そんな「今この世界にいるけど
この世界じゃない世界にいるような」そんな不思議な感覚でいると
「はぁ〜…ヤバい…あれがデスソースか…。
戦闘力…くっ…計測不能だ…。スカウターブッ壊れるわ…」
と鹿島がもたれ掛かってきて一気に目が覚めた感覚になり
こちらの世界に帰ってきた感覚になる。
「ん?どうした?」
寄りかかってきた鹿島に尋ねる。
「怜ちゃん、オレのリアクションとこの汗でまず心配してよ。「大丈夫か?」って」
と自分の額から滴る汗を指指しながら言う。
「そんな辛かったの?大丈夫?」
そう言った後に
「すいませーん!」
と手を挙げ店員さんを呼ぶ。
「今注文する?ねぇ?まぁいいや。あのね?喉がね?風邪のとき喉の痛さの倍くらい痛い」
という鹿島の言葉と店員さんの
「はぁーい!伺いまーす!」
という言葉が重なる。
「はい!ご注文でしょうか?」
とすぐに店員さんが駆けつけてくれた。
「えぇ〜とサラダとあとミルクとかありますか?」
「サラダ1つと、えぇ〜とミルクですか?
ちょっと確認してきますので少々お待ちください」
軽く頭を下げ颯爽と去っていく店員さん。カッコいい。
「がっごいい〜」
めちゃくちゃ古い壊れかけのレディオから聴こえてきたのかというくらい
いつもの鹿島の声ではない。
「オレの心の声勝手に表に出すなよ」
そう言うと鹿島は辛さで額に汗を滲ませながら少し辛そうだがポカンとした表情を向ける。
「今の怜ちゃんの行動に対してだよ?」
「うん!今私も聞いててキュンッってしました!」
姫冬ちゃんが両手を胸の前で合わせてお祈りするようなポーズをし、会話に入ってきた。
「いやぁ暑ノ井先輩モテますねこれは」
ただの麦茶が緑茶ハイに見えるほど居酒屋に馴染んでいる俊くんも入ってくる。
「え、マジでなんのこと?」
本当に心当たりがなく、純度99%の疑問の球をぶつける。
「牛乳ですよ!」
姫冬ちゃんが左手で持ったグラスを揺らしながら言う。
姫冬ちゃんがグラスを揺らす毎に
中の溶け切っていない小さくなった氷がグラスや氷同士でぶつかり
涼しげな音をたてる。そこでやっとわかった。
「いや、別に普通だろ」
「んん〜これまたカッコいい」
「やかましい」
そんなやり取りをしていると
「お待たせしましたぁ〜えぇ〜こちらがサラダで
ドレッシングがこちらからシーザードレッシング、胡麻ドレッシングになります。
他のものが必要でしたらまた呼んでください。
えぇ、あとこちらミルクになります」
「ありがとうございます。すいません、無理言って」
「あ、いえ!冷蔵庫確認したら、カルーアミルク用に置いてあって
店長に確認したらオッケーだったんで」
と腰元で軽くオッケーマークを右手で作る店員さん。カッッッッっコいいーー!!
「ありがとうございます」
そんな心の感情を悟られないように、なるべく冷静を装いお礼を言う。
「いえいえ、では失礼します」
と笑顔のまま軽くお辞儀をして颯爽と立ち去る。
僕の前に置かれたミルク入りのグラスを手に取り
「はい、どうぞ」
と鹿島に手渡しする。
「あでぃがどぉ〜」
と鹿島が受け取る瞬間に僕は手に持ったグラスを自分の口に持っていき
口をつけ1口ミルクを口に入れる。
なにも言わず僕の右腕に弱々しく猫パンチのような攻撃をする鹿島。
「ごめんごめん。ちょっと飲みたくなっちゃって」
と言い再び鹿島に手渡しする。
「これでオレの声が悪くなったら怜ちゃんのせいだからね」
そう言いながら僕からミルクを受け取り、一気にグラスの半分まで飲む。
「はぁ〜口の中にヒール魔法かけたみたい」
「この中だとヒーラーはぁ〜…姫冬ちゃんかな?」
そう話すと鹿島の右隣で無言で軽く頷く俊くん。
「ヒーラー…。聞いたことあるけどなんですか?」
と首を傾げる姫冬ちゃん。
「ゲームはしない?」
と鹿島が尋ねる。
「スマホでパズルゲームとか、たまに友達とパーティーゲームはやりますね」
「あぁ、なるほどね?えぇーとね、ヒーラーってのはね?RPGはわかるでしょ?」
「はい!RPGはわかります!」
「RPGってね?「ロールプレイングゲーム」の頭文字をとった略称で
まぁ簡単に言うと役職を与えられて、その役職で敵と戦うってゲームなんだけど。
役職っていうのは…。あぁ、たとえば、勇者様とかね?」
「はい!わかります!勇者様!あと魔法使いとか?」
「そう!それ!」
「魔法使い?」
「そう!魔法で仲間のHP回復するでしょ?
そのHPを回復する魔法のことをヒール魔法って言うのね?
それで回復に徹してる魔法使いをヒーラーって言うのよ」
「へぇ〜知りませんでした」
「んでヒーラーってマンガとかアニメのイメージでは可愛い女の子だから」
と言って人差し指と親指を立て
写真を撮るときや絵を描くときの手のように両手で長方形の囲いを作り
その囲いに姫冬ちゃんを入れる鹿島。
「えぇ〜照れますねぇ〜」
と言い照れる素振りを見せつつもどこかまんざらでもない感じの姫冬ちゃん。
その様子をまるでウイスキーを飲んで見ているような俊くんがいる。
そんなやり取りが僕の視界内で繰り広げられている。
そんな中、僕の頭のどこか、心のどこかで
先程の妃馬さんの言葉がいまだに漂っている。
「仲良くなってますね」
そう妃馬さんに投げかける。
「ありがたいです。姫冬も楽しそうだし、良い先輩に良い同級生ができて
今日はホントに余計な心配だったのかもって今になって思います」
そう笑顔でグラスの半分より少ないアスピスサワーを1口飲む妃馬さん。
カラコロンとグラスの中の氷が涼しげな音をたてる。
「いや、姫冬ちゃんもお姉さんがいるから安心できてるんじゃないですか?
だから僕は全然来て良かったと思いますよ」
「そうなんですかね?」
と少し首を傾け悩んでいる感じではあるが口角は少し上がっていた。
「妃馬さんはよく飲まれるんですか?」
「んー…そうですね。付き合いでは月…3から6回くらいは行きますね」
「おぉ!意外にも行きますね!?」
「まぁ深酒は滅多にしないし
自分からもないので、飲むのは嫌いじゃないって感じですかね」
「あぁ〜僕も同じだな。あ、いや、ペースは全然姐さんのほうが多いっすけど」
と言うと妃馬さんが
「ちょっ…姐さんじゃないですから。やめてください」
と笑いながら言った。
「すいません。冗談です。…いや、半分は「姐さん」の意識はあるかも」
と自分でもたぶんイタズラっぽい表情してるなと思いながらそう言うと
「くっ…なにか仕返しできることないかな…」
と悔しそうな表現を作っているものの妃馬さんは楽しそうだった。
「妃馬さんはアスピスサワーお好きなんですか?」
そう妃馬さんのグラスを指指しながら言うと
「あぁ〜いや、まぁ好きですね。
アスピスサワーに限らず基本は甘いのが好きですね。
あのお酒をあまり感じない感じのが好きです。
友達の選んだお店がそういう甘いの置いてないところだったら紅茶ハイとかですかね?」
「なるほど。めっっ…ちゃ、わかります」
と腕を組み大きく頷く。
「僕も日本酒とかウイスキーとかダメで、なるべくアルコール感じないものにしてます」
そう言うと妃馬さんが、少し不思議そうな顔をして
「でも紅茶ハイってアルコール感じません?」
と言う。その疑問はもっともだ。
「たしかにアルコール感はありますね。でも紅茶自体が好きで、特にこれ」
と言いもう残り少ない紅茶ハイの入った自分のグラスを妃馬さんに差し出す。
妃馬さんは僕からグラスを受け取る。
「いいんですか?」
「はい。もう残り少ないんで、良かったら全部飲んじゃってもらっても大丈夫です」
僕の言葉を聞き終え、紅茶ハイを1口飲む妃馬さん。
「んん〜。あぁ〜。ん?んん〜、あ、でも思ったよりアルコール感ない」
「いや、まぁそうですけど。そこじゃなくて。この紅茶の種類のことです」
そう言うと妃馬さんはもう1口飲んだ。少し考え
「ん〜なんだろ。心の紅茶ですかね?」
「そうです!心の紅茶!ココティーです!」
「あぁ!やっぱりココティーだった!ココティー私も好きですよ」
「マジっすか?」
「ていうかあんま嫌いって人知らないかも」
と妃馬さんが僕にグラスを差し出しながら言う。僕はグラスを受け取り
「たしかに」
と言って笑う。
「そうだ。妃馬さん。次なに飲みます?
さっき見たらカクテルも少ないけどありましたよ?」
「そうですね〜同じのにします」
「わかりました」
そう言うと姫冬ちゃんや俊くんと話してる鹿島に
「鹿島ー。同じのでいい?」
と聞く。
「ん?」
と言う鹿島にグラスを指指して見せる。すると
「あ、あぁ!うん!同じのでお願い!」
そう言う鹿島に返事はせず姫冬ちゃんにも
「姫冬ちゃんは?おかわりでいい?」
と聞くと
「あっ、はい!ありがとうございます!」
と元気良い返事が返って来る。そして俊くんに視線を変え
「俊さんはウイスキーですか?」
と聞くと
「いや、これただの麦茶っす。僕はストレートティーお願いします」
と笑いながら言う。すると鹿島や姫冬ちゃんも
「たしかに。俊くん馴染みすぎてウイスキーに見えるな」
「たしかに〜」
と少し盛り上がっていた。僕は視線をカウンターの奥のほうに変え、手を挙げて
「すいませーん!」
と少し大きめ、だけどうるさいと思われない程度の声で店員さんに呼びかける。
「はーい」
と返事が返ってきて
すぐに女性の店員さんが早歩きのような小走りにような感じでやってきた。
「はい!ご注文ですか?」
「はい。えぇ〜紅茶ハイとアスピスサワー。
アスピスとレモンサワーと、ストレートティーをお願いします」
注文を言う度に店員さんの様子を確認していた。
店員さんは僕がメニュー名を言うと小声で復唱していた。
「はい!」
と先程復唱していたときの小声とは相反した元気の良い「はい!」に内心少し驚く。
「かしこまりました!えぇ〜、と、空いたグラスなどは?」
という店員さんの言葉を聞き
もう空いていた姫冬ちゃんのグラスを妃馬さんが店員さんに渡す。
「あっ、ありがとうございます!それでは少々ではお待ちくださいぃ〜」
と言い店員さんは颯爽と去っていった。
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