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数日後、ヒュー先生が講義の冒頭で言った。


「先日アザレアからもらった質問の回答に、今日は答えられそうだよ」


机に腰かけたまま、鼻眼鏡を上げると腕を組んで笑顔を浮かべた。カルは驚く。


「もう少し文献の閲覧に時間がかかると思っていました。まぁ、こちらもアゲラタムをせっついたので、多少は効いたかもしれませんね」


アザレアは答えが早く知りたくて、先生を期待の眼差しで見つめた。それを見てヒュー先生は微笑む。


「アザレアは気になるよね。ところでアザレア自身はあの文献読んだの?」


アザレアは首を振った。


「だよね、あの文献の内容、僕やアザレアのように知識がないと理解できない内容だったから、僕やアザレアに見せてくれていればもっと早くに根本的な解決策を提示できたかもしれない」


そう言って、苦笑した。


「結論を言うとね、奈落ってのはどうやら時空の歪みで、空間に穴が開いてしまっている状態らしい。昔の時空魔法使いがそれに気づいたようで、穴を塞ぎに行ったんだけど魔力不足で叶わなかったみたい。ちなみにモンスターと言われている者の正体は、その時空の歪みと言うか、空間の穴を通って他の時空から流入する『何か』みたいだね。誰も見たことが無いから、その正体はわからないけど。触れると数日後に、生きた屍になってしまうって書いてあった。アザレア、逆に僕は訊きたい。これについて何か思い当たることはある?」


アザレアは一つだけ思い当たる物があった。それは放射能だ。目に見えず触れると生きた屍になる。放射能の特性に合致していた。もしそういうものなのだとしたら、聖女の作る結界にはオゾン層のようにそれを通さない力があるのかもしれない。


アザレアは黙ってしばらく考え込む。その様子を見てヒュー先生は言った。


「やっぱり、君にはそれがなんなのか分かるんだね」


アザレアは頷き、少し考えながら答える。


「分かると言うか思い当たることが一つだけあります。でもこれを説明するとなると、途方もなく難しい話になってしまうので、さらっとだけ説明しますわね。それでも話が長くなりますわ、よろしいでしょうか?」


ヒュー先生もカルも頷く。アザレアは一呼吸入れると話し始めた。


「全ての物は目に見えないほど小さな粒子でできてます。その粒子の塊の量などで、その物質の理が決まりますの。ほとんどの物質は、その粒子の形や量が安定しているのですけれど、多く持ちすぎたり、形がわるかったりと安定せず、絶えず余ってしまっていて、粒子を飛散している物質があります。これを崩壊物質と呼びますわ。ここまではよろしいかしら?」


アザレアはそう言って二人の顔を見ると、二人は頷いた。二人ともここで講義をしているせいか、ここまですんなり理解したようだった。アザレアは続ける。


「その崩壊物質は、長い年月をかけていらない粒子を飛散し終わると安定した形になり、飛散を辞めます。問題はこの飛ばされ続ける目に見えない小さな粒子の方です。分かりやすく今後は飛散粒子と呼びますわね。その極小さな粒子は見えないけれど私達の体を貫通して、体を構成するのに大事なものまで破壊します。なので、その粒子が体を貫通したあとすぐは死ななくとも、その後に体の再生ができなくなるので生きた屍となり死に至ります。私は、その飛散粒子こそモンスターの正体ではないかと思います」


言い終わると、ヒュー先生もカルも驚いた顔をしていた。信じられなくても仕方がないと思う。だが二人の反応はアザレアの予想に反していた。


「聖女の結界は光の粒子によるものかな? 魔法学の観点からも、物質が粒子によって作られていると言うのはなんら不思議もないしね。見えないぐらいの飛散粒子が体にダメージを与えるって言うのは、少しイメージつきにくいけどさ」


カルも頷く。


「魔法学のように、それをしっかり証明できれば、これからの進歩に役立ちそうな話だね」


そしてヒュー先生があることに気づいて、カルに向かって言った。


「アザレアの話をもとに、モンスターにやられた時の治療魔法の確立ができるんじゃないかな? 根本的な治療ができるよね? 色々状況が変わるんじゃないかな? それと、国境を行き来するための小規模な結界石が王宮にあるって聞いたことがあるけど、それを使えばアザレアが奈落まで行って奈落を塞げるんじゃない?」


カルはそれを聞いて、顔をしかめる。


「確かに、隣国との国交のためにいくつか小さな結界石は存在しています。でも」


そう言ってアザレアの顔を見て、真剣な顔になる。


「それをアズがやるのは私は反対します。本当にできるかわからないし、もしアズに何かあったらどうするのです? 危険すぎます」


ヒュー先生は頷く。


「もちろん、今話したことは推測の域を出ないからね。今後アザレアの言ったことをもとに調査団を編成して、何度か調査したりしてこの話の裏付けが取れて安全が確保されないと。僕だって可愛い教え子達をそんなところに行かせられないよ」


そう言うと、ヒュー先生はアザレアを見て話を続ける。


「アザレアは国の宝だ。失えばその損失は計り知れないよ」


カルも頷く。


「先生のおっしゃる通りだと思います。素晴らしい女性なのは知っていましたが、その知性も想像を遥かに越えている」


そう言って、アザレアに向かって微笑んだ。アザレアもカルを見つめ返す。しばらくそうしてからカルが口を開いた。


「私はこれから忙しくなりそうだ。君が教えてくれたことを調査しなければならないしね。もちろん、先生や君にも協力をお願いすることもあると思う。君には負担をかけっぱなしで申し訳ない」


そう言うとアザレアに頭を下げた。アザレアは首を振る。


「とんでもないことですわ、この国のことは私のことでもあるのですから、当然です」


そう言って二人は見つめ合った。その横で、ヒュー先生が何かを思い出したように、カルに訊いた。


「そう言えば、教会の聖女ってどうしてるの? 降臨祭の時もなんだかパッとしなかったけど、その後も全然民衆の前に出てこないしさ。光の属性持ちだし、アザレアみたいにやっぱ知識量とかも半端ないんでしょ? 一度は会ってみたいなぁ」


そう言うと楽しそうに微笑んだ。カルはそんなヒュー先生を見ながら苦い顔をして答える。


「先生、それはやめておいた方が良いと思いますよ。彼女は予想の斜め上をいってますから」


ヒュー先生は大きく目を見開いた。


「いいよ、そういうの。研究者として興味あるなぁ」


アザレアとカルは顔を見合わせて苦笑した。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

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