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#クロスオーバー注意
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ハルヒは、自分が壊れかけていることに気づいていた。でも、それを“問題”だとは思わなかった。
眠れない夜が続いても、
朝になると体は勝手に動く。
笑顔を向けられれば、相応の言葉を返す。
——それができているうちは、大丈夫だ。
そうやって、自分に言い聞かせていた。
ホスト部での時間は、相変わらず騒がしい。
環は愛を叫び、双子は面白がり、はにー先輩は甘く、モリ先輩は静かで、鏡夜はすべてを見ている。
なのに、ハルヒの中では、
「ここにいる自分」が少しずつ希薄になっていた。
誰かに必要とされている。
それは確かだ。
でもそれは、
“藤岡ハルヒ”でなくても成立する必要なのではないか。
代わりはいる。
自分でなくてもいい。
自分がいなくなっても、世界は問題なく回る。
そう思うようになったとき、
ハルヒは初めて“楽になりたい”と感じた。
⸻
放課後、誰もいない部室。
窓から差し込む光がやけに眩しい。
「……私、何を頑張ってるんだろ」
声に出した瞬間、
胸の奥で何かが静かに折れた。
これ以上、考えなくていい。
役割も、期待も、判断も。
全部、やめてしまえばいい。
——それは逃げじゃない。
ただ終わらせるだけだ。
ハルヒは立ち上がった。
迷いはなかった。
感情がない分、決断だけが残っていた。
⸻
「ハルヒ」
背後から、低い声。
振り返ると、そこには鏡夜が立っていた。
いつもの余裕ある笑みはない。
「……何?」
「君、今ここで一人になるつもりじゃなかっただろ」
その一言で、
ハルヒの中で必死に保っていた“理性の殻”に、ひびが入った。
「関係ないでしょ」
突き放すように言ったのに、
鏡夜は一歩も引かなかった。
「関係ある。
君がいなくなった後の“処理”を考えるのは、面倒でね」
いつもなら皮肉だと分かる。
でも今回は違った。
それは、
本気で引き止める人間の言葉だった。
⸻
そこへ、環が飛び込んでくる。
「ハルヒ!!」
息が乱れている。
叫ぶような声。
「君がいなくなる未来なんて、僕は一切認めない!!」
大げさで、うるさくて、いつも通りのはずなのに。
ハルヒは、初めて思った。
——こんなふうに、必死になられる価値が、自分にあるのか。
「……どうして」
声が震えた。
「自分なんか、いなくても」
その瞬間、
モリ先輩の手が、そっとハルヒの肩に置かれた。
「俺達は大切だ」
短い言葉。
でも、逃げ場を塞ぐには十分だった。
はにー先輩は泣きそうな顔で、
双子は珍しく黙っていた。
誰も、正論を言わない。
誰も、責めない。
ただそこに、
“ハルヒがいなくなるのは困る人間”が揃っていた。
⸻
膝から力が抜けた。
「……怖かった」
それだけ言うのが、精一杯だった。
怖かったのは、死ではない。
自分が“何も感じなくなっていること”だった。
環が、壊れ物を扱うみたいに抱きしめる。
「戻ってきてくれてありがとう、ハルヒ」
——戻ったわけじゃない。
ただ、落ちなかっただけだ。
でもそれでいい。
今日は、それでいい。
⸻
ハルヒの問題は、終わっていない。
簡単に解決なんてしない。
それでも。
一人で終わらせなかった。
それだけが、確かな事実だった。