廊下での普段は絶望的な時間でさえ先程の人が気になってしまう。(友達になりたいな)なんて柄にもない考えが浮かび、ブンブンと首を振る。
脳内でその言葉を「話してみたいな」という言葉に変えてもう一度彼の目のことを考える。
エメラルドグリーンの透き通った瞳。
二重で紙と同じミルクティー色の睫毛がよく映える。
ハイライトは全てが星屑に見えてしまうほど綺麗に入り込んでおり、
白い肌にその大きな瞳。人形かと思うほど整っていた顔。
見れば見るほど綺麗なあの人。
もっと近くで、窓越しじゃない、本物を。
「「見たいなぁ」」
視点変更
先程同級生のコネシマやシャオロンに悪戯をしかけ、桜の木の上で様子を見ていた。咲き始めたばかりの花はなんだか爽やかな甘いような香りで、鼻歌でも歌いたくなるような暖かい木漏れ日に少しずつ眠くなってきていた。授業をサボってまでする悪戯?そんなの落とし穴に決まっとるやん。そこまでこってない悪戯がギャップでかかりやすいってもんよ。
そんな誰に言ってるか分からない脳内での説明を経てしばらくすると「ギャーー!!」という声が聞こえてきた。落ちたのかなと心躍らせながら木から下りようとしたとき、誰かの視線に気が付いた。風が吹いたとき、目にゴミが入らないように視線があったほうを向く。すると、
綺麗な薄紫の瞳の同年代くらいの男がこちらをジッと見つめていた。
思わず魅入ってしまうようなその薄紫の瞳は夜空をかき集めたような儚さと美しさを秘めていて、その縁を彩る濃いコーヒーの色をした睫毛が彼の顔の良さを引き立てていた。
その今まで見たことないような綺麗な人に思わず目を丸くした。
何秒、何分見つめていたか、ふっと我に返って落とし穴にを掘ったところへ急いだ。
案の定、コネシマが引っかかっており、頭をさすりながら「イタタ…」と言っていた。
「コネシマくん♪落とし穴の出来映えはどうかな?」
「どうもこうもあるかい!おかげで泥だらけや!!」
クスクス笑いながら手を貸して彼を落とし穴から引き上げる。彼は「はぁ」とため息をつきながらも、俺と目があった瞬間頭に響くような大声で笑い始め、俺も耳を塞ぎながら笑った。
「はぁ…もぅ…どうすんねんコレ…wお前を連れてこいって先生に言われて追いかけてたらこれや…ww」
「ふふっwしーらーん♪かかったのが悪いんや」
ニィッと笑えばコネシマは今度は少し気を使ってくれたのか声を抑えるようにクックッと笑っていた。
勿論帰ってくれば怒られた訳で、俺は先生に言われ職員室にある教材をコネシマと取りに向かわされた。
時たま愚痴り合いながらコネシマと話していたとき、ふと先程の男のことが頭に思い浮かんだ。
「なぁコネシマ。お前薄紫の目をした綺麗な男の人知っとる?ここの生徒やねんけど…」
「ん?あぁ、ショッピの事か」
「ショッピ?」
「あぁ。俺の幼なじみや。」
「へぇ…。どんなやつなん?」
「んーと、毒舌でロリコンでじゃじゃ馬みたいに金の使い方が荒いやつやな。あと脳筋そして人を煽ることが大好き…」
「…いいとこは…」
「強い……。顔がいい…」
「俺見た目だけに惚れた女みたいやん…」
「え?惚れたん?」
「んなわけあるか」
「あ、あと気がつかえる後輩やな。」
「あー、後輩…そういや確かに一年の教室やなあそこ。」
「え?お前ショッピ知ってたん?」
「いや…さっき窓から覗いてただけ。」
「ロリにでも間違われたんちゃう?」
「何それ屈辱…でもまた」
「「見たいなぁ」」
視点変更
急に誰かとハモって振り返る。すると、そこには先程の男の人がいた。しかしフードを被っていたため目が隠れてしまっていた。
「「!?」」
お互い驚きすぎて一歩あとに下がる。
「あれ?ショッピくんやん!」
そう言いながら雰囲気気にせずコネシマが俺の背中をバンバン叩く
「痛いですクソ先輩。やめてください」
「あ、そう言えばこいつがさっきお前に見られてたって言ってたけどロリにでも見間違えたん?w」
「違いますよ…」
呆れたように声を漏らせばコネシマは「ごめんってw」と笑いながらもう一度バンッと俺の背中を叩いた。
「あー、…あ、えーっと…」
モジモジしながらコネシマの後に隠れる彼に近づけば彼は肩をビクゥッと揺らしながら更に後に隠れる
「あはっwこいつ慣れてない人と直面するのほんまに苦手なコミュ障やからなww」
「クソ先輩どいてください今すぐそれください」
「物みたいな扱いやなぁw」
そう言うとコネシマは後にいるゾムをヒョイッと持ち上げて俺に手渡す。…軽い…
「はっ!?は、は?えっ!?ちょっ!?」
まるで病院にきた猫のように暴れる彼を必死になだめながらコネシマはゾムの頭をワシワシと撫でくり回す
「んじゃ、こいつゾムって名前なんで。」
「なんや俺猫の譲渡会にでもだされんの!?」
どうやら自分でも猫みたいな自覚はあったようで手足をバタバタさせながら必死に地に足をつこうとしているも、逆に軽すぎてこのまま俺が話したらどっかに飛んでっちゃうんじゃないかと心配になる。
「いやだー!!コネシマの裏切り者ぉぉ!!!」
「お前がショッピくんに会いたい的なこと言ってたからやろ!じゃ、俺はゾムは保健室に行ったとでも言っておくわ。」
「くそぉ!!!!」
そう言って自分の教室に戻っていくクソ先輩。今日は役にたつやん。
「うぅ…飼い主に捨てられる猫の気持ちがよく分かったわ…」
シュンっとするゾムさんをゆっくり地に下ろす。
「えーと、ゾムさんって言うんですか?」
「あ…ぇ…と、は、はい」
「あの、直球で申し訳ないんですけど、もう一度目を見せてもらえませんか?」
「な!?」
カァァァと頬を紅潮させるゾムさん。彼は崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「いやや…あの時やっぱ見られてたんや…」
「あ、あの…どうしました…?」
「自分の顔がコンプレックスなんに…」
そう言って手で顔を覆う彼。え?あのそこんじょそこらの女より綺麗な顔が?
「あの…超絶綺麗な顔が?」
「うぅ…お前に言われたくないわ…」
そう呟いて彼はフードを握り締めたまま立ち上がると、ポケットからメモ帳を出して何かを殴り書くとそのままグイッと胸元に押しつけられた。
「え…ゾムさんこれ…」
「俺の…電話番号…。」
「え…」
チラッと視線を下にずらせば殴り書いた割には綺麗な文字で数字が書かれていた。
「…」
「…」
「ゾムさん…」
「!」ビクッ
「ありがとうございます。」
「え?あ、ぁ…その…どういたしまして?」
「ふふっ、お互い目に惹かれるなんて不思議な関係っすね…w」
「!!そ、そうやな…」
彼は苦笑いを浮かべたが、しばらくすれば自然と笑いがこみ上げてきたのかふふっと微笑んでいた。
この出会いが俺の当たり前の日常の『さいご』への始まりだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!