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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第100話 〚誰も知らない、高嶺の花の裏側〛
澪は、今日も「高嶺の花」だった。
廊下を歩けば、
ひそひそと声が落ちる。
——可愛い
——近寄りがたい
——完璧そう
誰も、
それを疑わない。
澪自身でさえ、
昔はそう思われる理由を、うまく説明できなかった。
教室の窓際。
静かな午後。
澪は、机に肘をついて、外を見ていた。
空は高くて、
雲は何も知らない顔で流れている。
(……誰も知らない)
ふと、そう思う。
澪の心臓が、
どれだけ拒否して、
どれだけ選んで、
どれだけ怖がってきたか。
誰も知らない。
一歩間違えれば、
現実が壊れていたことも。
触れられたら、
戻れなくなっていたことも。
全部、
表には出ていない。
「澪」
後ろから、海翔の声がした。
振り返ると、
いつも通りの距離で立っている。
近すぎない。
遠すぎない。
(この距離……)
澪は、少しだけ笑った。
「なに?」
「先生呼んでた」
「うん、ありがと」
それだけの会話。
でも、
それだけでいい。
海翔は、澪を「高嶺の花」だと思っていない。
守る対象でも、
飾る存在でもない。
ただ、
選ぶ力を持った一人の人間として、
信じている。
そのことを、
澪は知っている。
教室の後ろでは、
えま達が楽しそうに話している。
りあが、少し大げさに笑って、
しおりが突っ込んで、
みさとが静かに見ている。
彼女たちも、
全部は知らない。
でも、
澪が「戻らなかった」ことだけは知っている。
——それで十分だった。
一方で。
恒一は、
少し離れた場所から澪を見ていた。
もう、近づけない。
触れられない。
壊せない。
理由は分からない。
澪が何を選んだのかも、
どこで変わったのかも。
恒一には、
最後まで分からなかった。
それが、
「裏側」だった。
澪は、立ち上がる。
椅子の脚が、静かに鳴る。
(私は)
完璧でも、
強くも、
特別でもない。
怖がって、
迷って、
選んできただけ。
それでも、
前には戻らなかった。
それを知っているのは、
ほんの数人。
——そして、
それでいい。
澪は、
教室のドアに向かって歩き出す。
光の中で、
背中は変わらない。
今日も、
「高嶺の花」。
でもその裏側で、
確かに、
自分の足で立っている。
誰も知らない、
高嶺の花の裏側で。
——第2部・完——
コメント
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好評なので急遽変更します。2026年2月15日(朝の6時半)から、5話づつ公開させていただきます-`📢