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ヒノトが帰宅してから数日後、生きた英雄 シルフ・レイスからの手紙が届いていた。
本来であれば、強くなれる更なる鍛錬に活きる倭国への招待状も、ヒノトからしてみれば、現魔族軍司令官との激闘への死の手紙のように見えた。
「結局、誰が集められたんだろうな…………」
あの騒動の後、国家騎士が街を固め、更なる警戒態勢を敷いているが、それ以外変わった点はない。
決勝戦で魔族が乱入したのだから、仕方がないと言えば仕方がないが、公式戦の話も、『魔族が乱入した』と言う話しか持ち上がりはしなかった。
王城とは別に、上級国家騎士の為の上等なホテルの地下には、大きなパーティホールがある。
そこに、今回倭国への招待状を受けた者が集まる。
「さて…………」
ギィ………… と、ヒノトは大きな扉を開けた。
「あ! ヒノト! 無事来られたみたいね!」
「様々な武器を使う倭国での鍛錬……楽しみだな」
「早く……早く行きたいね……!!」
話に聞いていた通り、ヒノトの入室に、リリムとグラム、そしてリゲルが揃って会いに来た。
「他の面々は…………」
「やあ、ヒノトくん」
「お前……!」
次に爽やかな笑みで手を掲げたのは、公式戦第一試合で当たった異邦剣術使いの、凪クロリエだった。
「そうか! お前も異邦剣術使いだもんな!」
「ああ! だからこのお誘い、僕も凄く嬉しいよ!」
凪は、第一試合でヒノトたちDIVERSITYに敗れた際、自分が『異邦人とのハーフ』だと伝えてくれた。
透き通るような青緑色の髪に、細身で爽やかな好青年。風魔法に疾風の剣を扱う剣士。
次に目が行ったのは、貴族院の面々だった。
「おお! キラじゃん!! てっきり、貴族院学寮の奴らはエルフ王国の方かと思ったぞ!」
「よう! ヒノト!! ハハっ、他にも、ロングソードマンのキース、ナイトのユス、平民からも、あのビビリちゃんなメイジを守っていたナイトのアイクもいるぞ!」
公式戦で、ヒノトと共に相打ちになった、貴族院代表の実の息子にして、レオに次いで神童と謳われていた雷属性のロングソードマン、キラ・ドラゴレオ。
風紀委員に敗れこそしたが、小さい身体に巨大な氷魔法の大剣を扱うロングソードマン、キース・グランデ。
そのキースの右腕にして、盾とナイフを扱い、巧みで繊細な水魔法を操るナイト、ユス・アクス。
そして、第一試合で根性を見せ、パーティを勝利に導いた平民パーティのナイト、アイク・ランド。
その面々を見て、ヒノトは察する。
「これ……公式戦に出てた剣士全員集められてるのか……?」
「剣士だけではない!」
ヒノトの背後から、扉を開けて救出して来たのは、SHOWTIMEのロス・アドミネだった。
「えっ、ロス先輩……!? メイジですよね……?」
「ソルが居なくなったからな! 正式に、前衛として風のファイターに転職した!」
そうして暫くしていると、生きた英雄、水属性のソードマスター、シルフ・レイス。岩属性の老人、ロングソードマン、バーン・ブラッド。そして、「私も行くぞ!」と豪語していた、炎魔法のファイター兼ヒーラー、医療班長のルギア・スティアが現れた。
「今回、君たちを招集したのは他でもない、僕だよ。集まってくれてありがとう」
そして、シルフはニコッと一礼した。
国王から選ばれたエルフ王国への招集であれば、言わば半強制的なものになるが、シルフの倭国への招集には義務権はなく、全員が任意参加となっていた。
しかし、公式戦にまで参加し、選抜隊に選ばれようとする者たちである。
誰一人として、不参加の者は現れなかった。
そんな中、シルフは話を続けた。
「気付いていると思うが、今回は前衛職、特に物理攻撃を生業とする剣士を集めた。エルフ王国に向かう者も、公式戦参加者の魔法使いの全員だ。本来であれば、公式戦の試合を見ての選抜の予定だったが……魔王軍は予想以上に早く動きを見せている。この意味は分かるね?」
シルフは、朗らかな笑みを消す。
その瞬間、あの光景が全員の脳裏に過る。
戦闘して全く歯が立たなかった者。
魔族を前に、戦闘すら出来ずにいた者。
そして、大切な仲間を奪われた者。
シルフの伝えたいことは、より多く、より強い騎士の育成が急務である、というものだ。
全員がそれに納得し、真剣な表情を向ける。
「それじゃ、早速パーティを発表するね!」
そう言うと、再びニコッとシルフは笑う。
しかし、その言葉に全員が唖然とする。
「前衛職だけで……パーティを組むのですか……!?」
全員が同時に考えたことであった。
本来パーティとは、前線で戦う前衛を軸に、中衛のメイジやサポート魔法を使う者、後衛のヒーラーやシールダーをパーティの目的に沿って作るものだ。
「全員が前衛のパーティを組むなんて…………」
しかし、そんな不安感の中で、シルフは鋭い目付きで全員に魔力の圧をぶつける。
「じゃあ君たちは……サポートしてくれる仲間がいないと戦えないままの前衛でいいんだね……?」
その言葉に、またしても全員がハッとした。
急な魔族の襲来に、仲間が揃わない時もある。
誰かが負傷し、いつも同じ戦術が使えるわけではない。
そうなった時、最後まで立っているべきは、前衛でなければ、全員が死んでしまう。
一人ででも戦える、そして、周りの環境を優位にする起点を持って戦える前衛になる必要がある。
それが、今回の倭国への遠征の全てだった。
「それじゃあ、パーティを発表するね。ここでは、状況に応じて入れ替えがあるから、ちゃんとしたパーティ名は付けない。倭国遠征班Aチームとでも呼称しようか」
そして、全員がゴクリ吐息を飲み、発表を聞き入れた。
倭国遠征班Aチーム
ロングソードマン キラ・ドラゴレオ(雷)
ロングソードマン キース・グランデ(氷)
ナイト アイク・ランド(水)
ソードマン 凪クロリエ(風)
倭国遠征班Bチーム
ソードマン ヒノト・グレイマン(灰)
ソードマン リゲル・スコーン(炎)
ナイト ユス・アクス(水)
倭国遠征班Cチーム
ファイター ロス・アドミネ
ウィッチ リリム・サトゥヌシア
シールダー グラム・ディオール
発表を聞き、ヒノトは恐る恐る手を挙げる。
「あのー……俺たちのパーティ、一人いないんですけど……」
「ああ、実は倭国からソードマンの子が一人キルロンドに来たいと話していてね。倭国へ到着したら、君たちのパーティにはその子が入る。風の剣士だよ」
そして、再びニコッと笑う。
次に、リリムが手を挙げる。
「あの……私たちのパーティは……?」
「君たちのパーティは異例チームだ。本来、リリムくんとグラムくんはエルフ王国に行くべき人材だった。ロスくんも、急な職業変更だったからね、もう一人は……」
高らかな笑い声を上げ、三人の前に出でる。
「私が貴様らを扱いてやろう!!」
ニタニタと三人を見下ろすのは、ルギア・スティア。
三人はその威圧感に汗を滴らせながら、ニヤケ面で反応を見せた。
(ルギアさんから直々に……羨ましい気持ちはあるけど、あの三人の気持ち少し分かるなぁ…………)
そう感じながら、ヒノトは南無三と手を合わせた。
「倭国へ向かうのは一週間後。その一週間の間、僕とバーン殿で君たちの相手をする。それまでに、パーティで上手く立ち回れるよう特訓する」
その言葉を聞き、二人の男が声を荒げた。
「俺が前衛だ!! 譲れん!!」
「一撃が強いのは僕の方だ。引き下がれ!」
気が強く、貴族院学寮でも常に争い続けていた、ロングソードマン同士のキラとキースだった。
「まあ……そうなるよな……。リゲル、ユスさん、俺たちはどうす…………」
「俺が前に出ます!!」
「いいや、年上の僕だ! 盾もあるし!!」
リゲルと、ナイトのユスも同じ争いをしていた。
どうなるんだ、この遠征…………と、ヒノトは多少の不安感を感じつつ、「いいや、俺が前衛! 勇者になる男だからな!!」と参戦した。