【竜蘭】
(10000文字)
○注意書きは1話参照です。
○死ぬことしか考えてない蘭います。
「 あ、兄ちゃん…!!」
「…」
あのまま死んでたら楽だったのに。
なんで目覚ましちゃったの。なんで。
「三途!!兄ちゃんが…」
「蘭!!大丈夫か?どっか痛むとかねぇか?」
「…」
誰でもいい。
誰でもいいから俺のこと殺してくれないかな。
そしたらみんな幸せになれるから。
竜胆も、天竺の幹部達も、俺も。みんな。
「兄ちゃん…?」
「…て…よ…」
「え?」
「殺してよ…絶対に恨んだりしないから。」
「お前…まだンなこと言ってんのか…?」
「いつだって変わんないよ。ずっと。”死ぬこと”以外何も求めないから。」
「何言ってんだよ。他にも望みなんていくらでもあんだろ…?」
「…ない。あったとしてもそれ以上に求めるものなんてない。」
「なんで…」
三途の言う通りいっぱいあったよ。
竜胆と一緒にいたい。
竜胆の隣で笑っていたい。
竜胆に愛されたい。
でも、でもね、そんなの願うだけ無駄だから。
俺の願いが叶ったって竜胆が可哀想だよね。
だって竜胆は俺のこと嫌いなんだから。
1番の願いは竜胆が幸せになってくれること。
俺は俺にしかできないことをしてあげたい。
竜胆の望み通り死ぬこと。
それが俺の1番の願いでしょ?
竜胆が幸せになる。
そのためには俺が死ななきゃいけないんだから。
「兄ちゃん」
「…」
でもやっぱり、少しだけでもいいから前みたいに…
「ねぇ、兄ちゃん」
「…」
なんて、ダメだよね。
俺は竜胆が幸せになる事だけを願わなきゃ。
「なんで無視すんの。聞いてよ。兄ちゃん」
未練無く死ねるように完全に嫌われよう。
もう十分すぎるくらいだろうけど。
その方が竜胆だって罪悪感とか何も感じなくて済むはずだから。
「蘭…?」
「なに?三途」
「は?」
「おい蘭…竜胆が…」
「…何?」
「え…」
「何つってんの。早く答えろよ。」
ごめんね。本当はもっと、竜胆がしてくれたみたいに優しく話したいのに。
「蘭、どうしちまったんだよ…?」
「に、いちゃ…」
「その呼び方辞めてくんね?」
嬉しいのになぁ…
「なん、で…」
「俺お前の兄貴じゃねぇから。」
「は…ウソ、でしょ…?ねぇ、なんでそんなこと言うの…あやま、ったじゃん…」
ごめんね。ごめんなさい。竜胆は何も悪くないんだよ。こんな最低な俺のことなんて忘れてね。
「…出てけ」
「は…?」
そばにいたい。近くで、もっと…
「出てけって言ってんの。」
「待てよ…なんで…兄ちゃん…?」
竜胆と一緒にいたい。
「出てけ!!」
「ッ…」
大好きなのに。
なんでだろ。なんかイライラする…?
「蘭…お前どうしたんだよ…」
「何が」
「竜胆に…俺達と話す時より冷てえっつーか…」
竜胆…俺やっぱ冷たかったかな。
「…」
「確かに今回は竜胆が悪ぃけどさ…アイツはアイツなりにお前のことすっげぇ心配してて…」
「竜胆がお前のこと誰よりも大切にしてるの分かんだろ…?今回だってそれが原因の一つでもあると思うし…」
「それに竜胆はお前が寝てる間何日も寝ずにお前が目覚ますの待ってたんだよ…」
「お前が首吊ったって知った時竜胆ずっと泣いて謝ってて…」
なんて、ずっと竜胆の話を聞かされた。
正直嫌だった。嫌でしかなかった。
俺だけが悪いみたい。何も知らないくせに。
違う。俺だけが悪いんだ。そうだ。
あれ…?本当はどっちだったっけ…
ダメだ。もう何もわかんないや…
モヤモヤが消えてくれない。
考えが上手くまとまらない。
よく分からないけど、なんか、嫌だ。
「…出てって」
「は…?」
「うるさい。竜胆竜胆って。」
あれ…?俺、何言ってんだろ…
「蘭…なんで…」
竜胆は…三途達は何も悪くないのに…
「出てって!」
「…ッ、また後で来るからな」
最低、だ…
俺…どうしちゃったの…?
竜胆は…竜胆、は…
__お前のことすっげぇ心配してて…
__お前のこと誰よりも大切にしてるの分かんだろ…?
__何日も寝ずにお前が目覚ますの待ってたんだよ…
__竜胆ずっと泣いて謝ってて…
「…」
心配?
どこが?
心配してたらあんなに怒鳴らないでしょ。
みんな竜胆のことばっかで俺の心配なんてしてないようなもんじゃん。
別に今更心配して欲しいとか無いけど。
“誰よりも大切にしてた”?
大切にしてたら腹目掛けて洗剤投げたりしないでしょ。
家に何日も放置したりもしない。
“何日も寝ずに”?
俺だって毎日まともに寝れなかったけど誰も何も言わなかったじゃん。
“ずっと泣いて謝ってた”?
俺だって毎日そうだよ。でもそれを気に留める人なんて誰一人いないでしょ?
みんな人で選んでるじゃん。当たり前かもしれないけどさ。
“竜胆だから”、そうやって行動一つ一つをいちいち気にしてマウントとるみたいに俺に話してくるんでしょ?
面倒だよ。そういうの。
いいなぁ。必要とされる人って。
俺なんて、必要とされるどころか邪魔者扱いされてるのに。
こんなこと考えてたって虚しくなるだけだ。
このまま生きてたって何にもならないし、誰にも必要とされないし、入院代が無駄になるだけだよね。
だったら今すぐにでも死ななきゃ。
もうみんな帰っただろうし屋上行けば飛べるハズ。
…てか、なんで俺みんなが悪いみたいに考えてんの…?
誰も何も悪くない。俺だけが悪いのに。
寝れなくても、泣いてても、誰も何も言わなかったのは、気に留めもしなかったのは、全部俺が見せないように隠してたからじゃん。
なのに勝手に三途達が贔屓してるみたいに考えて、悪者にして…
“人で選んでる”って…
こんな俺なんかにわざわざ構ってくれてるのになんでワガママ言ってんの…
必要とされないのだって、全部自分が悪いのに…
邪魔者扱いされたのだって、元はと言えば信頼を得られなかった自分が悪いし、そもそも俺は存在が邪魔なんだから仕方ないし…
…やっぱり悪いのは全部俺じゃん。
それなのにみんなを悪者にしちゃった…
最低だ。死ねばいいのに。
早く死ね。こんな俺は早く消えちゃえ。
早く飛び降りて、早く竜胆を幸せにしなきゃ。
…でも、竜胆に酷いこと言っちゃったし死ぬ前にちゃんと謝りたいな…
勝手に悪者にしちゃったんだし、三途とココにも謝りたい…けど…
話しかけただけで怒鳴られたらどうしよう。
いや、最期だし怒鳴られたって我慢しよう。
今まで我慢できてたし大丈夫だよね。
竜胆どこにいるか分からないけど頑張って探そう。
ずっと胸が苦しい。
呼吸もしずらいし頭ガンガンする。
壁に手ついて歩かないと上手く歩けない。
点滴無理やり抜いたから地味に痛いし…
竜胆どこにいるのかな…
俺があんなこと言っちゃったから病院内にはいないだろうなぁ…
この状態で外出れるかな…
三途達には迷惑かけられないし、でも1人じゃ絶対見つけられない…
「ッ…はっ…はぁ…ッ、」
苦しい。立っていられない。
でも、急いで探さなきゃ…
「え、兄ちゃん?!」
「え…?」
竜胆…?なんでここにいんの…?
帰ったハズなのに…
「なんでこんなとこいんの?!ダメだよ安静にしてなきゃ…大丈夫?どっか痛む?」
なんで優しくすんの…
期待しちゃうから優しくしないでよ
「とりあえず病室戻ろ?俺おぶってくから」
「いい…」
「なんで?兄ちゃん歩けないでしょ」
「いいってば…」
これ以上迷惑かけたくないの。
死ぬ前くらいは少しでも好きって思ってもらいたいの。
さっきまで嫌われようって必死だったのに、俺何がしたいんだろ…
矛盾ばっかしてる…
「いいから。」
「…重いでしょ」
「は?軽すぎるくらいなんだけど…」
兄ちゃんなのに…ほんとダッサ…
「兄ちゃんなんであんなとこいたの?どっか行こうとしてた?」
ていうかなんで俺あんなこと言ったのに普通に喋ってくれんの。
また何かしようとしてるの…?
怖い。イヤだ。
「兄ちゃん?」
「ぁ…ごめ、…」
「兄ちゃん?なんで謝んの?」
「ごめ、なさ…ッ、」
また震えが止まらなくなってきた。
怖い。怖い。怖い。
「…大丈夫だよ、兄ちゃん。ごめんね。もう少しだから」
なんでこんなに優しくしてくれんの…?
今だって迷惑かけてんのに。
ちゃんと謝んなきゃいけないのに。
声も出ない。
「兄ちゃん、着いたよ。寝かせるからね。」
竜胆の熱を感じていられる時は本当に幸せなのに。
それすらも怖いって感じちゃう俺はやっぱり最低だな。
「兄ちゃん」
謝れ。謝れ謝れ謝れ。
「ごめん、なさい…」
「…さっきからなんで俺に謝ってんの?兄ちゃん何も悪くないよ。」
「俺、が、竜胆に酷いこと言っちゃった、から…」
「…そんなの、俺の方がいっぱい兄ちゃんのこと傷付けちゃったんだから気にしなくていいよ」
そんなの、俺は嫌われる人間なんだしいいの。
でも竜胆は違うでしょ。
俺なんかが好き勝手言っていい人じゃない
「…それに、迷惑、かけちゃったし…」
「迷惑?なにが?」
「ここまで運ばせちゃった、り…家事とか、も…できないし…」
「そんなこと気にしなくていいんだよ?…って、全部俺のせいだよね。俺が兄ちゃんのこと傷付けちゃったから余計気になっちゃうんだよね…ごめんね…」
「ッ…」
なんで竜胆に謝らせてんだよ。お前が謝れよ。
俺が全部悪いんだから。竜胆は何も悪くない。
「ちょっとだけ、ここにいてもいい?」
「う、ん…」
「ありがとう」
…今の竜胆は凄く優しくて俺のこと好きでいてくれた時と同じ喋り方をする…
でも…それでもまだ怖いのはなんで…?
優しくしてくれるから好きってわけでは無いことくらい分かってるけど、やっぱり少し期待しちゃうの。
そんなの、自分が後で辛くなるだけなのに。
「俺と話してくれる?」
そんな優しい声で話しかけないで。
「う、うん…」
「ほんと?!ありがとう…!」
そんな優しい目で俺を見ないで。
「本当にごめんね…俺今まで兄ちゃんのこと本当に傷付けた。兄ちゃんは俺なんかの言葉では傷付かないって、勝手に思い込んでた。」
謝らないで。きっとまた時間が経てば俺のこといっぱい罵るんでしょ?
「なんで兄ちゃんのこと信じてあげられなかったのかなって、今でも後悔してる。兄ちゃんが生きててくれて本当に良かった。ありがとう」
嘘つかないでよ。どうせ死ねばよかったのにって思ってるんでしょ?信じてくれなかったのだって、俺は信頼できないからなんでしょ?
「ある日から兄ちゃんが俺の言葉に従順になってってさ、最初はただ試してただけだったの。でもそのうち普段なら絶対言い返してくるのを言い返してこなくなった兄ちゃんにさ、…優越感、感じちゃったの。ホントに最低だよな、俺。ごめん…」
“優越感”…
確かにそう言ったら聞こえだけはいいのかも。
でも実際はきっと違う。
今まで我慢してたんでしょ?
俺への不満も怒りも全部。だから何を言ったって言い返せない俺を見て、嬉しかったんでしょ。
「兄ちゃんに言ったこと全部嘘だから…本当はあんなこと思ってないの。信じて…」
どうせもう死ぬんだし嘘でもなんでもいいよ。
「ねぇ、大好き。世界で1番愛してる。兄ちゃん以外何もいらない。嘘じゃないよ。」
…これが本当に嘘じゃなかったら良かったのに。
「そういえば兄ちゃん、さっきなんであんなとこにいたの?」
少しくらいちゃんと喋んなきゃだよね。
正直に話しちゃってもいいかな…
いっか。俺のことなんかどうでもいいだろうし。
「…死ぬ前に、ちゃんと竜胆に謝らなきゃって思って、竜胆のこと探してた」
「は…?ちょっとまって、にいちゃ…」
最期に気持ち伝えるくらいは許して欲しいな…
「最期だけでも優しくしてくれてありがとう。ずっと大好きだよ。今までごめんね。弟になってくれてありがとう。幸せになってね。」
あれ…?頭がなんか…ふわふわしてる…?
いいや、屋上行こう。
「まって!」
「わっ…」
「行かせねぇから…絶対」
「…痛いよ、竜胆」
竜胆に腕握られたのいつぶりかなぁ…
力強い…抜けない…
…やっぱり調子おかしい…
呼吸が少し荒くなってきた気がする…?
「絶対死なせないから。兄ちゃんが死ぬなら俺も死ぬ。」
「…竜胆が望んだ事だよ」
「は…?何、言ってんの」
震え、止まんない…
涙出そう…
怖い…怖い…?怖い、竜胆が。
「竜胆が、竜胆が俺のこと、しねば、いい、って…」
「ンなこと言うわけねぇだろ?!」
「あ、あ”ぁ、ごめ、なさい”!!ごめんなさい!ごめんなさい!あ”…あ、おれ、…あ”…」
「兄ちゃん!ごめん、怒鳴っちゃってごめんね…兄ちゃん、兄ちゃん…」
「やだ、やだ!!こないで!!やだよ…やだ、ごめんなさい…ごめんなさい…」
「兄ちゃん…!ごめんね、ごめん…お願い、俺の事ちゃんと見て…」
「あ”ぁぁぁあ!!しぬ、しぬから!!だから…ッも、きらわないで…」
「ダメだよ…兄ちゃん!」
「竜胆!!」
「三途…それにココも…」
「しぬからぁぁぁ!!ちゃん、と…あ”ぁ…も、やだ…ッ、やだ…こわい、こわい…きらわないでよ…!!あやまるからぁ…」
「は…?おい、蘭!竜胆、これ…」
「あ”…ひゅ…ッ」
「何があった?!」
「俺が…怒鳴っちゃっ、て…」
「はひゅ…ッ、あ”、う…こひゅッ、ひゅッ…」
「蘭、蘭!!ゆっくりだ、ゆっくりでいい、深呼吸しろ…」
「竜胆は状況説明頼むな…」
「兄ちゃん、が、死のうとしてたみたい、で…絶対ダメって言ったら…『竜胆が望んだ事だよ』って、言うから…」
「うん、…」
「怒鳴っ、ちゃっ、て…」
「蘭!大丈夫だ…!」
「そしたら、急に…パニック起こしちゃって…」
「なるほどな…状況は分かった。ありがとうな…」
「あ”…」
「なんとか治まったっぽい。」
「良かった…けどよォ、ナースコール押した方が良かったんじゃねぇ?」
「余計パニくるかもだろ。」
「それもそうか」
「あ”…やだ…や…」
「兄ちゃん…ごめんなさい…」
「りん…ごめ、…」
「謝んないで…俺が…俺が悪いんだよ…?」
「ごめん、なさぃ…俺がいなければ…良かったのに…」
「そんなことない!!」
「はひゅ…」
「蘭。」
「あぅ…?あ…」
「大丈夫。蘭も竜胆も悪くねぇから。」
「違う…!俺が悪いの!俺だけが全部悪いの!」
「竜胆。」
「なんで…」
「蘭、お前もだ。お前も何も悪くねぇ。」
「や、…やだ…」
「何が嫌なんだ?」
「りんど、が…やさしくしてくる、の…こわい…」
「は…」
「なんで怖いの?」
「だっ、て…りんど、は…俺のこときらい、で…しんでほしいって、おもってて…」
「そんなわけ無い…!」
「竜胆。」
「なんでそう思う?」
「わかる、もん…」
「蘭のこと嫌いだって言ってたの?」
「…さっ、き、いっ、た…」
「蘭のこと死んで欲しいって言ってたの?」
「…うん」
「は…?」
「…それは聞き間違いとかじゃねぇの?」
「いってた、もん…」
「…いつ?」
「まえ、だけど、だれかとふたりで…ぅ…」
「…とりあえず寝てな。また後で来るからさ。」
「…」
「大丈夫だって。隈も酷いしいっぱい寝て疲れとっちまおう!」
「…うん」
「兄ちゃん、俺隣にいちゃダメ…?」
「あ…え、ぅ…」
「蘭、お前は竜胆のこと嫌いなの?」
「ちが…!」
「じゃあ好き?」
「ぁ…言った、ら…いやな思いする…」
「なんで?」
「だっ、て…おれのこと、きらい…だから…」
「…」
「竜胆、」
「兄ちゃん…俺、ホントに兄ちゃんのこと大好きなんだよ…信じて…」
「うそ、までつかせちゃっ、てて…めいわく、だから…」
「そんなことない!嘘じゃない!」
「じゃあ質問変えよう」
「竜胆は1回俺と外出てような」
「お前自身は竜胆のことどう思ってんの、竜胆が嫌な思いするとか全部1回忘れて。お前の気持ち聞かせて」
「…だい、すき…」
「…その思いさ、竜胆に伝えてみねぇ?」
「ダメ、だよ…」
「…分かった。じゃあ最後の質問な。竜胆がお前の隣にいてもいい?」
「え…、?」
「お前が寝て起きた時に、隣に竜胆がいたらイヤ?」
「…イヤ、ではない…けど…」
「けど?」
「めいわく…じゃん」
「なんで」
「おれのために時間使いたくないって、言ってた、…」
「…」
「これ以上、めいわくかけちゃダメ…」
「きらわれたくない…」
「少しでも好かれてから死にたいの…」
「蘭、竜胆が自分からお前の隣にいたいって言ったんだよ。」
「でも…」
「竜胆が望んだことだ。でもだからといって無理にそれを聞けとは言わない。お前が隣にいて欲しくないって言うなら竜胆は隣に来ないし、いて欲しいって言えば竜胆はここに来る。お前はどうしたい?」
「…きて、ほし…い…」
「…頑張ったな。じゃああとは寝ててもいいぞ。話してくれてありがとうな。」
「う、ん…」
「兄ちゃん…!!」
「ひゅっ…」
「あ、ごめんね…大丈夫だよ。何もしないよ…」
「あ、…ごめ、なさ…」
「大丈夫、大丈夫…」
「無理、させてごめんなさい…」
「え?俺が?なんのこと…?」
「俺が、来て欲しいなんて言わなければ…竜胆はわざわざ来なくて済んだのに…」
「俺が望んだことだよ。なんで兄ちゃんはすぐ自分が悪いって思うの…」
「…」
「兄ちゃん。好きだよ。大好きだよ。」
「…うそ、いらないよ」
「嘘じゃない。どうしたら信じてくれる?」
「…わかん、ない…」
「…兄ちゃん、眠いなら寝ていいよ?」
「ぅ、…」
「寝んのはや…変わんないな…」
蘭が眠りについて数十分。
飲み物を買いに5分程蘭を病室に1人にした。
蘭が起きてしまわぬよう、極力物音は立てずに出たつもりだったのだが、竜胆が戻ってきた頃には蘭が起きてしまっていたようだ。
ドアの隙間から少し覗いただけなので表情まではよく見ていなかったのだが、耳を澄ましてみると少しだけ荒い呼吸が聞こえた気がした。
もう一度よく蘭の表情を見てみると、目からは雫のようなものが落ちていて、それが涙だと理解するのに数秒かかった。
17年間共に時間を過ごしてきた中で2度見たことがあるかないかの蘭の涙に、竜胆は思わず息を呑んだ。
蘭を1人にした たった5分の間に何かあったのだろうか。
まだこちらには気付いていない。
話しかければきっと蘭は涙を拭って誤魔化すだろう。
恐らく話もしてくれない。
でも何とかして蘭の力になりたい。
そんな思いでいっぱいだった。
だからこそ竜胆は、できるだけ静かに扉を開き、ゆっくりと蘭の元へ近付いた。
蘭は予想通り腕で顔を覆おうとしたが、その腕を優しく掴んで止めた。
「りん、はなして…」
「離さない。」
「なんで…」
「大丈夫だよ。ね、大丈夫」
できるだけ安心させてやりたい。
怖がらないで欲しい。
頼って欲しい。
掴んでいた腕を離し、そのまま蘭を抱きしめた。
「りん…」
「ごめんね。どうしたの?何かあった?」
「なんも、ない…」
「隠さないで。ちゃんと頼ってよ。皆には隠してもいいから、せめて俺にだけは話して?」
「…っ、ダメだよ…やだ…」
「ゆっくりでいいよ。話せる時に話して?ね、」
「…ごめ、」
「謝んない。謝んないで?俺謝って欲しくない。どうせなら好きって言って欲しい。」
「…ぁ、すき…」
「ほんと?」
「ぅ、うん…」
「無理しないでね?」
「…」
最後の返答がなかったのは、無理をしないということが出来ないという意味だろう。
ならば無理をさせないようにしなければ。
包んでいる蘭の体はまだ微かに震えていて、どれほど自分が蘭を苦しめていたのかが伝わった。
もしかして、蘭は自分の事を嫌っているのではなかろうか。
もしそうだとしたら、今この瞬間無理をさせてしまっていることになる。
焦って蘭の表情を見てみると、蘭は少し安心したような、嬉しそうな顔をしていた。
「兄ちゃん、俺の事好き?」
「ぇ…あ…」
「…」
「えと…」
また蘭の体が震え出した。
なんで?
今の問いかけは特に何も問題ないと思うのだが…
喋り方も表情も気を使っているつもりだし、腕の力も強すぎないように調整している。
「兄ちゃん?俺なんかしちゃった?」
分からないなら聞くしかない。
少しでも蘭の口から思いを吐き出してもらいたい。
「ちが…ごめんなさい…」
どうやら蘭は謝り癖がついてしまったようだ。
自分のせいなのだろうが、悲しい。
何とかして前の蘭のように笑って欲しい。
「なんで謝んの?大丈夫だって。俺の事嫌いなら嫌いでいいんだよ?兄ちゃんの気持ちが知りたい。」
「嫌いじゃない…!!」
久しぶりに蘭がいい意味で必死な表情で訴える姿を見た気がした。
そんな姿があまりに可愛くて、つい笑ってしまった。
「…ふはっ、」
「なに…?」
「可愛いね。そんなに必死な顔してくれんの。嬉しい。ありがとう。」
「…??」
「じゃあさ、俺の事好き?」
「…イヤな思い、しない…?」
「しないよ。兄ちゃんの思いは全部受け止めるよ。兄ちゃんが傷付くのは認めないけど。」
「…好き。大好き…」
「…」
「りん、ど…?」
「…にい、ちゃ…」
「え…りんど…?泣いてる…?大丈夫…?」
「ごめ、嬉しくて…」
「嬉しいの…?」
「ん”…すっげぇ嬉しいよ…大好きな人に大好きって言ってもらったんだもん。幸せだよ。」
「”幸せ”…?竜胆幸せなの…?」
「うん、兄ちゃんといられればずーっと幸せだよ」
「…竜胆は」
「ん?」
「竜胆の幸せは…俺が死ぬことじゃないの…?」
「…何言ってんの?」
「…前、言ってた、から…」
「俺が?」
「うん…」
「…いつ?誰かと一緒にいた?」
「いつかは覚えてない、けど…家で、多分天竺の幹部の誰かと…」
「家で?天竺の幹部と?…いつだそれ…」
「…ウザイって、早く追い出したいって、大っ嫌いだって、言ってた…」
「あ…それってもしかして…」
「ひゅ…っ、かひゅ…」
「兄ちゃん…?!」
「はひゅ…ひゅ…っ、あ…」
「なんで急に…ゆっくり息吸って、吐いて…」
「かひゅ…、でてって…ひゅ…」
「こんな状態で放っておくワケないでしょ!」
「ひゅっ…いい、から…かひゅ…」
「なんで!?いいからじゃない!兄ちゃんが大切なんだよ!」
「ひゅ…っ、ヤダ…っ、やだぁ…」
「…泣きたいなら泣いていいんだよ?」
「や”…引かれたく、ない…」
「あ、治まってきたね…良かった…」
「ひゅー…ひゅー…」
「よしよし、大丈夫だよ…」
「やだ…引かない、で…嫌いにならないで…」
「絶対引かないし嫌いになんてならないよ。信じて?兄ちゃんのこと大好きだよ。泣きたい時は泣いたっていいし、怖かったら助け求めていいんだよ。」
「…嘘じゃない…?期待してもいいの…?裏切らない…?」
「嘘じゃないよ。約束。」
「…やく、そく…」
「それとさ、さっき兄ちゃんが話してくれたことね、全部兄ちゃんの事じゃないよ」
「ウソ、だ…」
「ウソじゃない。酒飲んでた時だよね?」
「うん…」
「まずそもそも死んで欲しいなんて思わないし、そんなこと思ってるヤツいたら俺が殺す。俺は兄ちゃんが大好きだし天竺のヤツらも皆兄ちゃんのこと大事に思ってる。だから追い出そうなんて思わないよ。」
「でも…」
「あれね、モブの話してたの。兄ちゃん知ってるかなぁ…ちょっと前に天竺入ってきたヤツなんだけどね、すっげぇウザイの。ソイツの話だよ。ごめんね、勘違いさせちゃって。」
「…ご飯余るのも、俺が弱いのもヤダって、迷惑だって言ってた…」
「…」
「できるだけ喋りたくないって、ウザイって…」
「…ごめん。ごめんね。辛い思いさせてごめん。あんなの嘘だよ。ごめんね…ほんとにごめん…」
「…やっぱり俺の事嫌い、じゃん…竜胆、やだ…」
「違う、違うの。兄ちゃん…!」
「ウソ、つかなくていいんだって言ってるじゃん…あの時の言葉は全部、竜胆の本音でしょ…?ならもうウソつかなくていいよ…1人にして…」
「兄ちゃん、違う、お願い俺の話聞いて?」
「…」
「兄ちゃん!」
「あっち行って!」
「にい、ちゃん…」
「…」
「…また後で来るね…」
「…」
せっかく兄ちゃんの心開けてきたのに…
ほんと、なんであんなこと言っちゃったのかなぁ…
兄ちゃん、相当辛かったんだろうな…
泣きそうだったから、多分見られたくなくて追い出したんだろうな。
今頃また泣いてるのかな…
笑って欲しいなぁ…
どうしたらいいんだろう。
過去に俺が兄ちゃんに放った言葉はもう変えられないし、兄ちゃんの頭から消えることもない。
タイムリーパーならこんな時簡単に過去を上書きできるのに…
上書き…
今兄ちゃんの中にある記憶を上書きできるくらい思いを伝えれば、少しは変わるかな…
「できることは何でもしよう…」
前に取り巻きの1人が記憶消すクスリ手に入れたとか何とか言ってたけど、それで俺の事丸々忘れちゃったらおしまいだしな…
それに危険ドラッグの可能性大だし…
攻めあるのみ、だな。
「兄ちゃん…入っていい…?」
「________」
「…?誰かいるのかな…」
隙間から中を覗いて見たが、誰かがいる気配はなかった。
「独り言か…?」
先程と同様に静かに扉を開き、中へ入った。
どうやら蘭は寝てしまったようで、聞こえてきた声は寝言だとわかった。
蘭に近付くと、衝撃的なものが竜胆の目に映った。
「兄ちゃん…?」
“赤”
ベッドシーツに広がる赤。
それと同じものが、眠る蘭のはだけた腕からも溢れていた。
赤の正体は紛れもなく蘭自身の”血”だと分かった。
赤に塗れた蘭の腕には、以前目にした時とは比べ物にならない程の傷があった。
それは恐らく以前の2倍…いや、3倍以上だろうか。
とにかく腕全体が傷で覆われてしまっていた。
幸いにも、過去の傷は薄くなってきていてほぼ消えている状態のものもあるので、もしかしたら残らないでいてくれる傷が多いかもしれない。
「兄ちゃん…っ、なんで…ごめんね…俺のせいでこんな…っ、」
謝って許して貰えるならいくらでも謝る。
しかし、この傷が消えずに跡として残ってしまえば、どう責任を取ればいいのか分からない。
仮に傷が綺麗に消えたとて、蘭の心の傷が治らなければ意味が無い。
1度見過ごしてしまったものがここまで大きくなってしまうなんて考えもしなかった。
あの時必死になって止めていれば良かった。
後悔したって過去は変えられない。
三途の言う通りだ。
過去が変えられないならせめて今を変えたい。
蘭が泣かずに笑っていてくれる今にしたい。
「…ひっ…」
「兄ちゃん…!」
「調子のって、ごめんなさい…!!」
「兄ちゃん…謝んないで…」
「嘘までつかせちゃって、好きだとか、可愛いとか言わせちゃって…」
「嘘じゃないよ…ねぇ、お願い…兄ちゃん…」
「…?!なん、で泣くの…また…俺のせいで…?」
「信じてよぉ…俺、ホントに兄ちゃんだけが大好きで…っ、ずっとずっと一緒にいたいんだよ…」
「泣かないでよ…俺なんかのために泣かないで…」
「迷惑なことなんてなんも無いよ…俺が強がってあんな嘘ついたから兄ちゃんを苦しめちゃったんだよね…ごめんね…ごめん…」
「顔上げてよ…」
「兄ちゃんのこと何も分かってあげれなくてごめん…傷付けてばっかでごめん…腕も、こんなになるまで我慢させて…ごめん…っ」
「…もう、いいってば…やめてよ…」
「兄ちゃん…」
「嘘つかないでって、何回も何回も言ってるのに…もう許してよ…全部俺が悪いんでしょ…?俺がいなくなれば全部解決なんでしょ…?だから…」
「やめてよ。そんな事言わないで。そんなこと考えないで。俺は嘘なんてついてないよ。俺がついた嘘は兄ちゃんを傷付けた言葉だけだよ。」
「…」
「…1回ベッドシーツ替えてもらおうか。」
「…」
それからベッドシーツを替えてもらうためにナースコールで看護師を呼び、シーツに広がる血を見て腕の手当をした方がいいと言われた。
蘭は珍しく素直に看護師に連れられて医者の元へ向かったが、それは恐らく竜胆から離れるためだろう。
蘭が手当してもらっている間に三途達と話をした。
【あとがき】
あんまり伸びなくなってちょっとだけ悲しい今日この頃。
普通に馬鹿な過去の私は1作品いいね5000以下は消そうかなとか考えてました❕
年末だし作品一気に消そうかな…
明日5・6話(最終回)あげます👍🏻
質問なんですけどフォロワーの皆さんって他の界隈何推してるんですかね…
別垢作った時相互さんお迎え行くか悩み中
ばいばい!
コメント
8件
泣きすぎて鼻水やばいよ〜😭😭最高😭
わー最高👍🏻👍🏻 蘭の可愛さが異次元すぎる。すきです🫶🏻🩷 別垢作ったら迎えに来てくれると嬉しいです🥹‼️
いつも素敵な作品ありがとうございます🥰 今回も最高でした!