『幼い頃の記憶』
Li視点
園庭に沈みかける夕陽は、子どもたちの影を長く伸ばしていた。
砂場のざらつく匂い。ブランコの鎖が風に鳴る音。
その穏やかな景色の真ん中で――俺は泣きそうになっていた。
「なぁ、らいと。お前の髪、なにその色~?」
「黄色の線入ってるぞ、へんなの!」
同級生の男の子たちが、俺の髪をつかんで引っぱる。
生まれつき入っていた“薄い黄色のメッシュ”。
周りとは違うその色を、俺は自分でもよく分からないまま隠したかった。
「いっ…た、っ…やめて……」
言い返す勇気なんてなくて。
目をぎゅっと閉じて、痛みをこらえるだけ。
「泣けば? 変な髪だからいじめられんだよ!」
涙が溢れそうになった、その瞬間――
俺の前に”誰か”が飛び込んだ。
「おい、お前ら!! らいとに触んな!!」
風を切るように大きな声。
夕陽のオレンジに照らされて、茶色い髪がふわっと揺れる。
ロゼだった。
小さな体なのに、俺を隠すように両手を広げて立ちはだかる。
「いじめすんな! 引っぱんな! やめろって言ってんだろ!!」
「なにアイツ……ロゼ、じゃますんなよ!」
「じゃまじゃねぇ!!
泣いてるだろ、らいとが!!」
ロゼは振り返らない。
震えながらも俺の前から動かない。
俺の手を、後ろにそっと触れる。
その手は少しあったかくて、涙の温度をすうっと奪っていった。
「……いたいだろ? だいじょうぶだからな。おれがいるから」
(なんで……こんなに優しいの?)
胸がじん、と熱くなる。
「ロゼー!どけよ!!」
「やだ! らいとまもる!!」
全身で叫ぶ声は震えていたのに。
その震えよりずっと強い気持ちが伝わってきた。
「きいろい髪、かっこいいだろ!!
光みたいで、俺は好きだもん!!」
(すき……?)
自分でも好きじゃなかった“髪”を、
誰にも言われたことがない言葉で肯定された。
夕陽の色と混ざって胸の奥があったかくなる。
涙がこぼれそうで……でも不思議と、泣きたくなかった。
男の子たちは不満そうに舌打ちする。
「もういいよ……ロゼと遊ぶのつまんねーし」
「じゃあなー、変な髪!」
走って遠ざかっていくその姿が見えなくなるまで、
ロゼは俺の前から離れなかった。
やっと振り返って、俺に優しく微笑む。
「……いたかったよな。こわかったよな」
それ以上優しくされると、涙が止まらなくなる。
ぽろぽろとこぼれた涙を、ロゼは小さな手でぬぐってくれた。
「らいとの髪、俺はほんとに好きだよ。
なくことないって。俺がまもるから」
「…ロゼ…ありがとう…」
ロゼはにこっと笑って、俺の手をぎゅうっと握った。
「うん。俺、らいとの味方だから。これからもずっと」
その言葉は、夕陽よりも温かかった。
この日から俺は――
“あの時俺を守ってくれた声”を、ずっと探し続けることになる。
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コメント
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いつも素敵な作品見させていただいてます✨️ ほんとに話の流れ等が好きすぎて一生リピってます🤦💗 無理しない程度に応援してます💪❤️🔥 続き楽しみです💓