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藤堂と藤井渚が対立して以来、教室の空気は常に張り詰めていた。藤堂は、伊織から一歩も離れず、藤井に敵意を向け続けていた。藤井もまた、藤堂の牽制を無視し、隙あらば伊織に話しかけ、彼を「藤堂の鎖」から解放しようと試みていた。伊織は、その二人の間で揺れ動き、精神的に疲弊していた。金曜日の放課後。伊織は、この日の図書室での待ち合わせを、藤堂に「課題が残っている」と嘘をついて断っていた。本当は、藤堂の激しい独占欲から、少しだけ解放されたいと思ったのだ。
伊織が、ため息をつきながら教室で一人で机に向かっていると、藤井がやってきた。
「伊織くん、まだ残ってたんだ」
「あ、藤井さん……うん、ちょっと」
伊織は、藤井のまっすぐな視線に、ドキリとした。
「あの、藤堂くんは?」
「部活だって。今日は早く帰るつもりだけど……」
藤井は、伊織の隣の机に軽く腰かけた。いつものようにクールな表情だが、その瞳には真剣な光が宿っている。
「伊織くん。少し、真面目な話をしていいかな」
「え、なに……?」
藤井は、周囲に誰もいないことを確認すると、伊織の手をそっと掴んだ。その指先は、ひんやりとしていて、藤堂の熱い手とは全く違う感触だった。
「伊織くん、君は藤堂くんと付き合ってるんだろ? 周りからそう聞くし、君たちを見ていればわかる」
伊織は、藤井のストレートな問いかけに、顔を赤くして頷いた。
「う、うん……」
「わかってる。でもね、私は最初から君に惹かれてた」
藤井は、伊織の瞳をじっと見つめ、ためらうことなく言葉を続けた。
「君は、とても繊細で、優しい光を持ってる。それを藤堂くんの激しい愛で閉じ込めてしまうのは、勿体ないって思うんだ」
「藤井さん……」
「私には、君が無理をしてるように見える。藤堂くんの独占欲に、疲れてるんじゃないか?」
図星を突かれ、伊織は言葉に詰まった。藤堂の愛は深いが、息苦しさを感じることもあったのは事実だ。
藤井は、伊織の手に力を込めた。
「私は、君を自由にしたい。君が君らしくいられるように、支えたい」
そして、藤井は深呼吸すると、伊織の心臓を射抜くように、はっきりと言い放った。
「伊織くん。君のことが好きだ。誰よりも、君を大切にする自信がある」
「私と付き合ってくれないか? 藤堂くんの隣じゃない、私と新しい世界を見てほしい」
伊織の脳内は、藤井の突然の告白で真っ白になった。藤井のクールな声、真っすぐな視線、そして「自由」という魅力的な言葉。伊織が一目惚れした相手からの告白は、彼の心を激しく揺さぶった。
(蓮とは、もう愛し合ってるのに……どうして、こんなに心が乱れるんだ?)
伊織は、藤井に掴まれた手が熱いのを感じながら、答えを探すことができなかった。藤堂の愛と、藤井の誘惑。二つの力が、伊織の心を激しく引っ張り合っていた。
「はい」