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「ねえ……広坂さんのここ、おいしい」頬張ったままで彼女は口を動かす。「たまんない……」
勢いを取り戻させたのちに、彼女は、広坂の熱っぽい眼差しを受け止めたまま、パンティを脱ぐ。「……挿れるよ」
「ん……」
彼女の中心を貫く圧倒的な質量。満たされると満たされない彼女は、存分に腰を振った。着衣のまま。髪を乱して。肉と肉とのぶつかる音。蜜と精液が対決するとどちらが勝つか。そのようなことを思い、彼女は広坂と自分を導いていく。
彼女が絶頂に導かれると広坂は彼女を抱いたままくるりとからだを反転させ、思い切り、愛しぬく。そのやり方がここちよかった。
――いったい自分はどうしてしまったのだろう。『あれ』以来、広坂のペニスをしゃぶってばかりいる……家にいるあいだじゅうずっと。十回連続で到達出来る彼の底力に驚いたのかもしれない……そんなときに決まって女王様はささやく。
――あんただって相当な淫乱よ。この――淫売が。
平日は、広坂のペニスが思い浮かび、むずむずする。そのむずがゆさを持ち帰り、先ず帰宅すると一度抜く。それから、料理に着手し、結婚式を控えた彼女は最低限の処理を終えると広坂が帰宅するや否や、彼のパンツを脱がせ、彼を導く。それから姫抱きにされ、ベッドへと運ばれ、また彼を抜く。二回目。
だいたいそれから最低でも四度はセックスを行い、数え切れぬほどの到達を味わいこむ。それが、彼女にとって極上のディナーだ。時には、デザートも味わう。
広坂は、したいようにさせる方針らしい。仕事もあるから大変であろうが、辛抱強くつきあってくれる彼の心性に甘え、彼女は欲求を満たした。その爆発的な彼女の性欲に二週間ほど、沈黙を貫いていた彼であるが、八月に入ったばかりのある夜、帰宅すると彼は言った。
「オナニー、しているんだよね」
「ふぇっ!?」
「あなたって本当、嘘がつけない……」一度導かれたばかりのはずなのに彼の声は余裕だ。「匂いで分かるんだ。雰囲気かな。ねえ、そんなあなたのことをぼくは見てみたい……ぼくの前でしてみせて。いつものように」
「――広坂さんを想うだけであたし、濡れるの……不思議と会社だとここまではならないのに。家だとなにかの魔力が働いているのかしら……。
手は、こんなふうについて。
広坂さんのことを思い返しながら、あたしは先ず、トップスをまくりあげ、ブラをずり下ろし、乳首からするの……あなたの声を思い返しながら」
――広坂さん広坂さん! ああ、わたし……
――可愛いね夏妃。ぼくは、きみのことが可愛くてたまらないよ……ああおっぱいびんびん。ねえ、そんなに舐められるの好き? おっぱいでいけるえっちな夏妃。あなたのことが――大好きだよ。
「でも、指じゃ、物足りないの」ドアに手を添える彼女は、続いてパンティをずり下げ、自分の状態を確かめる。「この時点でもう、やばいの。とろっとろで……自分が淫らな人間だと、思い知らされる」
狭い場所で苦しくないのか? 広坂のことが気にかかるものの、彼女は言葉を繋いだ。「でもう、あたし、我慢出来ず、……触るの」
くちゅりと。
聞きなれた蜜音が彼女を刺激する。「先ずは、クリトリスを。そこを丹念に指で刺激しながら時折秘所の様子も確かめるの。ぱっくりとお口を開いて、……あたしは自分がどれだけ広坂さんを求めているのかを認識するの。ですぐに――挿れる。そんで三十秒くらいであたしはいっちゃうの。
でもあんまり激しいいき方はしないの。びくびくびくと……、三回収縮する程度で、広坂さんのペニスと比べると物足りないし、ああでも広坂さんはいつもこの感覚を味わってるんだなって指で確かめられるし、気持ちいいことは気持ちいい……でもなんだか無性にあなたのペニスが恋しくなる。指二本に増やしてみてもなんか違うの」
「極太ディルド、試してみればいいのに」
「……すぐ壊れちゃって」と彼女。「電池式のってやっぱ駄目ね。冷たいローターに比べるといいんだけど……あれ冷やっとするのね……あの感触があんまり好きじゃなくって。それで、やっぱり、結論はひとつなの。……いつでもどこでも、あなたのペニスが恋しい」
「そっか」黙って聞き入っていた広坂が腕組みをほどいた。「刺激が足りないんだね。よし、先ずはここでセックスをしようか」
「ここで!?」彼女は目を丸くする。ここを選ぶのは単に、自分の背徳感ゆえ……他に誰もいないのだから場所は本来、どこでもいいはずであるが。すると広坂は、
「ぼくたちのセックスって大体、ベッドか風呂場だろ? 或いは洗面所……。
いろんなところでセックスをしてみれば、また違うなにかが見えてくるかもしれない」
「そう、かな……」と悩みを見せた彼女であるが、「うん、そうする。広坂さんさえよければ」
――イメージして。
と背後にいる広坂は言う。「そう、いつも通り、ぎゅうぎゅうの山の手線に乗っているのを。がたんがたん……きみは、ぼくとからだを密着させている」
事実、彼はそうする。そうするといつも見ている光景が、彼女の眼前に広がる。目を閉じてインスピレーションを体現する。汗ばんだ匂い化粧の香り密集する存在感……。
「代々木に着いた。でもぼくたちは降りない。くるりとからだを回転させたきみに、後ろからぼくは抱きつく。その感じやすい耳にそっと囁くんだ」
――ここで、セックスしよう、と。
「そんな、と口にする前にぼくはきみの乳房を揉む。衣類越しでもきみの乳首はびんびんだ」実際に触って確かめる広坂。「やーらしいきみ。やらしいきみは、そこをするするなぞられるだけで変な気持ちになる。――だめだめだめ、声なんか出しちゃだめだと分かっているのに、感じやすいきみは声を抑えることに必死で、周りの男なんかに目が行かない。
男たちは、みんな、きみを、見ている。
おっぱい触られただけでおびただしく濡れる――きみのことをね。
――さあ、見せんとばかりにぼくはきみのカーブに触れる」すりすりと彼女の尻を撫でる広坂の手つき。触られるだけで実際、彼女はたまらない気持ちになる。「そして――いよいよぼくはきみのスカートの下へと手を滑り込ませる。
くちゅり。
周りの男みんなが聞き入っている……ああなんてえっちなんだって。これが夏妃なんだって……欲情する、燃えるような瞳で、覗き込んでいるんだよ。
――感じる? 夏妃……。
みんな、きみのことを、見ている。いつ、おれたちを満足させるエクスタシーを表現するのか。固唾を飲んで、見守っている……」
何故か、思いだされる。彼女の、自分に向けられる目線を。広坂と結ばれてから、明らかに周囲の目が、変わった。あの山崎でさえ、偶然出くわすとぱっと顔を赤らめ、目を逸らすほどだ。
「ぼくは、きみに触れ、きみがいかに潤っているのかを確かめる。……もどかしいね、パンティ越しだと……。ぼくは、もっともっと、きみのことが知りたくてたまらないってのに。おかしくなりそうだ。とうとうぼくは自分のベルトに手をかけ、自分のことを曝すと、きみのそこにあてがう。
パンティ越しの、ペニスに依る愛撫。たまらない気持ちになるはずさ。ねえ……たまらないよね」
「あ――んっ」ショーツ越しにかるく先端を入れられ、彼女はあえいだ。すると彼女の胸を包む広坂が、「駄目だよここは電車のなかなんだから。えっちな声――出しちゃ。みんなむらむらしちゃう……」
それでも、広坂は、止まらない。
「邪魔なパンティは外しちゃおう。見せつけるように膝に引っ掛けて……ああ垂れてるね。すっごい、垂れてる……ねえあなたってどうしてそんなに感じやすいの? そんなに、ぼくのことが好き……?」
「好き……愛してる」涙にふるえる彼女。「お願い、いますぐ、わたしのこと、めちゃくちゃにして……?」
「愛しているよ夏妃」彼女の髪に口づけるといよいよ広坂が――入ってくる。女の穴は男でしか満たせない。そのことを痛烈に実感する。
「ああ……あああ!」
「えっちだね夏妃。いっちゃった? いっちゃったんだね夏妃……。きみってすごく激しいいき方をするから気持ちがいいよ。あの男とうとう、自分をしごきだしたよ。きみのこんな姿を見せつけられて、たまらない気持ちになったんだね。――ね。動くよ?」
「やぁん、はん、あん……」リズミカルな抽挿をされる都度、彼女は泣きさけぶ。「だめ……こんなところで。あたしのこと、気持ちよくしないで? ああ、んっ……」
ぐりぐりと最奥をえぐられ、きゃああ、と彼女は悲鳴をあげた。「やぁん、だめ、そこ、そこ……指じゃ絶対届かないの。あなたじゃなきゃ、あたしを満足させられない」
恐ろしいほどの抽挿音が響く。こんなの……こんなことをされちゃ。みんな、見ている。写真を撮る者も。あの男は、一発抜いただけでは足らず、夏妃のエクスタシーを見ながらまた屹立したペニスをしごく。そこらでセックスを開始する男女もいるくらいだ。性欲は――伝播する。
その中心に自分たちがいることが――ここちよい。
広坂も、そうなのか。コントロールの出来るはずの彼だが、射精は早かった。とうとう彼女はからだを反転させ、彼に跪くと彼を貪った。大好きな大好きな広坂のペニス。あたしのことを気持ちよくしてくれる、唯一無二の武器。狂気を宿すそこは、電灯の下できらきらと光っていた。
我慢出来ない。すかさず貪った。広坂がすぐに、自分のなかで大きくなる。それとともに、ますます広坂への愛情が彼女のなかで膨らんでいく。どんな努力をしても壊れることのない、風船のように。
広坂は、射精した。思いっきり顔から浴びた彼女は、精液まみれになりながらまたも広坂を求めた。うなだれていた彼であるが、挿れられれば勢いを取り戻す。限られた空間で彼女は必死に腰を振った。
絞られるほどの性欲を吐き出す。無尽蔵の体力に驚かされる。風呂に入ると背後から広坂が――抱いた。
「おっぱいびんびん」と彼は笑った。「すごいね、触られるだけでこうなるんだね。女のからだは―ー宇宙だ」
同じことを彼女も考えていた。広坂と結ばれたあのとき、彼女はあまたの星が流れるひかりの海を見た。七夕の景色。美しいものとして、どこまでも彼女のこころを照らし出している。広坂の存在同様。
背後からすっぽり包まれ、彼女は安堵を覚える。こころも、からだも、すべて広坂のもの……。そう考えると急に、自分のからだが愛おしくなってきた。彼女は、広坂の手に自分のそれを重ねた。彼女のうなじに口づける広坂は、
「……いろんな、バリエーションがあるんだよ。方法もある。自分の可能性を限定しないで、いろいろとトライしてみるといい。冷たい、と思い込むから冷たいんであって……そうだな、電子レンジはまずいかな。風呂を沸かしてあたためておくとかあたたかいタオルで包むとか……ディルドを自分で前後させるとか。セックスは、アナログだ。アナログの行為を再現出来ないはずがないんだよ……AQUAの言う通りで、イマジネーションは、無限だ。
自分の可能性を限定しないで夏妃。
きみは、いつでも、自由なんだよ……愛しい夏妃。可愛いきみが、ぼくは大好きだよ……」
「譲さん……」触れるだけのこのとき。激しいセックスなどなくとも、彼女は満たされていた。お金で買えないものがこの世にはあるのだ。お金でしか買えないものもあるけれど、それはそれ。
広坂の愛情に浸りながら湯に漬かる。細胞の隅々に渡るまで、彼の愛に満たされている気がしている。セックスは価値観を変える。もともと異なる価値観をすり合わせ、相手のものを取り入れ、すりばちのように擦っていく……そのプロセスを我々は結婚と呼ぶ。そのプロセスの只中にいる彼女は同じ時代に生まれ、同じ時間を生きることへの幸せを――広坂という尊い命に巡り合えた幸せを、ただ実感していた。
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