家の鍵を開けていると声をかけられた。
「あれっ湊さん?」
「桜子ちゃん」
「お店に居たんじゃないんですか?」
「忘れ物しちゃって」
「シン兄さっき湊さんのお店行くって出かけて行きましたよ」
「また店で勉強すんのかよ…」
「湊さんに会いに行ったんですよ」
「毎晩一緒に飯食ってんのにな…笑」
「シン兄、湊さんの事好きみたいだから」
「…桜子ちゃん…えっと…」
「毎日料理張り切って作ってるし。時間があれば湊さんに会いに行くし。本当一途なんですよね~。水泳始めたのも湊さんが水泳好きだって言ったからだし」
「そんな理由で水泳始めたの?」
「母が言ってました。シン兄からお願い事されたのはそれが初めてだったって。あんまり自分からこうしたいって言わないんです。愚痴も言わないし、両親や私達の為に我慢ばっかりして…だからいつも家族の為に頑張ってくれて いるシン兄の事応援したいんです!」
「…いや…あの…」
「湊さん、シン兄の事よろしくお願いします!」
「ははは……」
湊は苦笑する。
湊は店に戻った。
「シン…?」
店に入ると、シンは台に突っ伏して眠っていた。
「毎晩遅くまで頑張ってるもんな…」
湊はシンを起こさないようにそっと奥のベンチに座る。
前屈みになってシンの顔を見つめる。
「寝顔は子供だな…」
そう呟きながら、幼い頃のシンを思い出していた。
あの頃のシンの笑顔は今でも鮮明に思い出せる。
曇りのない瞳で自分を見ては笑顔をくれたシンに何度救われたのだろうか…
「大きくなったな…」
まさか自分に好意を抱くとはあの頃は思いもしなかったが…
ただ、仲の良いお隣のお兄ちゃんで良かったのに…
「んっ…」
シンが目を覚まし湊を見つける。
「あれ湊さん…戻ってきてたんですね…」
「起きたか?」
「すみません。いつの間にか寝てしまって…」
「涎、垂らしてたぞ…」
「えっ!」
「嘘だよ~!」
「もぅ…笑」
湊は立ち上がると
「俺、事務処理あっから隣に居るけど」
「わかりました」
湊は立ち上がると、ふらついて咄嗟に棚に手をつく。
「いっ…」
角で指を切ってしまう。
「大丈夫ですか!」
指先から血が滲んでいる。
湊は指を口に当て傷口を舐め噛む。
「やべっ止まんねぇ…」
「手、かして」
湊の手を掴むと切った指を口にふくむ。
「…お…ぃ」
傷口を舌で舐められる。
「…っ」
「……」
「…なにしてんだよ!」
湊は慌てて手を引っ込める。
シンは唇を舐めると
「間接キス…ですね…」
にこっと笑う。
「あ……あほかっ」
シンはゆっくり瞬きをし目を細めながら湊を見る。
「もう少し落ち着けよ…」
その大人びたシンの表情に湊はドキッとして顔が赤くなる。
「……うるせ…ぇ」
鼓動が早く波打つ。
聞こえてしまいそうなくらいに大きな音で…
指先に残る舐めらた感触を打ち消すように手を強く握る。
(ふざけんなよ………クソガキ…)
店で勉強をしていると、話し声が聞こえてきた。
シンは声の聞こえる管理人室に向う。
「久しぶりだな。晃」
湊の前に立っていたのは見覚えのない男だった。
シンは管理人室の入口手前で止まって様子を伺っていた。
ドアが閉まっていて会話を聞き取ることは出来なかった。
「何しに来た」
湊の声はひどく冷たかった。
「連れないね〜元彼なのに」
机を挟んでお互いを睨んでいる。
「たった1回寝たぐらいで彼氏面してんじゃねーよ」
「より戻しにわざわざこんな所まで来てやったのに。その言い草はひどいな」
「はぁ?二度とテメェの面見たくねーから番号変えたのに勝手に調べたりしてんのはそっちだろっ!テメェとより戻すとかありえねぇーから!」
「最初に誘ってきたのはそっちじゃねーか。晃…」
「晃って呼ぶな!」
「ベッドの中でそう呼んでくれって言ったのはお前だろ?」
「……」
男は徐々に湊に近寄る。
「寂しい寂しい晃くん…」
「てっめぇ……!!」
湊が殴りかかろうてした時。
我慢できずにシンが入ってくる。
「シンっ!」
「今すぐ湊さんから離れろ!」
(聞かれたっ?!)
湊は動揺する。
「高校生?ガキはあっち行ってなさい。今、大人の会話してるから」
「聞こえなかったのか?今すぐその人から離れろって言ったんだよ!」
「晃、誰?」
「気やすく湊さんの事、晃って呼ぶな!!」
男はニヤッと笑うと、
「お前の新しいセフレ?にしてはずいぶん若すぎだな」
シンは男の腕を掴む。
「あんた最低な大人だな」
「腕。離してもらえるかな高校生」
「二度とこの人に近づかないと約束してくれたら離します」
「ケガしたくないだろ?」
「病院に行きたいんですか?俺が行かせてあげましょうか?」
シンは冷静な声で相手を睨む。
「お前頭おかしいのか?」
「おかしいのはあんたの方だろ!喧嘩売る相手間違ってますよ。俺、空手黒帯ですけど…続けますか」
シンは腕を掴む手に力を込める。
「チッ…」
男は舌打ちをする。
「これ以上居座るようなら警察呼びます」
男はシンの手を払い除けると去って行った。
湊は倒れ込むように椅子に座る。
「湊さん。大丈夫ですか?」
「お前、空手も習っていたのか?」
「習った事ないです。今のはハッタリです。俺が習っていたのは護身術です」
「どうして…」
「湊さん…?」
「ばかじゃねーの…あいつが殴りかかってきたらどうするつもりだったんだよっ!俺の事なんかほっといてくれれば…」
「ほっとけるわけねーだろ!」
「……」
「あんたが…好きな人が困っているのにほっとくなんてできねーよ!」
「お前は本当にばかだ…大ばかだ…俺なんかの為に…」
湊の身体が震えている。
恐怖からなのか、怒りからなのか …
シンは湊に近づきそっと優しく抱きしめる。
「俺の好きな人の事。なんか…なんて言わないでください…」
「……」
湊はシンの背中を強く抱きしめた。
コメント
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最高です 頑張って下さい