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「……終わりました。確認、お願いします」
ようやく書き終えたオーダー表を差し出すと、先生はそれを手に取り、一つ一つ指でなぞるように確認していった。
「……ああ。これでいい。最初からこの精度でやれ」
「はい。以後、気をつけます……」
ペンを片付け、立ち上がろうとした時だった。
先生は椅子に深く背を預け、眼鏡を外して眉間を指で押さえた。その仕草に、いつもは感じない「疲れ」のようなものが滲んで見えて、私はつい足をとめる。
「……朝倉。外はそんなに、星が綺麗だったか」
不意を突かれた。先生は資料を片付けながら、こちらを見ようともせずに淡々と続けた。
「……山の上は、余計な光がない。星を見るなら、一人で見る方が集中できるぞ。あるいは、隣に誰がいるかで、見える景色が変わるのかもな」
それは、夜遊びを叱る皮肉のようでもあり、どこか先生自身の経験に基づいた呟きのようにも聞こえた。
さっきの成瀬先輩との間に、一体何があったんだろう。先生の少し寂しげな、それでいて熱を帯びたような横顔に、私は「おやすみなさい」とだけ言って、逃げるようにその場を後にした。
廊下に出ると、ひんやりとした空気が頬に心地よかった。
自分の部屋に戻る途中、暗がりの階段の踊り場で、誰かが壁に寄りかかっているのが見えた。
「……遅かったな、紗南ちゃん。先生に、こっぴどく叱られた?」
自販機の明かりに照らされて、凌先輩が待っていた。
その手には、温かいココアの缶が二つ。
「あ、凌先輩……。まだ起きてたんですか?」
「君が心配でね。……ほら、これ。お疲れ様の差し入れだよ」
差し出された缶の温もりが、先生との緊張感でこわばっていた指先にじわっと広がっていく。