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ヒノトの警戒を他所に、セノは話を始めた。
「今、僕を含めた四人の四天王と、その頭、魔王代理の司令官が僕たち魔族軍を動かしている」
唐突な魔族軍の実情を話され、困惑するヒノト。
「何故……そんな大事なことを教えるんだ……?」
「潰して欲しいからだよ。今の魔族軍を…………」
そう言うと、またしても鋭い目付きをヒノトに向ける。
「どうして……? 仲間じゃないのか…………?」
「ハッ! 僕がお仕えするのは魔王様だけだ! 元々魔王様の側近だったか知らないが、魔族軍全員を仕切る権利なんてないのに、魔王面して、気に食わないんだ!」
そう言うと、セノはふと立ち上がる。
「魔王様が勇者に倒されたのは、力が弱かったからだと豪語しやがった……。違う……魔王様が力で劣っているはずなんてない……。頭が悪いんだ……アイツは……!」
露骨なまでに怪訝な表情を示し、演技で話している訳ではないことを察するヒノト。
「そこでだ、ヒノト・グレイマン。お前、ソイツをぶっ殺してくれよ………………」
「お、俺が……? こんなこと、言いたくはないけど、俺一人じゃ、レオにすら勝てないし……今の魔族軍を動かしてる司令官? に、勝てる気がしないんだけど……」
「 “灰人” の力を使え」
「灰人…………」
力の内容は覚えている。
他人の魔力を扱えることと、魔族の闇魔法を抑制する力があること…………。
しかし、どうすれば灰人になり、その力をコントロールできるのか、行き詰まっている最中だった。
しかし、それを漏らす訳にはいかない ―――― 。
「司令官の名は、冥王 リムル=リスティアーナ。次の標的は、倭国に攻め入ると息巻いていた」
(倭国…………!! 俺たちが向かう先…………!! シルフさんの情報が漏れていた…………? またどこかに潜伏してる魔族がいるのか…………?)
「そこには、僕と同じ四天王、風の使徒が向かう。お前も倭国に行くんだろ? 丁度いいじゃないか」
「そんなこと……裏切りじゃないのか……!」
「あぁ、裏切りだよ」
そう豪語しながら、セノはまたしても睨み付ける。
「だから言ってるだろ? “戦争の為の戦力増強が必要” なんだと…………」
「その、司令官のリムルって奴を裏切るつもりで、戦争の為の戦力を水面下で集めている……ってことか……?」
「そうだ。リムルは頭が悪い。もっと相手のことを調べ、慎重に、そして確実に、勝利を掴むべきなんだ」
「それを、魔族の大敵である “灰人” の俺に話しちまっていいのかよ…………」
睨み返すヒノトに、セノはニコッと微笑む。
「お前一人くらい、余裕で殺せる」
その言葉に、再び背筋が凍り付き、言葉に詰まる。
「それじゃ、僕の目的のために、せっせこ働いてくれよ、小さな働き蟻くん…………」
ニコッと背を向けた瞬間、
『 笑え ―――――――― 』
ザッ…………!
『 どんな時でも ―――――――― ! 』
セノの目の前で、手から雷をバチバチと巡らせる。
その容姿は、灰色の髪に変わっていた。
「お前の言う通り、リルムって司令官も、四天王の風の使徒もぶっ倒してやるよ…………」
バチバチと光らせながら、セノの胸ぐらを掴む。
「アハハっ、その調子だ! 灰人!!」
ゴゥッ!!
その瞬間、雷は瞬時に炎へと変わる。
「なっ……!」
「俺は灰人じゃねぇ……。キルロンド王国の平民、DIVERSITYの前衛ソードマン…………ヒノト・グレイマンだ…………! お前を倒して、勇者になる…………!!」
ミィン…………
そうして、シールドを破壊する寸前の音が鳴り響く。
「へぇ…………」
その姿に、セノはニタリと笑みを浮かべた。
後ろで見ているルルリアは、目をハートにさせ、ヒノトを見ながら顔を赤面させていた。
「アハハっ! やってみろ!! 改造人間が!!」
ブォン!!
そして、そのままヒノトは外へと吹き飛ばされた。
ヒノトが見上げた頃には、既に二人の姿は消え去っていた。
大きな物音を聞いた医療班数名が駆け付け、再びヒノトはベッドへと寝かされた。
駆け付けたのは、魔族化したカナリアと戦闘した、医療班長のルギア・スティアだった。
ルギア・スティアは、医療班に所属しながら、魔族戦争では、戦闘向きなファイターとして戦うヒーラーとして、軍隊の指揮を高めるリーダーのような存在感を示した。
女性ながらに前線で拳を振るう様は、男の騎士を奮い上がらせる威圧感も醸し出していた。
「ヒノト、また髪が灰色に変色しているぞ。この窓の損害……何があったか端的に説明しろ」
「公式戦に現れた、風の魔族、ルルリア=ミスティアと、四天王の雷の使徒 セノ=リュークが現れたんです……」
「あの四天王のセノが来たのか。よく殺されずに済んだな。それで、貴様は何を話したんだ?」
「なんか……ルルリアが俺に一目惚れして、勝手にやって来たとか、なんとか…………」
「貴様……冗談を言っているなら私が殺すぞ……?」
「い、いやっ! 本当なんです!! 真面目にそう言われたんですって!!」
強面から殺気を露わにするルギアに対し、ヒノトは焦りながら弁解をする。
その様子に、冗談ではないことを確信する。
「他には何か話していたか?」
「話をしたかったとかで、色々と話されました……。セノは今の魔族軍を裏切るつもりで動いている、とか、次に魔族軍が攻めるのは倭国、とか…………」
その話を聞き、ルギアはニタリと笑みを浮かべた。
「ふっ、ナメられたものだ。そんな情報を話し、奴の洗脳魔法でヒノトの記憶を消さなかったことからして、そんな情報が我々人類に漏らされても困らない、とでも言いたいのだろうな…………」
すると、ルギアは立ち上がる。
「ルギアさん…………?」
「倭国…………私も行こう…………! セノからの喧嘩、買ってやろうじゃないか!!」
「ル、ルギアさんは医療班長ですよね…………?」
「私が前線に出て、何か問題あるか?」
その威圧感から、言葉を失うヒノト。
ルギア・スティアは、王国の中で間違いなく強者だ。
氷のファイター、現国内最強パーティの前衛、国王ラグナですら、一対一で勝てるかは定かではない。