テラーノベル
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手巻き寿司パーティーは、最初から最後まで花斗がこれでもかというくらいイクラを食べまくって終わった。
壱月とともに床にこぼれたイクラの粒を拾っていると、不意に彼と手が触れて、思わずびくんと引っ込める。
「ごめん……」
私がそう言うと、壱月は自嘲するように笑って、その場から立ちあがった。
「いつき、これ、なあに?」
その声に顔を上げる。
花斗が壱月に、いつの間に持ってきたのか昨日もらったカラフルな箱を差し出していた。
そういえば、昨日はこの箱をスルーして、ずっと飛行機に夢中だったなと思い出す。
「ブロック。やるか?」
「やる!」
「じゃあ、お皿洗い終わったらやろうか」
壱月はそう言って花斗の頭をくしゃっと撫でた。だが、花斗は「えーー」と、ぶうっと頬を膨らませる。
ここで私が出しゃばると、きっと花斗は「ママはダメ」と言うに違いない。
私はまたため息をこぼして、「お皿、私洗うよ」と立ち上がった。
「愛音……」
壱月はなにか言いたそうにしていたけれど、私はそのままキッチンへ入った。
*
「ちがう!」
急に花斗の大きな声が聞こえて、私は皿洗いの手を止めた。
そうっとリビングを覗くと、花斗が半べそをかいていた。壱月はお手上げと言わんばかりに、困り顔を浮かべている。
「にかいは、あかだよ!」
「これは、緑だろう?」
ふたりはブロックの家をつくっていたよう。壱月は緑のブロックを指差し、花斗に聞いている。
「ちーがーうー! これはここでいいの!」
花斗はそう言うと、屋根と思わしき部分を力任せに取り外し、バシンと叩きつけるように足元に向かって投げた。
「ごめんな。もう一回やろうか」
壱月はそれを拾い上げ、花斗に聞く。
だが花斗はその場に寝転がり、なにもしないと意思表示を始めた。
「ヤダ!」
「もう一回、教えてくれ」
壱月が優しく聞いても、花斗は寝返りを打ってそっぽを向く。
「ヤダ!」
こうなったらもう無理だ。花斗はヤダヤダ星人になってしまったのだ。
たじたじになる壱月に、つい笑みがこぼれる。だが、こうなってしまったらしかたない。
私はヤダヤダ星人に乗っ取られた花斗の救出へ向かった。
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「おうち、できた?」
「逆に、壊れた」
おどけて入ってきた私に、壱月か苦笑いでそう答える。
それを気にせず花斗のもとへ向かうけれど、花斗は向こうを向いたままだ。
きっと、意地になっているのだろう。
「はーなと、ママにおうち見せてよ」
花斗は床に顔を向ける。それで、くもつた声が床越しに聞こえた。
「ヤダ」
その声は、小さい。少し寂しくなってきたサインだ。
私はそのことに気づいて、花斗の気分変えようと、花斗の後ろに腰を下ろす。そのまま脇に両手を入れ、優しくコチョコチョくすぐった。
「あはは! ママ、ははっ、やめて!」
花斗の背中が、くすぐったそうに丸まる。それに、私はくすりと笑った。
「おうち、見せてくれたらやーめる」
「みせる! ははっ、みせるよー!」
くすぐるのをやめると、花斗はコロッと立ち上がりブロックの前で歩みを止める。
そして、自分で取り外してしまった屋根を修復すると、そのまま大窓に向かって逃げていってしまった。
これは、〝勝手に見ろ〟ということだ。
「なあ、愛音」
花斗と壱月のつくったお家を直していると、近くにいた壱月が声をかけてきた。
「あー、気にしないで。花斗、恥ずかしかっただけだと思うから」
「いや、そうじゃなくて……」
笑みを向けたのに、壱月は近くにやってきて、ブロックの家を見つめる。
「花斗って、もしかして……」
そう言って、二階部分らしき、緑と赤のニ色で構成された部分に触れる。
「色弱か?」
「あー、……うん、気づいたよね。まだ正確にはわからないけどね、三歳だし」
言いながらも、おそらく花斗は色弱だろうと思う。
遺伝による染色体の異常で、見えている風景が私たちとは違うらしい。
保育園で「犬の色は緑」だと言ったことを姉に聞いたのがきっかけで、眼科を受診した。
言葉の発達、色味への感性は様々だから、まだ確定はできないとしつつも、医者には色弱の可能性を示唆されている。
なにを隠そう、私の父親が色弱だ。
「そうか……」
壱月は悔しそうに、ブロックのおうちの二階部分を撫でた。
「『パイロットになりたい』か」
壱月はぽつりとそう呟いて、黙ってしまう。
私は残りの皿洗いをするため、なにも言わずにその場を立った。
コメント
1件
読んだよ〜〜!!🥺💕 花斗くんのヤダヤダ星人めっちゃ可愛くて思わず笑顔になっちゃった(笑) でもそのあとの壱月の「色弱か?」からの「パイロットになりたいか」のシーン、胸がギュッてなったよ…。短い言葉だけど、壱月の悔しさとか愛音の複雑な気持ちがすごく伝わってきて、泣きそうになった😢💦 日常の何気ないシーンなのに、登場人物の感情が丁寧に描かれてて、本当に素敵なエピソードでした🌸✨