テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
735
15,996
翌朝、起きた時には、もう元貴の姿はなかった。
綺麗にベッドに寝かされていて、ただ、布団はかけられていなかった。
俺は寝てしまったんだということを理解したし、思い出すのに記憶をなぞる必要性がある程度には記憶が飛んでいた。
だが、キスしてしまったということ、そしてその感触だけは嫌に脳にこびりついたように記憶されていた。
やってしまったというとんでもない焦りと、何故してしまったんだという戸惑いと、それをどこかでかつてから予期していた冷静な自分と、そんなわけが無いと否定したい自分と、持て余した熱感だけが確かにそこにあって、どうしようもなくてまずは水を飲んだ。
部屋を見渡すと、テレビ画面は付けっぱなしだった。
いつもは俺が酔い潰れた後部屋は誰か、涼ちゃんか元貴か、最後に部屋に残ったいたどちらかが片付けてくれているのだが、荒れたまま、綺麗に残っていた。
唇の感触を思い出しながら、カーテンの隙間から差す朝日をぼんやりと眺める。
俺はどうしてしまったんだろう、元貴のことをそんな目で見ていたんだろうか?と困惑の中で記憶を辿っているといつの間にか勃っていた。
どうしようもなかった。
昨日の、荒れたままの部屋なことが余計に、昨日の記憶を鮮明に思い出された。
元貴と最後どうしたのかは、思い出せないのだが、ただとにかく、元貴のキスの時の漏れ出た声と、その反抗的な目と、それでいて非反抗的な握られた右手の記憶を思い出して、言いようがない程の性欲を覚えた。
「ん、」
徐にジーンズのチャックに手をかけ、膨張したそれを解放する。
その時ようやく、自分がまだお風呂にも入っておらず、昨日の服のままだったことを知る。
そんなことにも気にも止められないくらい、その欲は強くなっていて、ドーパミンなのか、無性に攻撃的な気持ちのような、荒々しい気持ちになり、乱暴に服を脱ぎ捨てる。
元貴の唾液で濡れた唇と、少し訝しげに顰められた眉と、でも溶けたような瞳を思い出す。
焦燥感にも近い何かを覚えて、先がすでに湿ったそれに握力を込め、無心で動かす。
「はっ、っ、….」
少しのけ反った首元。
ゲームの蛍光色の光に照らされて濡れた口元が嫌に目立っていた。
あんな声出すんだ。
あんな唇柔らかいんだ。
あの口で舐められたら。
もっとあの時、ああできたら。
いつの間にか脳内には恐れも不安もなくなって、猛烈に乱暴で自己中心的な妄想で埋め尽くされる。
元貴、元貴、元貴。
「ん、はっ、うっ….もとき….」
手を動かすスピードが速くなって、大きくストロークをかける。
親指のあたりに握力を込めると、先の辺りで引っかかるたびに腰の辺りに震えるような快感が広がって、前屈みになる。
自分が、その名前を呼びながら、こんなことをしている、という、状況への背徳感が、罪悪感が、謂れもない焦燥感と興奮に繋がって、天を仰ぐ。
「あ、」
元貴の声が脳に響いたような気がした。
甘くて、少し高くて、吐息の含んだ、その、
「っ……」
気がついたら手が汚れていた。
射精したと気がついて、手を見ると、唐突に猛烈な不安感と恐怖心が襲ってきて、勢いよく立ち上がると、洗面所に駆け込んだ。
頭の中がぐるぐるしていて、ザー、と、水の流れる音だけが鮮明で、気がつけば何分も手を水に晒していた。
衝撃的だった。
自分の今までの凡ゆる感情の答えを突きつけられてしまった気がして、それに目を背けていたはずなのに、無意識が意識化された恐怖心が全身を襲った。
そして、自分の射精量を思い出して、昨晩は出してないようだ、と計算してしまって少しだけ安心する自分もいた。
自分は何故どうしてあんなことを言って、あんなことをして、今こんなことになってるのか、自分が一番分からなかった。
何よりも自分の状況に呆然としていたのも束の間、元貴から何か恐ろしい連絡が入っているのではないかと今度は大慌てでスマホに掛けより、確認した。
元貴からの通知は何もなかった。
救いでもあり、呪いでもあった。
涼ちゃんからの、昨日はありがとうー!楽しかったね、といった可愛らしい文面と、インコのイラストのスタンプだけが新しい通知で、あとは仕事の連絡だけだった。
元貴は普段俺の家に来た後は必ず連絡をくれるのに、という事実が脳を掠めて、胃のあたりが苦しくなるのを感じた。
吐きそうだ、と思い、トイレに駆け込むが、それが、酒のせいなのかなんなのかは、わからないままだった。
コメント
1件
うわ、これ……読んでてこっちまで息苦しくなったわ。酔った勢いで親友にキスしちゃった翌朝の、あの頭ん中ぐちゃぐちゃになる感じ、めちゃくちゃリアルだった。自分で処理しながら名前呼んじゃうとことか、終わった後の虚無感と恐怖とか、もう「やってしまった……」って気持ちがひしひし伝わってきた。元貴からの連絡がなくて、涼ちゃんからのスタンプだけ来てるギャップも刺さるわ。続きが気になる……!