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『君はいつかの俺の記憶』
Li視点
幼稚園の頃の記憶は、ところどころ霞んでいる。
顔も、名前も、もうはっきりとは思い出せない。
――それでも、声だけは忘れられなかった。
『俺がいるから』
あの時、震えながらも前に立ってくれた“俺”。
その声が、俺の中でずっと鳴り続けている。
中学に上がっても、高校に入っても。
人混みで、廊下で、教室で――
ふと似た声を聞くたび、胸がぎゅっと締めつけられた。
(……違う。あの声じゃない)
探しても、見つからない。
それでも諦められなかった。
「らいとー、また考え事?」
クラスメイトの声に我に返る。
俺は軽く首を振った。
「なんでもねぇよ」
言いながら、無意識に前髪に触れる。
今でも残っている、あの黄色のメッシュ。
もう引っぱられることはない。
でも――守ってくれた“あの俺”を、俺はまだ探している。
その日の放課後。
図書室に向かう途中、廊下の先に見えた背中に、足が止まった。
(……ロゼ?)
同じ学年。別クラス。
噂では静かで、ちょっと近寄りがたいって聞くけど。
俺は、なぜかロゼの姿を見ると目を逸らせなくなる。
ロゼは窓際で本を読んでいた。
夕方の光が、幼稚園の夕陽みたいに横顔を照らす。
(……変だ)
理由は分からない。
なのに胸が、ざわっとする。
俺が本を取ろうと手を伸ばした瞬間――
カサ、と音がして、指先がロゼの手に触れた。
「……あ」
ロゼが顔を上げる。
「……ごめん」
低くて、やさしい声。
――その瞬間。
胸の奥が、強く鳴った。
(……え)
鼓動が一気に早くなる。
息が詰まる。
(この声……)
「らいと?」
名前を呼ばれて、我に返る。
「あ、……わりぃ」
慌てて手を引っ込めると、ロゼは少し困ったように笑った。
「俺、ロゼ。……同じ本、探してた?」
「あ、うん……そう」
嘘だった。
でも、声をもう少し聞いていたくて。
沈黙が落ちる。
なのに、居心地が悪くない。
ロゼはちらっと俺の髪を見る。
「……そのメッシュ、きれいだな」
心臓が、どくんと跳ねた。
「……え?」
「光当たると、すげー綺麗に見える」
幼稚園の夕陽。
“光みたいで、好きだもん”。
――重なる。
「……なんで、そう思うんだよ」
ロゼは少し考えてから、ゆっくり言った。
「……昔、似た色の髪のやつ、知ってた気がして」
その言葉に、胸が苦しくなる。
(似た……色……?)
「そいつ、すげー弱そうでさ。
でも……守りたいって思った」
ロゼはそれ以上何も言わず、本を閉じた。
「じゃ、先行く」
すれ違いざま、ロゼの肩が俺の腕に触れる。
一瞬だけ――あの日と同じ、温度。
背中を見送りながら、俺は小さく呟いた。
「……なぁ、ロゼ」
「なに?」
「……どっかで、会ったこと……あるか?」
ロゼは一瞬、息を止めた。
それから、静かに首を振る。
「……さぁな」
そう言って、去っていった。
残された俺は、胸を押さえる。
(違うはずなのに……)
なのに、どうしてこんなに――
あの声を思い出すんだよ。
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