「シン…何も休みの日にまで店来なくていいんだぞ」
土曜日の昼。コインランドリーでシンは勉強をしていた。
「湊さんと一緒にいたいんです」
「店(ここ)に来なくたって、毎日夜飯一緒に食ってんだろ?」
「夜だけじゃなくて昼の湊さんとも一緒にいたいんです」
湊は呆れながら
「……好きにしろ」
そう言ってシンの後ろの椅子に座り漫画を手に取る。
シンのペンを走らせる音がする。
湊は漫画越しにシンの背中を見つめていた。
思い出したかのように
「湊さん。今日は和食、洋食、中華どれがいいですか?」
シンが聞いてくる。
振り向いたシンの顔を慌てて漫画で隠す。
「…今、俺の事見てたでしょ?」
「見てない…」
「背中にあんたの視線感じてましたけど」
「き…気のせいだろっ……」
「ふーん…」
シンは湊の顔をじっと見る。
「何見てんだよっ」
「今夜、湊さんの部屋泊まってもいいですか?」
「はっ?急に何言ってんだよ!だいたいな、お前ん家隣なんだから帰れよ!」
「友達なら部屋にお泊りくらいしますよ」
「だから…お前家は隣… 」
シンは立ち上がって、湊が持っている漫画を取り上げる。
「ねぇ…湊さん。本当にだめ?」
「…だから、いちいち顔近づけてくんなっ!部屋には入れない! 」
「…ケチ」
「ケチってなんだよっ!」
その時湊の携帯が鳴る。
「………!」
湊は携帯の画面を凝視したまま出ようとしない。
「出ないんですか?」
シンが聞くと、目を泳がせながら
「ま…間違え電話みたいだな……知らない番号だ…」
そう言って鳴ったままの携帯をしまう。
様子がおかしい事に気がついていたがシンは
「迷惑電話多いですからね…」
そう言って気がつかないふりをして勉強を再開する。
「……」
番号を見た時一瞬湊の顔から血の気が引くのをシンは見逃さなかった。
ピンポン…
今夜も湊の家のチャイムが鳴る。
「湊さん。お久しぶりです」
「ほんの2時間前まで一緒にいましたけどっ!」
「2時間も!ですよ!」
「まったく……面倒くさいイケメンだな…上がれよ。今日も一緒に食べるんだろ?」
「今日はやめておきます」
「はっ?」
シンは意地悪そうに笑うと
「部屋に入れてくれるなら一緒に食べます」
「しつけぇーぞ、シン!」
「見られたら困るもんでもあるんですか?」
「あるわけねぇーだろ!」
「そんなに慌てて否定しなくても…湊さん、かわいい…」
「っるーせぇ!お前今日は帰るんだろ。じゃあなっ!」
「嘘です湊さん!一緒に食べていいですか…?」
段差でシンは湊を見上げる。
「っ…お前…その顔でその表情は卑怯だぞ…」
「照れてる。笑」
「照れてねー!」
「かわいい…」
「お前!さっさと帰れ!」
「お邪魔しまーす!」
「おいっ!」
食卓にシンが作った料理が並ぶ。
「今日は中華です」
「いつもながらすっげーな…」
湊は春巻きに箸を伸ばす。
「うんっ!上手い!」
「……」
シンは頬杖をついてじっと湊を見ている。
「なんだよっ!」
「いつも思ってたんですけど…食べてる時の湊さん子供みたい。笑」
「アラサーに向かって子供とか言うな!」
「かわいいアラサーです。笑」
「本当にめんどくせぇな…お前は…」
「湊さん…」
「んっ?」
「昼間の電話の事なんですけど…」
湊はシンから視線を外した。
聞いてはいけない気がして
「着信拒否に設定した方がいいですよ」
シンは話を終わらせた。
「そう…だな…」
湊は何かを隠している。
わかっていても、それ以上追求する事はできなかった。
シンが帰った後、湊は携帯の着信履歴を見ていた。
「なんでバレてんだよ…」
地元(こっち)に帰る際に変えた携帯番号のはずだった。
見覚えのあるその番号は湊の記憶を蘇らせる。
それは、もう関わりたくない相手の携帯番号だった…
風呂上がり、片手にビールを持って湊は部屋に上がる。
ドアを開けると正面にシンの部屋が見える。
スタンドの灯りを付け床に座ると湊はシンの部屋を見ていた。
(あいつはあんなに頑張っているのに…)
視線の先には今夜も机に向うシンの影がカーテン越しに見えていた。
缶ビールを開け一口飲む。
(俺は何やってんだ……)
机に肘をつき頭を抱える。
LINEの通知音が鳴る。
『アラサーなんですからあんまり飲み過ぎないでください』
シンからだった。
顔を上げてシンの部屋に目をやると携帯片手にシンが湊の部屋を見て手を振っていた。
『今日は休みだからいいの!』
『あんたの店年中無休じゃねーのかよ』
『うるせーな。大人になると飲みたい時もあんだよ』
『心配です』
『なにが?』
『飲み過ぎてそのまま寝たら風邪ひきます』
『心配してくれてあんがと!』
『やっぱり今からそっち行きます!』
『だから、くんなって!』
『側に居て欲しくなったらいつでも呼んでください』
『はいよ』
『今日もたくさん湊さんに会えて良かった』
『そりゃどうも』
『明日も会いに行きます』
『はいはい』
『おやすみなさい』
『おやすみ』
シンはカーテンを閉め、また机に向った。
ビールを飲み干すと湊は引き出しから一通の手紙を取り出した。
たった一言しか書いていない手紙。
それは湊にとって、とても大切な手紙だった…
【あとがき】
明日、6.7話投稿します。
大事な回ですので続けてお楽しみください…
月乃水萌
コメント
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最高です👍 続き楽しみにしてます