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案件型万屋
知る人ぞ知る所謂便利屋。本来万屋はジャンルにとらわれずなんでも売っているような店の事だが、案件型万屋はそれの案件バージョンだ。名の通り万、 つまりはどんな案件でも引き受けてくれる。しかも、 軍や警察の依頼を引き受けたりもする犯罪や面倒ごとに特化した普通じゃない便利屋だ。
ここ数年は普通の生活を送っていた田中 固真梨とはあまり関係ない店だった。
だが、「ここ数年は」と言うことはその前は普通じゃない生活を送っていたと言うことになる。今回この店に来たのはそれが理由だ。
佐原 希菜子
私が人造能力者にされてから初めてなった親友だった。そもそも人造能力者になる前から親友と呼べる存在が居たのかという事は別として。
家の無い固真梨に手料理を振る舞ったり毎日様子を見に来たりしている様は、親友というより親とか姉に近い存在なのかもしれない。
何はともあれ、固真梨にとって大事な存在だったのは確かだった。
三ヶ月前、その大切な存在が消えた。
今回はその希菜子の行方を調べに案件型万屋に訪ねに来た。
レンガの壁に丸い窓。赤い屋根には蔦が絡んでいる。万屋だ。
息を大きく吸い込み、吐く。次に目をぎゅっと閉じた。希菜子との思い出が頭に浮かぶ。
好きだった人に「恋愛的に見れない」と言われたショックで大好きなドーナツに少しも口をつけなかった事。熱でうなされてた固真梨の手を握りながら一晩中見守っていたせいで、次は自分が熱になってしまっていた事。
そして、三ヶ月前泣き笑いで「固真梨には幸せになってほしい」といい、固真梨を何かから庇って姿を消してしまった日の事。
希菜子の不幸せの上に成り立つ生活で幸せになれるわけないというのに。
ゆっくりと目を開けた。緊張で力んでしまっていた手には更に力が入っていた。でも今は緊張のせいなんかじゃない。
「よし」
固真梨は力が入った手とは別の方の手で案件型万屋とプリントされたプレートの下にあるインターホンを押した。