「なあ、チョロ松〜兄ちゃん暇だよお〜」
いつも通り、おそ松兄さんのダル絡みが始まった。床に寝転んでは足をばたつかせている。
「…」
おそ松兄さんに気を取られないように、無反応を装ってソファに腰を下ろし、求人誌のページをめくった。
今日は運が悪いことに他の兄弟は家にいない。同じ空間におそ松兄さんと僕、2人きり。
(…いや、本当はちょっと嬉しいんだけど)
こんなふうに近くにいられる時間が、密かに特別で、愛おしくて。
だけど、この気持ちをずっと抱えたままじゃ、きっとダメになる。
そう思っても、胸の奥にある感情だけは、どうしても誤魔化せなかった。
同性で、さらに同じ血が通っている。
そんな感情、知られてしまったらきっともう二度と、まともに話せなくなる。
「ねえチョロ松〜聞いてんの?」
いきなり立ち上がったかと思うと、勢いよく僕の隣に座り込んできた。
ふわっと沈んだソファの分だけ距離が縮まって、肩が触れた。
「なに読んでんの?」
頭ごと預けてきて、頬までかすかに触れる。
あまりの近さに鼓動が速くなり、すぐに頬が赤く染まった。
「ちょ、近い…ってば」
「えーなに〜?もしかして照れてんの〜?」
にま、と微笑んではいたずらっぽく覗き込んできた。その距離はほんの十数センチ。
少しずつ心臓の音がうるさくなる。聞かれるわけないのに心臓の音が漏れてしまいそうで、視線が泳いで、反射的に体をそらしてしまう。
「んーと、未経験者大歓迎…求じん…」
「ちょ!もう暑苦しいからどっか行ってよ!」
「えー冷たいなあ、てか求人誌って、また自意識ライジング??」
「なっ、うるせえよ!やめろ自意識ライジングって!…ハロワから貰ったんだよ。 はぁ、もういいでしょ離れて 」
「え?なに、お前働くの?」
「…まあね、今回は真剣かも」
「……どうしたんだよ、急に。」
いつもと違う僕の反応に、おそ松兄さんは明らかに戸惑っている様子だった。そりゃそうなるよね。「今回は真剣かも」なんて僕の口から出るのは珍しいと思うし。
でも、無職に焦ってるわけじゃない。おそ松兄さんと距離を置けば変な期待もしなくて済むし、自分を傷つけずに済む。
自分とおそ松兄さんとの関係を守るために選んだ選択だった。
「…もう、真面目に生きようって決めたの。」
「……そっか。」
おそ松兄さんの言葉からは、いつもの軽さが消えていた。 それ以上何も言わずにソファから立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。
「おそ松兄さん…?」
こういう時、いつものおそ松兄さんなら一言二言、茶化してくるはずなんだけど。
「……」
兄さんは僕がいなくなっても、変わらないよね。きっと、いつも通り。大丈夫だよ。
ソファに残ったおそ松兄さんの温もりに、そっと指を重ねた。
「あぁ、つら、」
ソファに横になると読んでいた求人誌を顔に被せ、静まり返った部屋の中で、音のない時間に胸の奥がきゅっと締めつけられた。
コメント
1件
おおおおお久しぶりのおそチョロ👏👏💞もう切なくて泣きます😭😭😭ありがとうございました🙏ゴチです😭最高ですおそチョロ😭