇心に任せ持ち入れる事にした。


万が一を考えゴム手袋を着けカッターで慎重に開封する。封筒には買い物や食事、着替えをしている俺の写真が6枚と白紙が2枚。ダンボールには録音機と恐らくだが盗聴器らしき物が入っていた。録音機の再生ボタンを押すと微かに鼻歌が聞こえた。それも多分俺の。

つまりだ、この贈り主はちょっぴり変わった趣味をしているって訳だね。

でもこれがエスカレートするとしたら…流石に困る。でもまだこっちに害は無いし、いちいち相手をするのも面倒だし…

… らんらんにでも相談するか。




「って事で、これからどうするべきかなぁ。」

あれから4日後の今日、相談があるとLINEをしたらわざわざ家に来てくれたため、お気持ち程度にみかんをダンボールから2つ取り出し、手渡しながら話を進める。

「そうだな…」

あ、やっぱりらんらんでも悩むんだ。手元のみかんを眺めながら唸るちょっと珍しい光景に目を細めつつも、オウム返しのように俺も唸る。

普段あまり使わない頭を働かせ、お互いに口を開けたり閉めたり。秒針が1周を超えたあたりのとき、突然自信満々に立ち上がり、

「めためたに良いこと思いついた…!」

腕を組み俺を見下ろすらんらんが、見たことの無い笑顔を零した。




「…ねぇらんらぁん」

「どしたんよ。」

「お腹すいたぁ」

「はいはい、これ食べとき~。」

こんな緩い会話をしている現状に違和感はありつつも、日の光に当たれないこと以外に不自由はない。から、そこまで気にしていなかった。あぁ、あと…最近いるまちゃんに

「お前きっしょ。」

って言われたくらい。何か変な事しちゃってたかな。心当たりがまるで無いや。そういや昨日も一昨日もみこちゃんがらんらんと言い合いしてた気が…ってあれ?

みこちゃんって、誰だっけ?

…思い出せないや。まぁ、そこまで大切じゃないから忘れたんだろうな、うん。そんな事よりお腹減ったなぁ。朝ご飯作んないとだ。ん?朝ご飯…つくる?違うよ違うよ。朝が、つくる。ん?

あ!朝ご飯だ!そうだ、朝ご飯!…で、どうするの?あ、お腹がすいて、朝ご飯。を、食べた。 っけ。ん…朝にご飯、を…食べた?これから?えっと…これが、なんだっけ。

「すっちゃん!朝ご飯持ってきたよぅ!」

顔を勢いよくあげると、らんらんが小瓶を片手に駆け寄ってきた。差し出された小瓶を受け取ろうと伸ばした俺の腕を困ったように見つめ立て膝をついてくれたらんらんと目が合う。

「ちょっと、口開けれる?」

言われた通りあ、と口を開く。口移しで流し込まれた液体を飲み込むと、いつの間にからんらんに抱きしめられていた。




彼の名前を何度呼んだだろうか。返ってこない声に、何度歯を食いしばっただろうか。数える余裕を無くしたのはいつだっただろうか。らんらんが外出した隙に合鍵を使って家中を探し回るこの行動の意味が分からなくなってきたころ、懐かしい歌声が耳を奪った。

「すちくん!」

耳を押し付けるようにして床に這いつくばる。自分の体制も、勢いのあまり鈍い音が鳴ったのも、どうでもよかった。ただ、彼の声だけに意識が向いて、正気でいられなかった。

…ここだ!

トイレのスリッパをどかし、マットを捲った。その瞬間彼の歌声がよりいっそう耳に届く。脳内に響き渡る。嬉しくって涙で視界はぼやけているけど、隠し扉を開いた先には確かにあの緑色があった。

「ぅすちくん!おいで、ほら手っ着かんで!すちく…」

もう一度呼ぼうとした声が、喉に突っかけて出てこない。

これはすちくんじゃない。そう捉えた脳に、心が必死に否定する。だって、あの歌声も、消えかけの匂いも、温もりも、

「…ぁ、っウゥ”? 」

ほら、この声は絶対にすちくんだ。涙を拭って手を伸ばす。

原形を留めていない溶けた手足

くっきりと浮かぶ鎖骨

酷く枯れた声

脆い髪の毛

焦点のずれた瞳

この特徴、今朝のニュースで見たなぁ。今流行ってる違法薬物だったっけ。不死身の身体を手に入れる代わりに沢山の犠牲を伴う最悪の薬。そういえばらんらんが言ってた

「これはすっちーを守るためにやってるの。これで俺なしじゃ生きていけないようにしてるの。」

って言葉。狂ってる。そんなのおかしい。なら、俺がすちくんと生きていく方がいいに決まってる。俺ならもっと大切に出来る。幸せに出来る。だから

「逃げよう、すちくん」

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コメント

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初コメ失礼します ! 🙇🏻‍♀️‪‪´- めっちゃ物語好きです!🥹🫶🏻 続き楽しみにしております! 🫠

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