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「これが『さいご』だから」

「最後…?」

「ふふっ『さいご』。」










月曜日の朝、この時間だけはどうしても好きになれない。あと何回こうやって当たり前の日常をループすればいいのだろうか。そんな行き場のない愚痴を零しながら名残惜しく布団から出た。下から聞こえる笑い声に(皆起きてるんだな)と思いながら自室からでて一階のリビングへと向かう。冷たい床を裸足でペタペタ歩くと、先程まで重かった瞼が少しずつ軽くなっていった。リビングへ近づく度に朝食のパンの焼けた匂いが濃くなっていく。正直なところ匂いだけでお腹いっぱいだ。けれども食べなければ後から辛いのは自分で、ため息をつきながらリビングの扉を開いた。

「おはよう…」

眠い目を擦りながらそう呟く。後から聞こえる家族たちからの素っ気ない「おはよう」という声かけにすら日常を感じて、不機嫌とまではいかないが、気分が悪い。(これが厨二病か)なんて口にしたら絶対にからかわれるに決まってる。

机に置かれた真っ白なお皿にのったパン。今日は食欲がないのになと思いながらもそれを頬張れば、ふと窓から風が吹き込んだ。ほんのりと春の香り漂うも、まだ寒さが抜けきらないそんな三月の中旬。口に含んだ蜂蜜の甘さに少々鬱陶しくなりながら速めに咀嚼してパンを喉に通す。まだ余裕のある時間だが、特にすることもない。俺はその蜂蜜でベトベトする皿をシンクに入れついでに手を洗った。蜂蜜のベタベタする感覚はいくら洗っても落ちなくてもどかしくなった俺は荒々しくタオルを手に擦りつけるように拭った。


「あ…そろそろ…」

時計の針が投稿時刻の十分前を刺しており、読みかけの小説をパタンと閉じる。

「…今日もクソ先輩起きないのかな…」

独り言を呟きながらバッグ持って「いってきまーす」なんて言いながら家をでる。これくらいの時間がないとクソ先輩は起きない。絶対に。チャリをクソ先輩の家にとばしながら「今日の課題持ってきたっけ…」と呟いた。けれどもチャリは坂道で急に止まることは無理がある。ただ流れに逆らわずに不安を感じたまま下っていった。


課題の無事を確認したところでクソ先輩の家についた。

「はぇ…いつ見てもでけぇとこやな…」

こんなにでかいのに親がいないのかなんて言いながら敷地にズカズカと入る。無駄に整理された庭にいるチワワを軽く煽ったあと、チャイムを連打すればクソ先輩がドアから顔をのぞかせた。

「おはようございますクソ先輩。朝なのは分かります?」

「クソ先輩…w相変わらずやなぁ。朝なのくらい分かるわ!!」

そんなやりとりをした後にコネシマが今日は潔くでてきてくれたので「キャメル・クラッチは無しにしてあげます」と言えば

「昨日は死ぬかと思ったわ。あと五分って言ったらいきなりキャメル・クラッチされたもんやからな…」

「あなたその「あと五分」何回言ったと思います?」

「…三回…」

「嘘つけ十三回や。」

そう言えばいつものごとく大爆笑するクソ先輩。耳に木霊するようなでかい声で笑われて、何度鼓膜が千切れるかと思ったか。だからよくクソ先輩が口を開ける瞬間を見越して耳を塞ぐくせがついてしまった。多分、そのことを言ったら更にこの人は笑い転げるんだろうなと思いながらチャリをこいだ。


学校につけば「今日は速かったな」と嬉しそうに言う担任に「おはようございます」と頭を下げる。コネシマも続くが、「チッスチッス!」と頭をかきながら言っており、反省の色すら見えなかった。


教室に入ればいきなり後ろから抱きつかれる。大体人物を予想しながら振り返れば、そこにはチーノが泣きながらしがみついてきていた。

「どうしたんやチーノ」

「ふぇぇ…ショッピぃぃぃ」

「うわ汚っ!!鼻水つけんなや」

「課題忘れたぁぁぁ…」

「あぁ…お前の担任厳しいもんな…」

「どうしよー…」

それってワザワザ別クラスの俺に言いに来る必要あるか?と言えば、「幼なじみのお前だけなんだよ頼れるのはぁ…」と遠回しに課題見せてと言われてるのが分かって課題をチーノの顔面に叩き付けて今度こそはと席につく。窓側の一番隅の席はなんともいえない特別感に浸れるから好きだ。

(少しずつ咲いてきた桜も綺麗だし、今月の席替えここで良かったな)

窓から見える桜。ほんのりピンクに色づいてきた景色はそろそろ花粉が心配になってくる。すると、ふと桜の木に妙に葉の多いところを見つけ、(あれ?)と思いながらジッとそこに目を凝らして見た。






それは若草色のつなぎを着た人だった。

中性的な綺麗な顔立ち。

スタイルのいい体型。

ここの学校の人だろうか、



ふと風が吹き咲きかけの花が数枚流れるように散っていく。その時

「…!」

彼と目が合った。

驚いたように目を丸くした彼の目は宝石のようなエメラルドグリーン色で、時が止まったようにお互い見つめ合った。

もうずっと見つめていたい。そう思えてしまうほど美しい目。

周りの音が聞こえなくなって、

体感温度さえ感じなくなった。

先に我に返ったのは彼からだった。ハッと気づいたように肩を揺らしてフードを深く被ると、木から飛び降り、校舎の中へ入っていった。


すると、

ガンッ

頭に衝撃が走り振り返る。

そこにはニコニコと笑顔な担任の先生がいたが、目が確実に笑ってない。


俺は廊下に立たされる羽目になった。











『さいご』の三月。

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神ですね!

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