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#クロスオーバー注意
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静かに限界を迎えていた。
感情がなくなったわけじゃない。
むしろ逆で、感じすぎていた。
誰かの期待。
誰かの理想。
誰かの「面白い」。
それらを一つずつ受け止め、理解し、適切に返す。
それができる自分である限り、問題はない——そう思っていた。
でも最近、
“返す言葉”を探すのが、異様にしんどかった。
⸻
ホスト部で笑っている間、
頭のどこかが常に冷えている。
今、自分は何を演じている?
誰のために、ここにいる?
答えが出ない問いが、
毎日、確実に数を増やしていった。
夜、布団に入ると、思考だけが止まらない。
いなくなったら、どうなるだろう。
迷惑はかかるだろうか。
悲しむ人は、いるだろうか。
——でもそれは、一時的なものだ。
世界は、ちゃんと回る。
ホスト部も、桜蘭学院も。
自分が抜けても、
“困らない形”で再編される。
その想像に、
ハルヒは初めて安堵した。
⸻
放課後。
誰もいない部室。
いつもなら落ち着くはずの場所が、
今日は妙に現実味を帯びている。
ソファに座り、
窓の外を見つめた。
「……もう、いいか」
声は驚くほど落ち着いていた。
頑張った。
やるべきことは、やった。
それ以上を求められる理由も、
拒否する理由も、もうない。
怖さはなかった。
ただ、決めてしまえば楽になるという確信だけがあった。
——ここから先は、戻らない。
その境界線が、
はっきりと見えた。
⸻
「ハルヒ」
低く、抑えた声。
振り向くと、鏡夜が立っていた。
偶然来たような顔をしているが、
その目は、すべてを察している。
「……何?」
「今、君は“選択”を終わらせようとしている」
断定だった。
ハルヒは否定しなかった。
否定する理由が、もうなかったから。
「悪い選択じゃないよ」
静かな声で言う。
「誰も責められないし、
誰も間違ってない」
それが一番、危険な言葉だと、
鏡夜は理解していた。
「君がそう言うときは、大体、自分だけを切り捨てる」
ハルヒは、少しだけ眉をひそめた。
「効率的でしょ」
「——最悪だ」
その言葉に、
初めてハルヒの心が揺れた。
⸻
そこへ、足音が重なった。
「ハルヒ!!」
環の声は、いつもより低く、震えていた。
ふざける余裕が、完全に消えている。
「君が“納得した顔”をしてるときが、一番怖い」
近づきながら、環は言った。
「それはね、
誰にも助けを求めない顔だ」
ハルヒの喉が、ひくりと鳴った。
助けを求めない。
それは、強さだと思っていた。
でもそれは、
もう期待しないと決めた人間の顔でもあった。
⸻
モリ先輩が、黙って扉を塞ぐ。
はにー先輩は、笑えない顔で立っている。
双子は、いつもの軽さを完全に失っていた。
誰も、
「やめろ」とは言わない。
誰も、
「間違ってる」とも言わない。
ただそこにあるのは、
ハルヒが消える未来を受け入れられない人間たちだった。
⸻
「……」
ハルヒは、ゆっくりと息を吐いた。
決意は、まだある。
境界線も、消えていない。
でも。
「……今日は、やめとく」
それは、逃げでも、解決でもない。
ただの延期だ。
それでも、
その一歩を踏み出さなかった。
環の肩が、わずかに落ちる。
鏡夜は、何も言わず視線を逸らした。
誰も、勝った顔をしていない。
でも、誰も失っていない。
⸻
その夜、ハルヒは一人で考えた。
まだ、終わっていない。
また、同じところまで来るかもしれない。
それでも。
一人で決めなかった。
それだけが、確かな事実だった。